海からきたチフス ヌル

海からきたチフス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/10 00:37 UTC 版)

ヌル

「ヌル」(null)はドイツ語ゼロの意。無細胞動物という意味のこめられた命名であり、また、漁師たちが、表面がぬるぬるしていることから「ヌル」と呼んでいたことにもかけている。

ヌルは日光が届かず酸素も限られた深海において発達した、食物連鎖の中で捕食されることにより生命(種)の維持を図る、次のような特性をもつコピー生物として設定されている。

主として蛋白質から成り、分や脂肪は微量。基礎代謝率は高く、酸素の豊富な地上では極めて大量のエネルギーを必要とする。他の生物に食べられた場合、その生物の遺伝子をコピーして体外に出てくる。一時的ではあるがクローン生物と似ている。

コピー後に水分を補給すると、外観はオリジナルの生物そっくりになるが、細胞膜はもっていない。このため、注射針を射すなどの刺激で元のかたまりに戻る。エネルギーを消費しつくした場合にも、元のかたまりに戻る。知識などオリジナルの生物の後天的な能力もコピーしている。人間のコピーとなったヌルは人語を解し、金の利用価値を知っている。

ヌルを人間が生食した場合、次のような症状があらわれる。

発熱など、発疹チフスに酷似した症状が現れる(『海からきたチフス』はこれに由来する)が、3日程度で熱は下がる(この頃、コピーを終えたヌルが体内から抜け出す)。ヌルが抜け出した後の患者からは、ATPが根こそぎ奪われている。

なお、危険なのは生食した場合であり、熱処理すれば問題はない。

作中では、本来は日本海溝に棲息していた深海生物であり、深海調査船に付着して大島付近に現れたものと推定されている。

評価

初代『S-Fマガジン』編集長の福島正実は、初刊時に本作を絶賛し、SF関係の編集者に「この人は児童ものだけを書かしておくのはもったいない」「早く大人もののSFを書いてもらえ」と吹聴して回ったという。福島は、「独創のアイデア」「専門家としての確かさ」「ストーリー・テリングの巧みさ」のみならず、「SFが、本来的に持っている、根強いロマンチシズム」を高く評価している[1]

また翻訳家・評論家の大森望は、「当時のジュブナイルとしては科学描写がリアルで、わくわくしながら読んだ」と回想しており、のちに改題されたことについて「めちゃくちゃ納得いかなかった」と語っている[2]

書誌


  1. ^ 福島正実 「解説――「チフス」を読んだ頃のこと」 『海からきたチフス』 角川書店〈角川文庫〉、1973年10月30日、241-243頁。ISBN 4-04-131903-X 
  2. ^ 大森望; 三村美衣 『ライトノベル☆めった斬り!』 太田出版、2004年、44-45頁。ISBN 4-87233-904-5 


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