P-T境界
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/10 10:19 UTC 版)
絶滅からの生物多様性回復の遅れ
過去のすべての大絶滅事件の後には、絶滅した生物種に代わって次世代の生物が繁栄して生物多様性が回復した。たとえばK-Pg境界では恐竜に代表される大型爬虫類のほとんどが絶滅した後、数十万年[64][65]で哺乳類や鳥類が多様性をもたらした。P-T境界において生物多様性の回復は非常に遅れ[66]、400万年後においても種の数が回復せず、本格的に回復したのは約1000万年後[64]である。生物多様性の回復が遅れた原因は、P-T境界後も引き続き地球環境が生物の生存に対して厳しい条件にあった可能性が考えられる[67]。
化石として見つかる種の数が少ない
アメリカのテキサス州のペルム紀の海洋地層では底生生物数千種、そのうち巻貝が数百種が確認されているが、ユタ州の砂岩・石灰岩地帯で採取される大絶滅後の三畳紀初期の地層には底生の生物22属、巻き貝化石の種類は9-10種類しか見つかっていない[68][69]。また世界各地の三畳紀初期の地層には二枚貝の「クラライア」や腕足類の「リンギュラ」のみが数百万以上かたまって見つかる場合も多い[70]。この2種類は通常は低酸素条件下に生息する生物で、当時の浅海は引き続き低酸素状態であった可能性が示唆されている[71]。さらに上記スーパーアノキシアがP-T境界後も約1000万年間継続していることと整合している[72]。
またクラライアやリンギュラの同一種は、ユタ州、北イタリア、イラン、中国南部、日本でも三畳紀初頭の化石の主体として確認されており[73]、この期間は種の多様性が著しく低下していた。クラライアやリンギュラは他の生物が出現し始める前期三畳紀の終わりにはまれにしか見つからなくなる[74]。
ストロマトライトの繁栄
ストロマトライトは原生代に繁栄した微生物群集によって構築された堆積岩でありカンブリア紀以後姿を消していたが、三畳紀初頭の海洋で広範囲に分布していた。ストロマトライトは現在でもオーストラリアのシャーク湾等で見ることができるが、捕食者に対する防御に欠けるため他の生物が生息できない条件[75]で生きている。この三畳紀初頭のストロマトライトの化石がドイツ[76]・アメリカ西部・トルコ・グリーンランド・中国南部・イラン・日本で見つかっており、400から500万年の間浅海で繁栄していた[77]。この期間の海洋においてストロマトライトを捕食する生物が激減していたと考えられる。
植物の状況
上記のように前期三畳紀の地層からは今のところ石炭が見つかっていない。石炭の元となる泥炭地の植物が激減したと思われる[78]。オーストラリアの三畳紀初頭の地層からは小さいミズニラ、背の低いヒカゲノカズラ、種子シダ、トクサ、少数の針葉樹が見つかっている。特にミズニラ類のアイソエステは13の新種が前期三畳紀の湿地・氾濫原・砂漠などに広がった。当時熱帯に位置していたヨーロッパでもミズニラはヒカゲノカズラとともに主要な植物であった。これら前期三畳紀に特有な植物から中生代を代表する針葉樹に植生が変るのはオーストラリアとヨーロッパでは中期三畳紀の始め、中国では中期三畳紀の後半であった[79]。
- ^ 三畳紀の始まりはコノドントの種ヒンデオダス・パルヴスの化石で規定される、「大絶滅」P279
- ^ 「大絶滅」P278
- ^ シカゴ大学のセプコスキの計算では最大96%の種が絶滅した。「生命と地球の歴史」P137
- ^ 「大絶滅」P8
- ^ 「生命と地球の歴史」P137
- ^ a b 「大絶滅」P153
- ^ 「生命と地球の共進化」P207
- ^ a b 「大絶滅」P10
- ^ Stanley,S.M., and X.Yang.1994."A double mass extinction at the end of the Paleozoic era."Science 266:1340-44
- ^ 「生命と地球の共進化」P213
- ^ この地層はペルム紀末から三畳紀にかけての国際模式層序地 (GSSPs) に指定されている。
- ^ この火山灰は、当時煤山の近くにあった火山の爆発的な噴火により供給されたもので、シベリア洪水玄武岩のものではない
- ^ 「大絶滅」P72、元データはBowring,S.A., D.H.Erwin, Y.G.Jin, M.W.Martin, K.L.Davidek, and W.Wang. 1998. "U/Pb zircon geochronology and tempo of end-Permian mass extinction.2 Science 280:1039-45
- ^ 火山灰中のジルコン結晶に含まれるウラン・鉛分析の結果から算出。
- ^ 「大絶滅」P95
- ^ Haijun Song; Paul B. Wignall; Jinnan Tong; Hongfu Yin (2013). “Two pulses of extinction during the Permian-Triassic crisis”. Nature Geoscience 6 (1): 52-56. doi:10.1038/NGEO1649.
- ^ 参考文献中ではアンモナイトとアンモノイドの表記が混在しているが、この項ではアンモナイトに統一して表記する
- ^ 「大絶滅」P108
- ^ 「大絶滅」P110
- ^ 「大絶滅」P111
- ^ 「大絶滅」P121
- ^ 「大絶滅」P114
- ^ 「大絶滅」P119
- ^ 「大絶滅」P122
- ^ 「大絶滅」P118
- ^ 「大絶滅」P123
- ^ 「大絶滅」P124
- ^ 「大絶滅」P126、元の論文は Bambach, R.K., A.H.knoll, and J.J.Sepkoski,Jr.2002."Anatomical and ecological constrains on Phanerozoic animal diversity in the marine realm."Proceedings of the National Academy of Science,USA 99:6854-59
- ^ 既に絶滅に近い状態にまで衰退していた三葉虫・ウミサソリ類・棘魚類などはこの時に完全に絶えてしまった。
- ^ 「大絶滅」P127
- ^ 「大絶滅」P146
- ^ 「大絶滅」P141
- ^ 「大絶滅」P160
- ^ 「大絶滅」P156
- ^ 「大絶滅」P155
- ^ a b 「大絶滅」P44
- ^ 「大絶滅」P217
- ^ 単純な計算から溶岩の平均厚さは約600mである。
- ^ 「大絶滅」P43
- ^ Nikihin, A.M., P.Ziegler, A.D.Abbott, M.Brunet, and S.Cloetingh. 2002. "Permo-Triassic intraplate magmatism and rifting in Eurasia: implications for mantle plumes and mantle dynamics." Tectonophysics 35:2-39
- ^ Renne,P.R., Z.C.Zhang, M.A.Richards, M.T.Black, and A.R.Bass.1995."Synchrony and casual relations between Permian-Triassic boundary crises and Siberian flood volcanism." Science 269:1413-16
- ^ 「大絶滅」P99
- ^ 「生命と地球の歴史」P147
- ^ Courtillot.V., and P.R.Renne. 2003. "On the ages of flood basalt events." Compte Rendu Geosciences 335:113-40
- ^ 硫酸エアロゾルは火山灰に比べて大気中に長期に滞留し、地球に入射する太陽光を反射したり吸収したりして地上に届く太陽エネルギーを減少させ、大気温度を低下させる。高橋正樹 『破局噴火』詳伝社新書 2008年 P182
- ^ 歴史に残る玄武岩質の火山噴火で最大のものは1783年のアイスランドのラキ火山の噴火であるが、8ヶ月間に12立方kmの溶岩と大量の硫黄を噴出した。この硫黄は空気中で酸化されヨーロッパ大陸を青い霧「ブルーヘイズ」で覆い、ヨーロッパに低温化と深刻な飢饉をもたらした。
- ^ 「大絶滅」P191
- ^ 「大絶滅」P192
- ^ 「大絶滅」P100
- ^ 「生命と地球の歴史」P142
- ^ 「生命と地球の共進化」P211
- ^ 「地球環境46億年の大変動史」P121
- ^ 「大絶滅」P74
- ^ 12Cと13Cの比率は98.892:1.108 である。このほかに数千から数万年単位の遺跡の年代分析に使われる放射性元素の14Cがごく微量に存在する。
- ^ 標準サンプルは白亜紀ピー・ディー類層の頭足類ベレムナイトの化石
- ^ 二酸化炭素の供給源である火山ガスの現在のδ13Cは-5‰程度、表層海水が約2‰である
- ^ 「大絶滅」P179
- ^ 「大絶滅」P190
- ^ Archaeageddon: how gas-belching microbes could have caused mass extinction(Nature:2014)
- ^ Beckerらが2004年のScienceへ投稿したベドー構造など
- ^ 「地球環境46億年の大変動」P169-P192
- ^ 「絶滅恐竜からのメッセージ 地球大異変と人間圏」P173 松井孝典 2002年 ワック株式会社 ISBN 978-4-89831-507-1
- ^ この煤については、メキシコ湾の海底に存在していた石油が燃焼した可能性があるという指摘もある。「再現!巨大隕石衝突」 P94
- ^ a b 「生命と地球の歴史」P156
- ^ 「大絶滅」P16
- ^ Ecosystem Recovery after Mass Extinction Slow(Jane Bradbury:2008)
- ^ 「大絶滅」P233
- ^ 「大絶滅」P1
- ^ 「大絶滅」P232
- ^ たとえばアメリカ西部の前期三畳紀のデインウッディ累層の全化石のうち49%がリンギュラである。「大絶滅」P239
- ^ 「大絶滅」P52
- ^ 「大絶滅」P53
- ^ 「大絶滅」P2
- ^ 「大絶滅」P239
- ^ シャーク湾は雨の少ない熱帯にある湾で水の蒸発が激しく塩分濃度が濃いため他の生物が生息できない「生命と地球の歴史」P90
- ^ 原生代の代表であるストロマトライト化石は、ドイツの三畳紀初頭の地層から発見された。「大絶滅」P238
- ^ 「大絶滅」P238
- ^ 「大絶滅」P247
- ^ 「大絶滅」P245-P247
- ^ 2億4500万年前の大絶滅
- ^ 謎の大絶滅:P-T 境界
- ^ 化石のこばなし 生物の大量絶滅—P/T境界とK/Pg境界
- ^ 四国の北部秩父帯チャート相上部ペルム系の微化石層序
- 1 P-T境界とは
- 2 P-T境界の概要
- 3 絶滅からの生物多様性回復の遅れ
- 4 日本国内におけるP-T境界
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