カルマンフィルター
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/22 10:07 UTC 版)
カルマンフィルター (英: Kalman filter) は、誤差のある観測値を用いて、ある動的システムの状態を推定あるいは制御するための、無限インパルス応答フィルターの一種である。
実用例
カルマンフィルターは、 離散的な誤差のある観測から、時々刻々と時間変化する量(例えばある物体の位置と速度)を推定するために用いられる。レーダーやコンピュータビジョンなど、工学分野で広く用いられる。例えば、カーナビゲーションでは、機器内蔵の加速度計や人工衛星からの誤差のある情報を統合して、時々刻々変化する自動車の位置を推定するのに応用されている。カルマンフィルターは、目標物の時間変化を支配する法則を活用して、目標物の位置を現在(フィルター)、未来(予測)、過去(内挿あるいは平滑化)に推定することができる。
歴史
このフィルターはルドルフ・カルマンによって提唱されたが、同様の原理はトルバルド・ティエレとピーター・スワーリングによってすでに開発されていた[1]。カルマンがアメリカ航空宇宙局のエイムズ研究センターを訪問した際、この理論がロケットの軌道推定に有用なことに気づき、のちのアポロ計画で用いられた。
用いられる動的システム
カルマンフィルターは時間領域において、連続時間線形動的システム、もしくは離散化された離散時間線型動的システムに基づいて駆動する。以降に導入される解説は、後者の立場のものである。それらはガウス白色雑音によって励振をうける線形演算子からなるマルコフ連鎖モデルで表現される。より端的にいえば、システムは状態空間モデル (state space model) で表現されるということである。
対象のシステムに定義された「状態 (state)」は、そのシステムの過去の動特性の遷移を保持する役割を果たし、動特性の遷移を保持する線形空間が状態空間として定義される。この空間は実数空間であるため、システムの状態は一般に、任意の次元の状態空間に含まれる実数ベクトルとして与えられる。状態の変化は、現在の状態と、それに付加する雑音の影響と、場合によってはシステムの状態の制御に関与する既知の制御入力の線形結合によって記述される。したがって、状態はシステムの因果性に寄与する存在である。上記の理念は、以下に記述する状態方程式 (state equation) によって表現される。 状態が直接観測できない場合には、システムの出力は一般に状態と観測雑音の線形結合にて観測可能なものとして与えられる。この理念は観測方程式 (observation equation) として、以下に示すような線形モデルで表現される。 カルマンフィルターは、直接システムの状態が観測できない問題に対する状態推定法のひとつであるから、一般的に観測方程式を伴う問題に適用される。
カルマンフィルターは隠れマルコフモデル (hidden Markov model) の類似であると考えることができる。2者の主たる差異は隠れマルコフモデルにおける状態変数が、連続であるか離散であるかである。また、隠れマルコフモデルでは状態変数の未来への変化を任意の分布に従う形式で統計的に与えることができる一方で、カルマンフィルターでは、ガウス分布に従う雑音によって未来の状態変数が統計的に記述される点が異なっている。したがって、カルマンフィルターと隠れマルコフモデルの間には強固な双対性が存在する。ちなみに、カルマンフィルターの導出過程においては、「システムに付随する雑音の性質はガウス分布に従う」という仮定の下に行われるのが一般的であるが、雑音の性質がガウス分布に従わない場合であっても、カルマンフィルターは線形なクラスにおける最適推定値、すなわち線形最小分散推定値を導くことができる点で、汎用性に富んでいるといえる。
唯一に観測可能である、雑音の影響を受けた出力過程に基づいて(制御問題においては、入力も観測可能な過程となる)、カルマンフィルターを用いてシステムの状態を推定するためには、対象のシステムに対して、カルマンフィルターの理念に合致するような状態の遷移(すなわち状態過程)に関するモデルを与えなければならない。これは、時変 (time-variant) な行列
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