精通 精通と尿検査

精通

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/24 14:26 UTC 版)

精通と尿検査

尿検査の検体尿に精液が混入すると尿たんぱくとして検出されてしまうため、尿検査の前日はマスターベーションやセックスをしてはならないことはよく知られているが、前夜に射精しなかったからといって全く混入しなくなるわけではない。

また、精通年齢の統計調査は、多くがアンケートによる聞き取りによって行われるが、生理機能の成長において大きな差異がないはずの15歳の中学3年生と、同じ15歳の高校1年生の射精経験の回答に大きな開きがあることから、回答は自身のおかれた社会的環境や教育に大きく影響を受け、必ずしも正確な回答が得られていないことが指摘されている[3]

そのため、被験者本人の回答によらない調査方法として、前述した尿中の精子を観測する方法が知られている。逆行性射精などの病的理由による精子混入だけでなく、健常な男児でも精通を迎えていれば前回の射精時に尿道や陰茎包皮に残った精子が尿に混入することがあるため、これを統計に用いる。

偽陰性の発生率が高い(精通していても必ず尿中から検出できるわけではない)ため、特定の男児の尿から精子が検出されなかったとしても未精通であるとは確定できないが、尿中に精子を観測できた男児の割合を統計に用いることで、その統計集団の平均の精通年齢、年齢別の精通割合を導き出す方法が研究されている[4]

精通後初期の精液と妊娠の可能性

精液は液体成分「精漿(せいしょう)」と細胞成分「精子」とで構成されており、前立腺でつくられる前立腺液や、精嚢でつくられる精嚢分泌液などの精漿の中に、精巣でつくられた精子が含まれたものである。精通後しばらくは、精子の生産がまだ活発ではなく透明で水っぽくなったり、精漿の生産がまだ活発ではなく非常に量の少ないものになることがあるが、各器官が発達するにともなって成人同様の白濁と粘り気をもつようになる。

1985年にポーランドで発表された論文によれば、12歳8か月から19歳11か月までの思春期の少年134人から精液を採取し、うち112人からは1~2回(平均1.3回、合計150サンプル)、残り22人は継続調査をして3~4か月間で4~10回(平均5.6回、124サンプル)精液を採取する調査が行われた。

この調査の結果、精液の量・濃度、正常な精子の割合や運動性など、妊娠に至る能力に関する統計値は、精通からの期間と強い関連性を示すことが明らかになっている[5]

それによると、

精通時の精液(初精)
  • 量が少ない
  • およそ90%の被験者の初精は精子をまったく含まない
3か月目まで
  • 量は1ミリリットル未満
  • 透明なものが多い
5か月目まで
  • 精子をほぼ含まない
6か月目以降、20か月目ごろまで
  • 精子の量が徐々に増えてゆく
  • 含まれる精子のおよそ97%は運動性を欠く。残りの3%は異常な運動をする。妊娠に至る能力のない「精子無力症」の状態
21か月目から23か月目
  • 運動性精子の割合がほぼ成人同様となる
24か月目以降
  • 成人男性のものと同等になる

「メルクマニュアル」の名でも知られる医学百科のMSDマニュアル(家庭版)では、青年期の中期(12歳半~14歳頃)に射精できるようになるとしつつ、妊孕性(女性を妊娠させる能力)については、青年期の後期[注釈 2]になるまで獲得されないと明記しており[6]、精通して間もない男児が女性と性交し膣内射精したとしても、妊娠させる可能性は相対的に低い。

ただし性的発達には個人差も大きい。特に、精通から6ヶ月も経てば(精子の運動性に問題が有るとはいえど)精子濃度自体は2000万/mLに、射精量も12ヶ月で2.5mLに達し、これは男性不妊の診断基準値(濃度1500万以下/mL、射精量1.5mL以下)を上回る[7]。イギリスで起きた13歳の父騒動でも、子供の父親は性交当時14歳の誕生日を迎えたばかりの少年だった。

思春期の精液の発達[5]
精通からの月数 平均射精量
(ミリリットル)
液化 平均精子濃度
(1ミリリットルあたり)
0 0.5 しないa 100万以下
6 1.0 しないa 2000万
12 2.5 部分的b 5000万
18 3.0 するc 7000万
24 3.5 するc 3億

^a 精液はゼリー状で、液化しなかった。

^b ほとんどのサンプルが液化した。いくつかは、ゼリー状のまま。

^c 精液は1時間以内に液化した。

精通と性の悩み

オナニー

オナニーは精通と前後する時期に覚えることが多く、12歳では5人に一人、15歳でおよそ半数、大学生では90%以上がオナニーの経験をもつ(後述#オナニーの経験率と開始年齢、頻度を参照)。なお精通していない者でもオナニーによる快感は得ることが出来る。

精子の産生量は16歳頃に、男性ホルモンであるテストステロンの分泌量は19歳頃にピークを迎え、これらの時期にはわずかな刺激によって不意に勃起するなど、性欲が高まりやすい状況である。一日に何度もオナニーをするなど射精の頻度が多い場合もあり、オナニーの頻度は思春期男子の代表的な悩みのひとつにあげられるが、多いからといって心配はいらない。

オナニーの際、ペニスを強く握りすぎたり、手を速く動かしすぎたり、またペニスを手ではなく床などの固いものに強くこすりつけるなどの方法でペニスに強い刺激を与え続けると、女性との性交時に膣内の刺激では射精できない膣内射精障害になることもある。また、足を伸ばしてオナニーをすることによってなることもある。

精通を迎えた男児がもつ悩みに「精液が飛ばない」というものもある。オナニーによって射精をしても精液が飛ばずペニスから滴り落ちるようにしか精液が出ないというものである。前述したように、精通を迎えたばかりで前立腺液や精嚢分泌液の生産がまだ活発に行われていない場合は精液の量は少ないため飛ぶほどの量ではない。生産される精液量が増えると勢いよく飛ぶようになるが、さらに成長すると精液は成人同様に粘り気をもつ濃厚なものとなるため、飛びにくくなる。精液は常に勢いよく射出されるものではなく、前回の射精からの日数や、射精時の性的興奮の度合い、その日の体調によって射精の勢いには違いがある。

射精後は真性包茎あるいは未発達な仮性包茎である場合、包皮内に精液が残り、恥垢が発生する原因となり不衛生なので、ティッシュペーパーなどで精液を拭き取った後、陰茎及び陰茎周辺だけシャワーで洗うことが好ましい。真性包茎の場合でも、風呂の湯の中で、陰茎をポンプのように揉むと、包皮内に残留した精液及び恥垢が排出される。

カウパー腺液による誤認

精液を生産し始めるタイミングとカウパー腺液を生産し始めるタイミングには個人差があり、射精が可能になってからカウパー腺液の分泌が可能になる者もいれば、その逆の者もいる。後者の場合は、性に関する話を友人とした際など性的興奮が高まった際にカウパー腺液が分泌されて下着を汚したり、オナニーによってオーガズムに達した場合でも射精をせず、透明なカウパー腺液のみが尿道から滲み出すように分泌される期間がある。

カウパー腺液は性的興奮状態にあるときに分泌される粘り気のある液体という点は精液と同様であるため、性知識の少ない男児はカウパー腺液の分泌を射精と誤認し、「精液の色が薄い」、「飛ばない」などの悩みを抱える場合がある。カウパー腺液は透明で陰茎の先から滲み出すように分泌されるものであり、まったく正常である。

この場合(「はじめての射精のこと」という言葉の定義上)精通はまだしていない状態ではあるが、カウパー腺液を分泌できるということは各器官が着実に成熟しつつある証拠であり、いつ精通を迎えてもおかしくない。


注釈

  1. ^ 1910年2月、中華人民共和国 山西省に住んでいた9歳の少年、薛子道と8歳の少女、李福珍の間に男児、薛万春(Xue Wanchun)が生まれたという記録がある中国史上记载最小年纪爸爸仅九岁,儿子长大成人活到90岁” [中国史の記録、最年少の父親は9歳、息子は90歳] (中国語). 每日头条 (2018年12月25日). 2019年1月22日閲覧。
  2. ^ 青年期の定義には諸説あるが、MSDマニュアルでは青年期を「10歳頃から始まり10代後期または20代早期まで」と定義しており、ここでは「青年期の中期(12歳半~14歳頃)」という記述があることから、後期とは15歳以降のことを指す。
  3. ^ 日本小児内分泌学会による思春期早発症の定義[1]では、9歳までに精巣(睾丸)の発育がみられるものを思春期早発症の主な症状として挙げている。

出典

  1. ^ a b 日野林俊彦「男子精通現象について : 発達加速現象の観点より」『大阪大学人間科学部紀要』第9号、大阪大学人間科学部、1983年3月、ISSN 03874427 
  2. ^ a b c 嶋田博行「心身問題に関する心理学的試論 : Organismicdevelopmental アプローチと情報処理アプローチによる検討」『大阪大学人間科学部紀要』第12号、大阪大学人間科学部、1986年3月、ISSN 03874427 
  3. ^ 日本性教育協会『青少年の性行動 わが国の中学生・高校生・大学生における調査・分析(第3回)』日本性教育協会、1988年8月。 
  4. ^ Hirsch, M.; Lunenfeld, B.; Modan, M.; Ovadia, J.; Shemesh, J. (1985). “Spermarche--the age of onset of sperm emission”. J Adolesc Health Care. doi:10.1016/s0197-0070(85)80103-0. 
  5. ^ a b Janczewski, Z.; Bablok, L. (1985). “Semen Characteristics in Pubertal Boys”. Archives of Andrology 15 (2-3): 199-205. doi:10.3109/01485018508986912. PMID 3833078. 
  6. ^ 男児の思春期”. Merck Sharp & Dohme. 2020年1月15日閲覧。
  7. ^ 丘の上のお医者さん”. 2019年1月23日閲覧。
  8. ^ a b c 精通年齢(初めての射精年齢)の遅延傾向”. 額田成、江口純治 神戸市立西市民病院小児科. 2016年8月7日閲覧。
  9. ^ a b c d 日本性教育協会『「若者の性」白書 第5回調査報告』小学館、2001年5月。ISBN 4-09-837046-8 
  10. ^ a b c d 日本性教育協会『「若者の性」白書 第6回調査報告』小学館、2007年6月。ISBN 978-4-09-837047-4 
  11. ^ a b c 日本性教育協会『「若者の性」白書 第7回調査報告』小学館、2013年8月。ISBN 978-4-09-840147-5 
  12. ^ a b 日本性教育協会『「若者の性」白書 第8回調査報告』小学館、2019年8月。ISBN 978-4-09-840200-7 
  13. ^ a b c 「若者の性」白書 第7回調査報告 P.50
  14. ^ 東京都幼・小・中・高・心性教育研究会「児童・生徒の性に関する調査」『現代性教育研究ジャーナル』第45号、日本性教育協会、2014年12月。 
  15. ^ 「SOD Sex Survey 2009 ~日本人の性意識/行動の実態調査~ 調査報告書」、ソフト・オン・デマンド、2009年。 
  16. ^ 「SOD Sex Survey 2012 ~日本人の性意識/行動の実態調査~ 調査報告書」、ソフト・オン・デマンド、2012年。 
  17. ^ お父さん、出番ですよ”. 東京都心身障害者福祉センター 山本 良典. 2018年4月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年8月7日閲覧。
  18. ^ 旧優生保護法ってなに?”. NHK ハートネット (2018年5月30日). 2019年3月4日閲覧。
  19. ^ 知的障碍・発達障碍児者のための射精支援ガイドライン”. 一般社団法人ホワイトハンズ. 2016年8月7日閲覧。
  20. ^ 【射精介助】自力での射精行為が困難な男性重度身体障碍者の方へ”. 一般社団法人ホワイトハンズ. 2016年8月7日閲覧。
  21. ^ 「性介護」提供する非営利組織代表と頭固い警察とのやりとり”. NEWSポストセブン (2012年6月20日). 2016年8月7日閲覧。
  22. ^ ISBN 978-4037270605






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