能代役七夕 補遺

能代役七夕

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/17 15:32 UTC 版)

補遺

灯籠について(詳説)

役七夕の灯籠各部説明
天空の不夜城『嘉六』の各部説明

概要節で述べた通り、能代の七夕灯籠は、後に鯱の大型化という変遷を辿ったものの、その形態は城郭型が基本である。この城郭型灯籠は、天保期に地元の大工、宮腰屋嘉六が制作した名古屋城天守を模した七夕灯籠が好評を博したことから以後定着したと伝わり、「嘉六」は「天空の不夜城」の灯籠にその名をとどめている。

ところで、能代の七夕灯籠が城郭型に収れんされた時期を、明治後期とする見解がみられる[注釈 16]。これは明治中期に能代に来遊した放浪画家、蓑虫山人(本名:土岐源吾)の記した旅日記に、酒樽や猩々、鯛やねぶた風の武者人形像など、多種多様な趣向の灯籠が描かれていたことを主な根拠とする[106]。しかし、彼の素描には明らかに別の祭りである秋田の竿燈が一緒に描かれていたり、城郭型灯籠に鯱飾りがなく江戸時代後期に残された絵図よりも描写の正確性が後退しており、実際に観察見聞したのか信頼性を欠く面がみられる[107]。むしろ、幕末期に描かれた灯籠の絵図がいずれも城郭型であり、それ以外の形態の絵が残されていないこと、また当番町の役割が伝統の継承と遵守にあり、加勢丁の灯籠も当番町の役七夕に倣うのが自然であることを考え合わせると、能代の七夕灯籠は城郭型が基本であり、その成立時期は幕末期に遡るものと考えられる[108]

灯籠の形態は最上部の鯱飾りから順に、鯱の基部となる本丸御殿、本丸御殿の四隅に配置される隅御殿、その下の各段はそれぞれ雲、松、桜、波を画題とした雲灯籠、松灯籠、花灯籠、波灯籠(船灯籠とも呼ばれる)となっており、その下に台車である担木(たぎ)がある[109]。また、花灯籠の正面部分には日吉神社の鳥居と社殿が描かれ、背面には同じく八幡神社の社殿が描かれて、能代の町創建当初からの2つの鎮守の神社がモチーフに取り込まれている[54]。なお、昭和初期までは波灯籠(船灯籠)の下に幕灯籠と台灯籠があったが、灯籠の高さが圧縮される過程で省略されていったとされる[109]。これに対し明治後期の大型灯籠の姿を復元したとされる「天空の不夜城」の灯籠『嘉六』では、上から順に「鯱と天守閣」、その四隅の「櫓」、天守閣・櫓の基部となる「石灯籠」、中層部の2段が「松」、その下に「桜」が入り、さらにその下に「波灯籠」、「花灯籠」があって最下層に紅白幕があり[110]、役七夕の灯籠の構成とは順序に相違がみられる。もう1基の大型灯籠『愛季』では、天守閣と鯱、隅櫓までの構成は同一だが、その下の各段は安東愛季の生涯の場面などを武者絵風に紹介したものであるために[110]、役七夕の伝統的な様式には則っていない。


注釈

  1. ^ 「こども七夕」の主催は青年クラブのしろ(能代商店青年クラブ)、「天空の不夜城」の主催は能代市、能代商工会議所、能代青年会議所、能代観光協会が中心となり構成される能代七夕「天空の不夜城」協議会。
  2. ^ 能代市役所ホームページ[3]の見解による。
  3. ^ 1958年(昭和33年)能代市刊行の『能代市史稿 第三輯』においても、「役七夕」とは七夕灯籠を指し、行事そのものは「能代七夕」と記述している[6]
  4. ^ 実際には逆で、「天空の不夜城」が明治後期の城郭型灯籠を模して制作されたものである。なお、「天空の不夜城」の灯籠の内1基は、宮腰屋嘉六の名を採って「嘉六」と命名されている[11]
  5. ^ それぞれせいすけまち、うしろまち、おおまち、かんまち、あらまちと読む。
  6. ^ 一例として清助町組では親町の清助町が市街西端にあるのに対し、馬喰町、御指南町はそこから東に離れている。
  7. ^ なお、日吉神社御神幸祭では、役七夕と異なり柳町組でなく後町組となっている[24]
  8. ^ 2019年(令和元年)の役七夕は清助町組の当番だが、1基のみの運行であった[29]
  9. ^ 古くは、先頭が「蜘蛛の巣をかき分けなければならない」ということで不名誉な位置とされ、より後陣であるほど地位が高かった[30]
  10. ^ 逆に若者は拠出金を出す立場にはない[39]
  11. ^ 応接若長は他の若との応対時は羽織を着用するが、道中は着用しない。また筆頭若長は羽織着用が許されるが、七夕灯籠の運行時も乗車せず徒歩であるといった例外は存在する[44]
  12. ^ 能代市役所の所在地は上町。また市役所北側の道路が上町と大町の境にあたるため、本来市役所前が自丁内にあたるのはその2町のみである[59]
  13. ^ 富町の着いた場所は担木元(たぎもと)といい、次回の大丁を務める町が着く名誉ある場所であった[75]
  14. ^ 後町組から柳町組への変遷は、江戸時代以来の枠組みである五町組において親町が交代した唯一のケースであるが、日吉神社御神幸祭(丁山祭り)では、旧来からの後町組の名称が残っている。
  15. ^ 一方「ゆず」の2人は2016年8月3日・4日の「天空の不夜城」に曳き手として参加している。
  16. ^ 北羽新報社1970年刊行『能代のあゆみ』など。また2018年能代伝統文化活性化実行委員会刊行『秋田県 能代市の伝統文化』でもこの見解を採用している[11]

出典

  1. ^ a b 眠流し行事 能代役七夕, p. 105.
  2. ^ 眠流し行事 能代役七夕, p. 44.
  3. ^ 能代市役所ホームページ
  4. ^ 眠流し行事 能代役七夕, pp. 219–220.
  5. ^ a b 眠流し行事 能代役七夕, p. 219.
  6. ^ 能代市史稿 第三輯, pp. 249–254.
  7. ^ a b 眠流し行事 能代役七夕, pp. 220–221.
  8. ^ a b 眠流し行事 能代役七夕, p. 221.
  9. ^ 2013年7月30日付、北羽新報『論考』
  10. ^ 眠流し行事 能代役七夕, pp. 166–170.
  11. ^ a b 能代市の伝統文化, p. 3.
  12. ^ a b 眠流し行事 能代役七夕, p. 170.
  13. ^ 眠流し行事 能代役七夕, pp. 170–174.
  14. ^ a b c 眠流し行事 能代役七夕, p. 79.
  15. ^ a b 平成26年6月能代市議会定例会 06月17日-03号、斉藤滋宣市長答弁.
  16. ^ 能代市の伝統文化, p. 10.
  17. ^ a b c 眠流し行事 能代役七夕, p. 106.
  18. ^ 能代市史 通史編II, pp. 99–100.
  19. ^ a b 能代市史 通史編II, p. 101.
  20. ^ a b 能代市史 通史編II, pp. 110–111.
  21. ^ a b 眠流し行事 能代役七夕, p. 107.
  22. ^ a b 能代市史 特別編 民俗, p. 543.
  23. ^ a b 眠流し行事 能代役七夕, p. 108.
  24. ^ 能代市史 特別編 民俗, p. 595.
  25. ^ a b 眠流し行事 能代役七夕, p. 218.
  26. ^ a b 眠流し行事 能代役七夕, pp. 44–45.
  27. ^ a b c d 眠流し行事 能代役七夕, p. 45.
  28. ^ 眠流し行事 能代役七夕, p. 117.
  29. ^ 2019年8月2日付、北羽新報
  30. ^ a b c 眠流し行事 能代役七夕, p. 111.
  31. ^ 能代市史 特別編 民俗, pp. 543–544.
  32. ^ 眠流し行事 能代役七夕, pp. 46, 53–56.
  33. ^ a b 眠流し行事 能代役七夕, pp. 108–109.
  34. ^ 能代市史 特別編 民俗, pp. 543–545.
  35. ^ a b c 眠流し行事 能代役七夕, p. 110.
  36. ^ 眠流し行事 能代役七夕, p. 543.
  37. ^ 眠流し行事 能代役七夕, pp. 110–111.
  38. ^ 能代市史 特別編 民俗, p. 542.
  39. ^ a b c d 眠流し行事 能代役七夕, p. 137.
  40. ^ 眠流し行事 能代役七夕, p. 138.
  41. ^ 眠流し行事 能代役七夕, p. 127,239.
  42. ^ 眠流し行事 能代役七夕, pp. 136–137.
  43. ^ a b 眠流し行事 能代役七夕, p. 140.
  44. ^ a b 眠流し行事 能代役七夕, p. 187.
  45. ^ a b 眠流し行事 能代役七夕, p. 139.
  46. ^ a b c 眠流し行事 能代役七夕, p. 145.
  47. ^ 眠流し行事 能代役七夕, pp. 146–147.
  48. ^ 眠流し行事 能代役七夕, p. 44,72.
  49. ^ a b c d e f g 能代市史 特別編 民俗, p. 545.
  50. ^ a b c 眠流し行事 能代役七夕, p. 73.
  51. ^ a b 眠流し行事 能代役七夕, p. 74.
  52. ^ 眠流し行事 能代役七夕, p. 75.
  53. ^ a b 眠流し行事 能代役七夕, pp. 76–77.
  54. ^ a b c 眠流し行事 能代役七夕, p. 78.
  55. ^ a b c d 眠流し行事 能代役七夕, p. 81.
  56. ^ 能代市の伝統文化, p. 6.
  57. ^ a b 眠流し行事 能代役七夕, p. 82.
  58. ^ 眠流し行事 能代役七夕, p. 88.
  59. ^ a b c d 眠流し行事 能代役七夕, p. 148.
  60. ^ a b 眠流し行事 能代役七夕, p. 95.
  61. ^ 眠流し行事 能代役七夕, p. 97.
  62. ^ 眠流し行事 能代役七夕, p. 98.
  63. ^ 眠流し行事 能代役七夕, p. 99.
  64. ^ 眠流し行事 能代役七夕, p. 165.
  65. ^ 眠流し行事 能代役七夕, p. 166,212.
  66. ^ 眠流し行事 能代役七夕, pp. 213–214.
  67. ^ 眠流し行事 能代役七夕, p. 214.
  68. ^ 眠流し行事 能代役七夕, pp. 214–215.
  69. ^ 眠流し行事 能代役七夕, p. 215.
  70. ^ 眠流し行事 能代役七夕, pp. 215–216.
  71. ^ 眠流し行事 能代役七夕, pp. 218–219.
  72. ^ 眠流し行事 能代役七夕, p. 112.
  73. ^ 眠流し行事 能代役七夕, pp. 219–221.
  74. ^ a b 能代のあゆみ, p. 94.
  75. ^ a b c d e f g h 眠流し行事 能代役七夕, p. 118.
  76. ^ 眠流し行事 能代役七夕, pp. 123–124.
  77. ^ a b 眠流し行事 能代役七夕, pp. 224–225.
  78. ^ 眠流し行事 能代役七夕, pp. 146, 192–193.
  79. ^ 眠流し行事 能代役七夕, p. 146.
  80. ^ 眠流し行事 能代役七夕, p. 189.
  81. ^ a b c 能代のあゆみ, p. 95.
  82. ^ a b c d e 眠流し行事 能代役七夕, p. 192.
  83. ^ 能代湊・桧山周辺史話, p. 40.
  84. ^ 能代湊・桧山周辺史話, pp. 40–41.
  85. ^ a b 眠流し行事 能代役七夕, pp. 236–237.
  86. ^ 眠流し行事 能代役七夕, p. 237.
  87. ^ 眠流し行事 能代役七夕, pp. 237–238.
  88. ^ a b 戦後の証言, p. 155.
  89. ^ 眠流し行事 能代役七夕, p. 238.
  90. ^ a b 戦後の証言, p. 156.
  91. ^ a b 眠流し行事 能代役七夕, p. 239.
  92. ^ 眠流し行事 能代役七夕, p. 240.
  93. ^ a b 眠流し行事 能代役七夕, pp. 240–241.
  94. ^ a b c 眠流し行事 能代役七夕, p. 241.
  95. ^ a b 眠流し行事 能代役七夕, p. 242.
  96. ^ 眠流し行事 能代役七夕, pp. 242–243.
  97. ^ a b c 眠流し行事 能代役七夕, p. 244.
  98. ^ a b c d 眠流し行事 能代役七夕, p. 243.
  99. ^ 眠流し行事 能代役七夕, pp. 243–244.
  100. ^ 眠流し行事 能代役七夕, pp. 244–245.
  101. ^ a b 2014年8月1日付、北羽新報『論考』
  102. ^ 能代市役所ホームページ「天空の不夜城」.
  103. ^ a b c 2018年8月11日付、北羽新報『祭りのあと ―検証6年目の「天空の不夜城」― 上』
  104. ^ 2018年8月12日付、北羽新報『祭りのあと ―検証6年目の「天空の不夜城」― 下』
  105. ^ 平成31年3月能代市議会定例会 03月05日-03号、斉藤滋宣市長答弁.
  106. ^ 眠流し行事 能代役七夕, p. 167,172.
  107. ^ 眠流し行事 能代役七夕, pp. 167–170.
  108. ^ 眠流し行事 能代役七夕, p. 172.
  109. ^ a b 眠流し行事 能代役七夕, p. 173.
  110. ^ a b 能代市の伝統文化, p. 8.





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