精通 先天的男性不妊症の治療と精通

精通

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/24 14:26 UTC 版)

先天的男性不妊症の治療と精通

これまで述べたように、精通があったということは射精に至るまでの性機能の一連のプロセスが障害なく発育したことの証であるが、先天的な性分化疾患や性腺機能の発育不全により、造精機能や射精反射機能が生まれつき障害を受けることがあり、出生時に超低体重児であったり仮死状態で生まれた者に比較的その割合が高いとされる。テストステロンのレベルが一時的に高まる5歳頃までに治療が行われれば射精反射機能を獲得することが可能であるが、以下の理由により治療が行われることは稀であり、成人後に男性不妊症として顕在化するまでわからないことが多い。

幼少期であっても射精反射機能は有している(ただしドライオーガズムとなる)のが正常であるが、その検査を行うには患者に性的刺激を加えなければならないことから、そのような検査自体が行われることはまずない。新生児は生殖器系の発育に関する検査も行われるものの、外性器の形成状況の確認など外見によって診断を行い、そこで異常が認められた場合にはじめて、血液検査によるホルモンの数値のチェックが行われることが多い。外性器の外見が正常である乳幼児は所見なしとされ、正常に発育しているものとされるからである。

そのため射精反射機能の発育不全は、本人がマスターベーションを開始するであろう時期まで、さらに言えば精通がないことを本人が誰かに相談できるようになるまで見過ごされることが多く、治療の機会を逸することが多い。

障害者の精通と性教育、性介助

知的障害児の場合、精通を含む性の目覚めは大人になってきたしるしとして理解されるよりも、周囲の大人にとってはやっかいなこととして認識されやすい[17]傾向がある。

知的障害精神遅滞自閉症のある男児の中には、オナニーによって性欲を処理することを自らの試行や同年代の友人からの情報によって獲得することが困難で、思春期の旺盛な性欲のはけ口がなく、周囲の女性に抱き付いてしまう者、あるいは性に対する羞恥心を獲得することが困難な者の場合は他人の面前でオナニーをする等のトラブルを招くことがある。

身体障害児の場合、手がない、動かせないなどの障害をもつ場合、手を使ったオナニーを行うことは不可能であり、ペニスを布団などにこすりつけるなどの方法でのオナニーとならざるを得ないほか、射精後にティッシュで拭くなどの後片付けも不可能である。布団を汚す可能性も高い。そのため、バスタオルなど、掛け布団に巻くことのできる程度に大きく、かつ、陰茎亀頭を挟んで擦り付けても痛めない程度に柔らかく、かつ精液を吸収できる厚手のタオルを用意するなど介護者が配慮することが多い。

1948年から1996年まで存在した旧優生保護法によって、障害をもつ者は、「不良な子孫の出生を防止する」として、生殖能力を失わせる断種手術が行われていた。中には強制的に不妊手術を受けた者も居る[18]
近年ではそのような手術は重大な人権侵害と見なされるようになったため、性に関するトラブルを防ぎ、また本人の性の尊厳を守る目的で、性的欲求を社会生活上問題のない形で自分で解消させるため、障害児者の状況に応じて、オナニーのやり方やマナーを親や周囲の大人が詳しく教えることがある[19]

脳性まひ筋ジストロフィーなどの全身性の運動障害でオナニーを行うこと自体が困難な場合、介護者が手で性器を刺激し射精させる射精介助が行われる場合もある[20]が、配偶者がいない場合、親や兄弟姉妹がこれを行うことは心理的に大きな抵抗があり、頼りとなる外部の介護スタッフの場合、「性的サービス」としてデリバリーヘルスと同様の扱いを受け風俗営業法の届出を提出することを求められる[21]など、法制面の問題が残っている。

精通を題材にした作品

ごめん(小説:1996年 ひこ・田中、 映画: 2002年 冨樫森バンダイビジュアル[22]
主人公の小学6年生セイが、授業中にカンチョーを受けた時、遺精によって精通を迎える。

注釈

  1. ^ 1910年2月、中華人民共和国 山西省に住んでいた9歳の少年、薛子道と8歳の少女、李福珍の間に男児、薛万春(Xue Wanchun)が生まれたという記録がある中国史上记载最小年纪爸爸仅九岁,儿子长大成人活到90岁” [中国史の記録、最年少の父親は9歳、息子は90歳] (中国語). 每日头条 (2018年12月25日). 2019年1月22日閲覧。
  2. ^ 青年期の定義には諸説あるが、MSDマニュアルでは青年期を「10歳頃から始まり10代後期または20代早期まで」と定義しており、ここでは「青年期の中期(12歳半~14歳頃)」という記述があることから、後期とは15歳以降のことを指す。
  3. ^ 日本小児内分泌学会による思春期早発症の定義[1]では、9歳までに精巣(睾丸)の発育がみられるものを思春期早発症の主な症状として挙げている。

出典

  1. ^ a b 日野林俊彦「男子精通現象について : 発達加速現象の観点より」『大阪大学人間科学部紀要』第9号、大阪大学人間科学部、1983年3月、ISSN 03874427 
  2. ^ a b c 嶋田博行「心身問題に関する心理学的試論 : Organismicdevelopmental アプローチと情報処理アプローチによる検討」『大阪大学人間科学部紀要』第12号、大阪大学人間科学部、1986年3月、ISSN 03874427 
  3. ^ 日本性教育協会『青少年の性行動 わが国の中学生・高校生・大学生における調査・分析(第3回)』日本性教育協会、1988年8月。 
  4. ^ Hirsch, M.; Lunenfeld, B.; Modan, M.; Ovadia, J.; Shemesh, J. (1985). “Spermarche--the age of onset of sperm emission”. J Adolesc Health Care. doi:10.1016/s0197-0070(85)80103-0. 
  5. ^ a b Janczewski, Z.; Bablok, L. (1985). “Semen Characteristics in Pubertal Boys”. Archives of Andrology 15 (2-3): 199-205. doi:10.3109/01485018508986912. PMID 3833078. 
  6. ^ 男児の思春期”. Merck Sharp & Dohme. 2020年1月15日閲覧。
  7. ^ 丘の上のお医者さん”. 2019年1月23日閲覧。
  8. ^ a b c 精通年齢(初めての射精年齢)の遅延傾向”. 額田成、江口純治 神戸市立西市民病院小児科. 2016年8月7日閲覧。
  9. ^ a b c d 日本性教育協会『「若者の性」白書 第5回調査報告』小学館、2001年5月。ISBN 4-09-837046-8 
  10. ^ a b c d 日本性教育協会『「若者の性」白書 第6回調査報告』小学館、2007年6月。ISBN 978-4-09-837047-4 
  11. ^ a b c 日本性教育協会『「若者の性」白書 第7回調査報告』小学館、2013年8月。ISBN 978-4-09-840147-5 
  12. ^ a b 日本性教育協会『「若者の性」白書 第8回調査報告』小学館、2019年8月。ISBN 978-4-09-840200-7 
  13. ^ a b c 「若者の性」白書 第7回調査報告 P.50
  14. ^ 東京都幼・小・中・高・心性教育研究会「児童・生徒の性に関する調査」『現代性教育研究ジャーナル』第45号、日本性教育協会、2014年12月。 
  15. ^ 「SOD Sex Survey 2009 ~日本人の性意識/行動の実態調査~ 調査報告書」、ソフト・オン・デマンド、2009年。 
  16. ^ 「SOD Sex Survey 2012 ~日本人の性意識/行動の実態調査~ 調査報告書」、ソフト・オン・デマンド、2012年。 
  17. ^ お父さん、出番ですよ”. 東京都心身障害者福祉センター 山本 良典. 2018年4月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年8月7日閲覧。
  18. ^ 旧優生保護法ってなに?”. NHK ハートネット (2018年5月30日). 2019年3月4日閲覧。
  19. ^ 知的障碍・発達障碍児者のための射精支援ガイドライン”. 一般社団法人ホワイトハンズ. 2016年8月7日閲覧。
  20. ^ 【射精介助】自力での射精行為が困難な男性重度身体障碍者の方へ”. 一般社団法人ホワイトハンズ. 2016年8月7日閲覧。
  21. ^ 「性介護」提供する非営利組織代表と頭固い警察とのやりとり”. NEWSポストセブン (2012年6月20日). 2016年8月7日閲覧。
  22. ^ ISBN 978-4037270605






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