百夜(ももよ)通い
『奥義抄』(藤原清輔)下 男が女のもとを訪れて求愛する。女は榻(しぢ=牛車の轅を載せる台)を置き、「貴方が、この榻の上に百夜続けて寝るならば、私は貴方のものになりましょう」と言う。男は雨の夜も風の夜もやって来て、榻の上に寝る。毎夜、榻の端に印をつけ、その数が99になった。男は「明日からは、私を拒むことはできますまいよ」と女に念を押して帰ったが、親が急死したため、男は百日目の夜に女のもとへ行けなかった。
『卒都婆小町』(能) 深草の四位の少将が小野小町を恋し、小町の家の牛車の榻のもとへ、毎夜通う。百夜通えば、小町は少将の愛を受け入れるはずであった。しかし99夜目に、深草の少将はにわかに胸の苦しさをおぼえ、あと1夜を待たずして息絶えた〔*百歳になった老小町に、深草の少将の霊がとりつく。老小町は旅僧の前で、百夜通いのありさまを語りつつ舞う〕。
『ニュー・シネマ・パラダイス』(トルナトーレ) 兵士が王女に恋をする。王女は「百日間、昼も夜も、私のバルコニーの下で待っていてくれたなら、あなたのものになりましょう」と言う。雨の日も風の日も、兵士はバルコニーの下の椅子にすわり続ける。しかし99日目の夜、兵士は椅子から立ち上がり、去って行った〔*映写技師アルフレードが、恋に悩む青年トトに語る物語。「なぜ兵士が去ったか、わしにもわからん」とアルフレードは言う〕。
★3.人を雇って百夜通いさせる。
『鹿の子餅』「通小町」 公家の姫君に恋した男が、「百夜通えば逢おう」との返事を得て、雨の夜も風の夜も通う。99夜目に腰元が、「姫様が1夜ぐらいまけてあげますとの仰せ。御寝間へ」と誘うと、男はうろたえ「私は日雇いです」と言った。
★4.百夜通いの恋が実る。
『男はつらいよ』(山田洋次)第42作「ぼくの伯父さん」 満男が泉に逢おうと、遠い佐賀まで行く。逢ってすぐ帰ろうとするので、寅次郎が「深草少将の百夜通い」の話をして、満男を諭(さと)す。「小野小町に恋した深草少将は、京都極楽寺坂の小町の屋敷へ、百日百夜通いつめた。ただうろうろしていたんじゃない。気のきいた三十一文字(みそひともじ)を書き記して、郵便受けにポトリ。これが小町の心を動かした。百日目の夜に恋が実ったというお話だ。お前も、せめて5日か10日、その乙女の所へ通ったらどうだ」。
★5.女の百夜通い。
海を通う女の伝説 伊豆山の大工が3里沖の初島の娘から思いを寄せられ、「伊豆山まで百晩通ったら妻にしよう」と約束する。娘は毎夜、湯野権現の燈明を目当てに泳いでやって来て、99夜が過ぎる。大工は気味悪く思い、百夜目に燈明を消す。翌朝、娘の死体が浜に上がるが、それは鱗の生えた蛇体であった(静岡県熱海市初島)。
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