浄化槽
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/24 05:16 UTC 版)
構造と形式
対象の排水
浄化槽法第2条第1号によると浄化槽とは「し尿及びこれと併せて雑排水(工場廃水、雨水その他の特殊な排水を除く。以下同じ。)を処理」する設備である[7]。浄化槽が対象とする家庭からの排水は、水洗便所排水、台所排水、洗濯排水、風呂場からの排水などであるが、設置場所には集会場、ホテル、医療施設、店舗、マーケット、学校施設などを含む[5]。
通常の戸建て住宅から排出されるし尿や雑排水を対象とする浄化槽を家庭用浄化槽、戸建て住宅以外の建築物用途から排出されるし尿や雑排水を対象とする浄化槽を一般浄化槽という[11]。
浄化槽は生物化学的な処理装置であり、温泉排水や工場排水などの特殊排水が流入すると機能障害を起こすことがあるため、それらは生活雑排水とは別に処理しなければならない[12]。しかし、一部の事業場系排水については生活雑排水とあわせて処理する方が合理的かつ効率的である[12]。そのため従来の産業排水処理において活性汚泥法などの生物処理法により処理されていた特定の業種(野菜缶詰・果物缶詰・農産保存食料品製造業、パン・菓子製造業、その他の食料品製造業)の小規模事業場の排水については、例外的に浄化槽で受け入れることができるとされている[5]。
各処理方式
1998年(平成10年)の建築基準法改正[12]、2000年(平成12年)の同法改正に伴う構造基準の性能規定化により[13]、浄化槽は構造例示型(昭和55年建設省告示第1292号で示されたもの)と性能評価型(国土交通大臣の認定を受けたもの)に大別されることとなった(建築基準法施行令第35条)[12]。この改正以降、性能評価型の浄化槽が大部分を占めるまでになっている[12]。
BOD等処理
浄化槽の分類の一つにBOD等の処理方法による分類があり[12]、例えば小型合併処理浄化槽の場合には、BOD除去型、BOD・窒素除去型(赤潮等の原因となる窒素も除去)、BOD・窒素・リン除去型(同じく赤潮等の原因となるリンも除去)の3つに分けられる[14]。
処理方法
以下では型式適合認定に掲げられた処理方法について述べる[12]。機器の型式適合認定番号はアルファベット記号で区分される(I、L、M、N、Oは大文字)[12]。
- (a) 分離接触ばっき方式
- (b) 嫌気濾床接触ばっき方式
- (c) 脱窒濾床接触ばっき方式
- (d) 回転板接触方式
- (e) 接触ばっ気方式
- (f) 散水濾床方式
- (g) 長時間ばっ気方式
- (h) 標準活性汚泥方式
- (I) 接触ばっ気・濾過方式
- 告示区分第七[12]
- (j) 凝集分離方式
- 告示区分第七[12]
- (k) 接触ばっ気・活性炭吸着方式
- 告示区分第八[12]
- (L) 凝集分離・活性炭吸着方式
- 告示区分第八[12]
- (M) 硝化液循環活性汚泥方式
- 告示区分第九から第十一[12]
- (N) 三次処理脱窒・脱燐方式
- 告示区分第九から第十一[12]
- (O) その他の方式
維持管理ガイドラインの対応
構造基準の主な処理方式と維持管理ガイドラインの対応は以下のようになる[13]。
- 小型合併処理浄化槽維持管理ガイドライン(平成5年衛浄第16号)[13][15]。
- 分離接触ばっ気方式・ 嫌気ろ床接触ばっ気方式
- 窒素除去型小型合併処理浄化槽維持管理ガイドライン(平成12年衛浄第43号)[13][15]
- 脱窒ろ床接触ばっ気方式
- 中・大型合併処理浄化槽維持管理ガイドライン(平成12年衛浄第43号)[13][15]
- 回転板接触方式・接触ばっ気方式・散水ろ床方式・長時間ばっ気方式・標準活性汚泥方式
- 高度処理型合併処理浄化槽(平成8年衛浄第22号)[13][15]
- 接触ばっ気・ろ過方式、凝集分離方式
- 接触ばっ気・活性炭吸着方式、凝集分離方離・活性炭吸着方式
- 硝化液循環活性汚泥方式、三次処理脱窒・脱燐方式
なお、先述の通り、2000年(平成12年)以降、膜分離活性汚泥法、生物ろ過法、担体流動法といった構造基準の例示にはない国土交通大臣の認定浄化槽があり、通称「性能評価型浄化槽」と呼ばれている[13]。
技術の変遷
昭和44年構造基準(建設省告示1726号)を旧構造基準、昭和55年構造基準(建設省告示1292号)を新構造基準という[16]。
- 1969年 - 1980年:昭和44年構造基準の告示(建設省告示1726号)[13]。
- 処理方式として活性汚泥法と散水ろ床法が定められた[13]。
- 1980年 - 1988年:昭和55年構造基準の告示(建設省告示1292号)[13]。
- 1988年 - 1995年:構造基準の一部改正[13]。
- 処理対象人員5 – 50人規模の合併処理浄化槽処理方式として分離接触ばっ気方式と嫌気ろ床接触ばっ気方式が追加された[13]。
- 1995年 - 2000年:構造基準の一部改正[13]。
- 処理対象人員の規模に応じて、新たに脱窒ろ床接触ばっ気方式などが追加された[13]。
- 2000年:建築基準法改正にともなう構造基準の性能規定化[13]。
代表的方式
- 嫌気ろ床接触ばっ気方式
- この方式は小型浄化槽の開発時に基本となった、嫌気ろ床槽と接触ばっ気槽を組み合わせた方式で、1988年(昭和63年)に構造基準に追加された[5]。排水中の固形物を沈殿や浮上の作用を利用して水から分離することを沈殿分離といい、そのために設置される2室直列の槽を沈殿分離槽という[5]。特に槽内にろ材を置いて固形物の通過時に捕えたり、それに付着した微生物の力で分解する構造のものを嫌気ろ床槽という[5]。さらに次の接触ばっ気槽で好気性微生物により有機物質を分解して汚水を処理するが、槽内の有機物質を栄養源に生物膜が付き、その生物膜が脱落して流れ出ないように次の沈殿槽で沈殿させる[5]。そして最終的に消毒槽で固形塩素剤で消毒して放流する[5]。
- 生物ろ過方式
- メーカーが独自に開発し、国土交通大臣の認定を受けた方式(国土交通大臣の認定浄化槽)の一つで、嫌気ろ床接触ばっ気方式に比べて容量が50 - 80%と小型化されている[5][13]。
みなし浄化槽
第二次世界大戦後の日本では下水道の整備の立ち後れもあって、し尿処理技術が先行的に開発され進展し、便所の水洗化とともに水洗便所排水(し尿)だけを対象とする単独処理浄化槽が普及した[5]。しかし、単独処理浄化槽は合併処理浄化槽を利用している家庭と比較すると処理性能が劣り、生活雑排水が未処理放流となることなどからBODの総量を比較すると約8倍の汚濁物質を水環境中に排出している点が問題となっていた[5]。
そこで、単独処理浄化槽については、下水道予定処理区域内(終末処理場〈下水処理場〉を有するもの)を除いて、平成13年(2001年)4月1日以降の新設が禁止された[12]。
既存単独処理浄化槽については以下の規定が置かれている。
- 昭和55年建設省告示第1292号第1第一号から第三号までの規定に適合する構造のものについては、改正後の建築基準法第31条第2項の国土交通大臣が定めた構造方法を用いたものとみなされる(平成12年建設省告示第1465号附則)[12]。
- その他の既存単独処理浄化槽についても、法律による設置や維持管理等の規制を及ぼす必要があるため、浄化槽法第2条第一号に規定する浄化槽とみなされる(浄化槽法の一部を改正する法律附則第2条)[12]。
これらの規定による浄化槽を「みなし浄化槽」という[5]。
旧制度では単独処理浄化槽や合併処理浄化槽以外に、単独処理浄化槽に生活雑排水を処理する浄化槽を別に接続してBOD除去率90%以上、放流水のBOD濃度20 mg/L以下とする変則合併処理浄化槽と呼ばれるものがあった[5]。単独処理浄化槽は原則として廃止されているが、基準を満たせば、このような方法で活用することは可能とされている[5]。
浄化槽の規模
一基の浄化槽が受け入れ可能な負荷(処理対象人員)は「人槽」という単位で表現され、その算定方法は JIS A 3302-2000の「建築物の用途別による屎尿浄化槽の処理対象人員算定基準」に定められている[5]。浄化槽の最小は家庭用小型浄化槽の5人槽で、最大は38,500人槽の関西国際空港の浄化槽といわれている[5]。
新たに施工される浄化槽の大部分が先述の性能評価型であるが[12]、総容量が構造例示型の70%程度のものをコンパクト型浄化槽、50%程度まで小さくしたものを超コンパクト型浄化槽という[5]。
注釈
- ^ 酸素が入らないようにした処理装置内で嫌気性微生物によって汚濁物質を分解する処理法[1]。
- ^ 酸素を供給するばっ気の工程があり[1]、酸素が十分にある状態で好気性微生物によって汚水を浄化する処理法[1]。
- ^ 浄化槽法の第2条は「便所と連結して し尿及びこれと併せて雑排水(工場廃水、雨水その他の特殊な排水を除く。以下同じ。)を処理し、下水道法 [...] 第二条第六号に規定する終末処理場を有する公共下水道([...])以外に放流するための設備又は施設であって、[...] 市町村が設置した し尿処理施設以外のものをいう。」と浄化槽を定義する[7]。
- ^ 現行の浄化槽法第1条は法の目的を「この法律は、浄化槽の設置、保守点検、清掃及び製造について規制するとともに、[...] 等により、公共用水域等の水質の保全等の観点から浄化槽による し尿及び雑排水の適正な処理を図り、もって生活環境の保全及び公衆衛生の向上に寄与することを目的とする。」と定め、目的の筆頭に「生活環境の保全」を置いている[7]。
出典
- ^ a b c “用語集”. 全国浄化槽推進市町村協議会. 2024年2月29日閲覧。
- ^ a b c “浄化槽の基本構造と特長” (pdf). 環境省, 公益財団法人日本環境整備教育センター (2015年3月). 2024年1月3日閲覧。 ※pdf配布元は環境省「浄化槽サイト」のパンフレット『浄化槽における災害対策』配布ページ。
- ^ 片山徹 (2006年9月22日). “[資料3]浄化槽の海外展開について” (pdf). 環境省. 2018年8月29日閲覧。 ※pdf配布元は環境省ウェブサイト「中央環境審議会廃棄物・リサイクル部会 浄化槽専門委員会(第19回)議事要旨・資料(平成18年9月22日開催)」ページ。リンク「資料3 (社)海外環境協力センター資料」を参照。
- ^ 古市昌浩 (2017年1月). “浄化槽の海外展開における技術的課題と展望 - 技術データ JSAだより”. 一般社団法人浄化槽システム協会. 2018年8月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年8月29日閲覧。 ※初出は『月刊浄化槽』2017年1月号。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af ag ah ai aj ak 公益信託柴山大五郎記念合併処理浄化槽研究基金 技術ワーキンググループ 編「第1章 生活排水と水環境の保全」『浄化槽読本 〜変化する時代の生活排水処理の切り札〜』公益信託柴山大五郎記念合併処理浄化槽研究基金 技術ワーキンググループ、2013年9月。 ※pdf版を日本環境整備教育センター公式ウェブサイトの「浄化槽とは」ページ下部からダウンロードできる。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 「1. 浄化槽のしくみ」『浄化槽Q&A 第3版』(pdf)一般社団法人全国浄化槽団体連合会 。2024年1月3日閲覧。 ※pdf配布元は全国浄化槽団体連合会ウェブサイトの「出版物案内 : 普及啓発資料」ページ。『浄化槽Q&A (第3版)』表紙画像からリンクあり。
- ^ a b c d 浄化槽法(昭和58年法律第43号) - e-Gov法令検索
- ^ “[資料3]説明資料 : 見なし浄化槽に係る規定” (pdf). 環境省. p. 2 (2005年6月15日). 2018年8月29日閲覧。 ※pdf配布元は環境省ウェブサイト「中央環境審議会廃棄物・リサイクル部会 浄化槽専門委員会(第2回)議事要旨・資料(平成17年6月15日開催)」ページ。リンク「資料3 説明資料」を参照。
- ^ “浄化槽の種類”. 有限会社相模湖水質管理センター. 2023年8月20日閲覧。 “●単独処理浄化槽(みなし浄化槽) 単独処理浄化槽はトイレの汚水のみを処理し、浄化する浄化槽です。BOD除去率65%以上、放流水のBOD濃度90mg/L以下であることが定められています。[...] 下記は、作られた年代の順にあげています。”
- ^ “浄化槽で生活雑排水まできれいにしましょう”. 公益財団法人日本環境整備教育センター. 2023年8月20日閲覧。 “平成13年4月より施行された改正浄化槽法によって、みなし浄化槽の新設が禁止され、新たに設置できるのは浄化槽のみとなりました。”
- ^ “浄化槽の性能評価方法 (追記・解説版) : 浄化槽等性能評価申請要領 関連資料” (pdf). 一般財団法人日本建築センター (2011年4月1日). 2024年1月3日閲覧。 ※pdf配布元は日本建築センター公式いウェブサイトの「必要書類・申込要領等のダウンロード|業務分野一覧|BCJ評定|業務別メニュー|評価・評定」ページ。「4. 浄化槽性能評価試験」項の「試験方法:浄化槽の性能評価方法」からリンク。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af ag ah ai aj 日本建築行政会議 編『浄化槽の設計・施工上の運用指針 2015年版』日本建築行政会議、2015年4月 。2024年1月3日閲覧。 ※pdf配布元は日本建築行政会議ウェブサイト「書籍」ページの「浄化槽の設計・施工上の運用指針(2015年版)」項。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q “[資料5]浄化槽に関する技術と維持管理の変遷”. 環境省 (2006年8月23日). 2024年1月3日閲覧。 ※pdf配布元は環境省ウェブサイト「中央環境審議会廃棄物・リサイクル部会 浄化槽専門委員会(第18回)議事要旨・資料(平成18年8月23日開催)」ページ。リンク「資料5 浄化槽に関する技術と維持管理の変遷」を参照。
- ^ “小型合併処理浄化槽のしくみ” (pdf). 公益社団法人山形県水質保全協会. p. 1. 2024年1月3日閲覧。 ※pdf配布元は山形県水質保全協会ウェブサイトの「浄化槽Q&A」ページの「1. 小型合併処理浄化槽のしくみ」項。
- ^ a b c d 宮城県生活環境事業協会 (2020年4月1日). “浄化槽維持管理指導指針” (pdf). 公益社団法人宮城県生活環境事業協会. 2024年1月3日閲覧。 ※pdf配布元は宮城県生活環境事業協会が運営する浄化槽法定検査センター公式ウェブサイトの「保守点検と清掃|浄化槽について」ページ。
- ^ 「4-1 浄化槽は維持管理が重要と言われていますが、何故ですか。」『浄化槽の実務 Q&A 改訂版 (平成31年1月)』(pdf)一般社団法人新潟県浄化槽整備協会、2019年1月、52-53頁 。2024年1月3日閲覧。 ※pdf配布元は新潟県浄化槽整備協会ウェブサイトの「浄化槽の実務Q&A 改訂版 本編 (平成31年1月)|浄化槽Q&A」ページ。
- ^ “令和3年度における浄化槽の設置状況等について”. 環境省 (2023年3月17日). 2023年8月27日閲覧。
- ^ “(添付資料)令和2年度における浄化槽の設置状況等ついて : 構造基準・人槽別浄化槽設置基数 (令和2年度末)” (pdf). 環境省. p. 4 (2022年3月4日). 2023年8月27日閲覧。 ※pdf配布元は環境省ウェブサイトの「令和2年度における浄化槽の設置状況等ついて|報道発表資料」ページ。
- ^ “令和元年度における浄化槽の設置状況等について”. 環境省 (2021年2月19日). 2024年1月7日閲覧。 “なお、令和元年度において初めて合併処理浄化槽の基数が単独処理浄化槽の基数を上回る結果となりました。”
- ^ http://www.daikan-k.com 、2019年12月1日閲覧。
- ^ https://www.fujiclean.co.jp 、2019年12月1日閲覧。
- ^ http://www.daie-industry.co.jp 、2019年12月1日閲覧。
- ^ http://www.e-ams.co.jp 、2019年12月1日閲覧。
- ^ a b 雲川新泌 (2015年8月). “浄化槽システムの海外展開戦略について” (pdf). 一般社団法人海外環境協力センター. 2024年1月3日閲覧。 ※pdf配布元は海外環境協力センター公式ウェブサイトの「OECC会報 第75号/2015年8月」ページ。
- ^ 杉本留三 (2021年7月2日). “インドでの大気・水質環境における課題 〜環境省によるインドとの環境協力〜” (pdf). 環境省地球環境局. 2024年1月3日閲覧。 ※pdf配布元はIGES(地球環境戦略研究機関)ウェブサイトの「令和3年度 IGES-JETA インドでの大気・水質環境に関する情報交換会」ページの「発表資料」項。
- ^ 小西威史 (2020年6月). “ここからが本番 浄化槽を生かす要は“メンテナンス”インドネシア”. 独立行政法人国際協力機構(JICA). 2024年1月3日閲覧。 ※『mundi』No. 81(2020年6月号)掲載。
- ^ a b 北井良人 (2011年). “浄化槽の海外ビジネス展開について”. 一般社団法人浄化槽システム協会(JSA). 2024年1月3日閲覧。 ※初出は『月刊浄化槽』2011年8月号。
浄化槽と同じ種類の言葉
- 浄化槽のページへのリンク