護衛艦 塗装と標記・標識

護衛艦

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/16 01:47 UTC 版)

塗装と標記・標識

海上自衛隊では、日本海軍の用語を踏襲して、船体などの塗装を「塗粧」と称する[50]。船体は、吃水線のところで船底塗料と外舷塗料で塗り分けており、この区別する線を塗別線と称する[50]。塗料の素材としては、従来は上部構造物と船底部は油性塗料、水線部は塩化ビニール樹脂性塗料が用いられていたが、後に水線部・船底部は塩化ゴム系塗料に変更された[51]

船底塗料は、防食と防汚の両目的から2種類の塗料が用いられており、防食のための船底1号塗料を下塗りとして、そのうえに生物や海藻類付着を防ぐための船底2号塗料を上塗りするかたちとなる[51]。その色は、一般的に市中で用いられる鉄骨の錆止め色とほぼ同じ茶褐色である[50]。また護衛艦は、塗別線の下に幅2メートルの黒帯が塗装される[50]。その上方では、船体の舷側と構造の立面が灰色(マンセル記号N-5)、露天甲板が暗灰色(マンセル記号N-4)とされてきた[50][51]。また煙突外面頂部や、マストで排煙による汚れが関係する範囲については、上塗りとして、油性フタル酸樹脂エナメル半つや黒(マンセル記号N-2)を2回塗装することとされていた[51]

これらについては「海上自衛隊の使用する艦船等の塗粧及び着標に関する訓令」(昭和32年海上自衛隊訓令第35号)、「艦船等の塗粧及び着標に関する達」(昭和44年海上自衛隊達第55号)で規定されているが、これらが2019年(令和元年)11月28日付けで改正されたことで、順次にロービジ(「ロービジビリティ」Low-visibilityの略[注 5])塗装への変更が進んでいる[52]。その内容としては、上記の煙突頂部の黒帯の廃止、艦番号及び艦名の灰色化かつ陰影の廃止、飛行甲板もしくは艦橋上の対空表示(航空機に対し艦番号下2桁を表示するための塗装)の消去である[53]。2023年1月上旬の時点で、全護衛艦49隻のうち42隻がロービジ化されていた[52]

なお、海上自衛隊の発足当初の保有艦艇は上記の通りアメリカ海軍からの貸与艦が多かったことから、アメリカ海軍所属の同型艦と区別するため、自衛艦の舷側には平仮名で艦名が標記されていた[50]。しかし海軍時代に用いられていた片仮名と比べて曲がりくねって判読しづらいとの指摘があり、国産艦が増えてアメリカ艦との区別の必要がなくなると、経費や手間の削減の意味もあって、1969年6月1日付けの訓令でこの標記は廃止となった[50]


注釈

  1. ^ KはHunter-Killer(HUK)に由来する。なお当初は、アメリカ海軍のカーペンター級駆逐艦に倣った「DDE」という記号が用いられていた[12]
  2. ^ 民間の文献では「大型汎用護衛艦」とも称された[16]
  3. ^ 艦内の防水扉等の閉鎖は、一部閉鎖の警戒閉鎖と、完全閉鎖の非常閉鎖がある
  4. ^ 写真は幹部居室。曹士の居室には固有の机などはなく、3段ベッドの艦も多い。
  5. ^ 自衛隊公式SNS等で「ロービジュアル」との記載があるが、これを訳せば「低い視覚」「低画質」などとなり文法的におかしく、正しい軍事用語としては「ロービジビリティ」(訳:低視認性)が存在し、各種文献にも「ロービジュアル」の記載がないことから、誤植と判断する。

出典

  1. ^ 海上幕僚長 (30 March 2020). 海上自衛隊の部隊、機関等における英語の呼称について (PDF) (Report). p. 15.
  2. ^ 護衛艦』 - コトバンク
  3. ^ Wertheim 2013, pp. 360–369.
  4. ^ Saunders 2009, pp. 417–427.
  5. ^ 防衛庁長官 江崎真澄 (24 September 1960). "別表第1". 海上自衛隊の使用する船舶の区分等及び名称等を付与する標準を定める訓令 (PDF) (Report).
  6. ^ 海上幕僚監部 1980, ch.2 §1 概説.
  7. ^ a b c d e f 高須 1984.
  8. ^ 香田 2015, p. 36.
  9. ^ a b c 海上幕僚監部 1980, ch.4 §8 ミサイル装備艦の建造に着手/1次防艦の建造.
  10. ^ 政策ごとの予算との対応について”. 2024年3月9日閲覧。
  11. ^ a b 海上幕僚監部 1980, ch.2 §9 艦艇建造のれい明期/国産艦の建造.
  12. ^ a b c d 牧野 1987, pp. 299–328.
  13. ^ a b c 海上幕僚監部 1980, ch.3 §10 長船首楼(ろう)艦の誕生/30年代初期国産艦の建造.
  14. ^ a b 海上幕僚監部 1980, ch.5 §10 多用途護衛艦の登場/2次防艦の建造.
  15. ^ a b c d e 海上幕僚監部 1980, ch.6 §13 翼を備える護衛艦/3次防艦の建造.
  16. ^ 丸スペシャル 海上自衛隊艦艇シリーズ 護衛艦たかつき型★No.57/1981.11
  17. ^ a b 海上幕僚監部 1980, ch.7 §12 国産艦の世代交代始まる/4次防艦の建造.
  18. ^ a b 長田 1995.
  19. ^ a b c d e f 海上幕僚監部 2003, ch.2 §7 システム化進む国産艦/ポスト4次防艦の建造.
  20. ^ 香田 2015, pp. 188–207.
  21. ^ 香田 2015, pp. 224–231.
  22. ^ 海上幕僚監部 2003, ch.2 §12 新たな体制への移行/08中防計画艦.
  23. ^ 香田 2018.
  24. ^ Willett, Dr Lee (2024年6月26日). “Japan Sets Course for New 13DDX Air Defence Destroyer” (英語). Naval News. 2024年7月16日閲覧。
  25. ^ 香田 2015, pp. 67–68.
  26. ^ 香田 2015, pp. 118–123.
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  28. ^ 山崎 2017.
  29. ^ 防衛庁技術研究本部 1962, p. 102.
  30. ^ 香田 2015, pp. 210–213.
  31. ^ a b c 海上幕僚監部 2003, ch.5 §10 待望の艦隊防空能力の向上なる/61中防計画艦の建造.
  32. ^ a b 山崎 2014.
  33. ^ a b c d 池田 2019.
  34. ^ 防衛装備庁取得プログラムの分析及び評価の概要(新艦艇) (PDF)
  35. ^ “艦種記号「FFM」新設 多機能化の30護衛艦に適用”. 海上自衛新聞 (第2610号): p. 1. (2018年4月6日) 
  36. ^ 海上幕僚監部 1980, ch.6 §6 態勢を整える地方隊/地方隊の改編.
  37. ^ a b c d e f g h i 渡邉 2005.
  38. ^ a b c d e f g h i j k l 海上自衛隊 1972, 別表(第2条関係).
  39. ^ a b 海上幕僚長 2013, p. 47.
  40. ^ a b 海上幕僚長 2013, p. 70.
  41. ^ 海上幕僚長 2013, p. 68.
  42. ^ 稲葉 2014.
  43. ^ 海上幕僚長 2013, p. 48.
  44. ^ a b c 海上幕僚長 2013, pp. 71–72.
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  46. ^ 海上幕僚長 2013, p. 71.
  47. ^ a b c d e f g 渡邉 2009.
  48. ^ 海上幕僚長 2013, p. 51.
  49. ^ 佐藤常寛 (2010年6月5日). “佐藤常寛氏(海上自衛隊元海将補)インタビュー”. 2020年12月29日閲覧。
  50. ^ a b c d e f g 森 1989, pp. 118–125.
  51. ^ a b c d 岡田 1997, pp. 240–252.
  52. ^ a b 松本 2023.
  53. ^ イカロス出版 2021.


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