香港特別行政区基本法 香港基本法に対する解釈権とその行使事例

香港特別行政区基本法

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/09 02:31 UTC 版)

香港基本法に対する解釈権とその行使事例

香港基本法に対する解釈権は、全国人民代表大会常務委員会にある。全人代常務委員会の下には香港基本法委員会があり、必要に応じてその意見が求められる。香港域内の裁判所は域内の問題について解釈できる。しかし、中央政府との関係にかかわる問題については最終審にいたるまでに、香港終審法院が全人代に解釈を要請しなければならない。ただし、その場合でも香港において過去の出た判決と矛盾することになっても、その過去の判決まで覆されることはない(基本法第158条)。

ところが、返還後に全人代常務委員会による基本法への解釈を、終審裁判所ではなく、香港政府が2回にわたって要請した。居住権問題をめぐる過去の判決を覆すことが狙いであり、全人代常務委員会も香港政府の望むとおり、解釈において一度出た判決を覆したのである。こうした事例は、香港における法の支配を脅かすものだとの批判がある。

解釈権の行使事例

1999年の香港居住権問題
基本法第24条第3項は、同第1項および第2項で規定された香港住民が香港域外で設けた中国国籍の子女を香港住民として規定している。従って文字通り読めば、中国大陸(本土)で生まれた香港人の子女には、香港住民として香港での居住権(永住権)が与えられるはずであった。しかし、中国大陸には主に香港人男性の婚外子が少なくない。1999年の香港政府による推計では約167万人いるといわれる(ただし、推計方法が不正確だと批判された)。彼らが香港へ大量に移住するのを防ぐため、中央政府および広東省は彼らに香港移住の許可(「単程通行証」=本土に帰る必要のない片道切符の意)を与えず、香港政府もその永住権を認めなかった。
こうした中国大陸の香港人「子女」の中には、香港への一時渡航許可(「双程証」=大陸に戻らなければいけない往復切符の意)で香港に来てオーバーステイし、香港の裁判所で永住権の有無を争うケースが多い。1999年に香港の裁判所が、香港人と大陸住民の間に生まれた子女にも香港永住権を認める判決を下した。そのため、大量移住を恐れた香港政府は、全人代に解釈権の行使を要請した。その結果、全人代は当該判決が基本法の解釈に当たるため、香港の裁判所による判決は無効であり、また香港人と大陸住民の間に生まれた子女の香港永住権資格について縮小解釈を行った。
2004年の行政長官および立法会の選出方法の直接選挙化問題
香港の民主派は、2003年7月1日の基本法第23条立法化反対デモにおいて多数の参加者を集め、区議会選挙でも勝利を収めた。その勢いを借りて、不人気な董建華行政長官の退陣と次期行政長官および立法会全議席の直接選挙実施を要求した。これをくじくため、全人代常務委員会は自ら基本法の解釈を行い、基本法付属文書一と同二は、2007年以降に行政長官と立法会の選挙方法を変更できるが、それには所定の手続きが必要であると指摘した。その上で、さらに2007年行政長官選挙と2008年立法会選挙では直接選挙を行わないとの解釈を下した。
ただし、これは法解釈というよりも、全人代常務委員会の意思表示という意味合いが強い。つまり、基本法の改正において、全人代は報告を受けることになっているが、これは事実上の拒否権に相当するからである。基本法が香港域内での立法でない点や、全人代が立法(改正権)と司法(法解釈権)を持つ弊害があらわになった事件であった。(全人代常務委員会による解釈
2005年の任期途中で退任した行政長官の後継者の任期問題
2002年に再選された董建華行政長官は、任期を2年残して2005年3月に辞任した。そのため、後任の行政長官を決める選挙が行われることとなったが、後任の行政長官の任期について、前行政長官の残り任期(2年)なのか、それとも通常の任期である5年なのか、基本法には明確な規定がなかった。そこで香港政府は同年4月6日に全人代常務委員会に解釈を要請し、同27日に後任の行政長官の任期を前任者の残り任期である2年とする解釈が出された。

返還前における事実上の解釈事例

基本法第160条は、原則として返還前に制定された既存の法令を有効なものと認めているが、全人代常務委員会が基本法違反と認定した場合は無効とすることが定められている。返還前の1997年2月、全人代常務委員会は、中国当局の意向に沿わない香港の法令を基本法に抵触すると認定し、無効にすることを決定した。無効となったのは、人権条例や議会(立法会、市政局区域市政局区議会)の選挙に関する法令などである。

既存の法令の無効に伴い、香港立法会による改正や新たな立法が必要となる。ただし、返還前の立法局議員を追放し、保守派や左派による推薦委員会が選出した返還後の立法会を選出していた。そのため、香港での立法作業に滞りが発生しないことを見込んだ上での処置であったと言える。(全人代常務委員会 香港基本法第160条に基づく既存法令の処置に関する決定草案についての説明


注釈

  1. ^ 2021年2月9日、「リンゴ日報」創業者、黎智英氏裁判についての、終審法院の判例文から。「全人代および全人代常務委の立法行為としての香港国家安全維持法は、香港基本法または香港に適用される国連自由権規約との不一致の申し立てにもとづく審査の対象とならない。」
  2. ^ ただし2002年と2005年は、選挙委員から100名以上の指名を集める対立候補がなく、現職の無投票当選となった。
  3. ^ 2014年の雨傘運動は、2014年の全人代常務委の改正案、「2017年以後は普通選挙とするが、指名委員会の過半数の指名を立候補条件とする」という案に反対する運動だった。この案は2015年の立法会で否決された。しかし無条件の普通選挙にもできず、基本法付属文書の改正はされなかった。
  4. ^ 2020年の香港国家安全維持法によって反対運動を鎮圧した。
  5. ^ 新型コロナ対策という理由で2020年選挙は2021年に延期。その選挙前に改正。
  6. ^ この選挙委員会は行政長官選挙委員会と同一。選挙委員会による議員選出は、2000年の選挙以後なかったが、復活させた。

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