水素 化学的性質

水素

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/19 23:59 UTC 版)

化学的性質

水素化物

元素の水素化物
化学式 IUPAC組織名[27] 慣用名
BH3 ボラン ホウ化水素
CH4 カルバン メタン
NH3 アザン アンモニア
H2O オキシダン
HF フッ化水素
AlH3 アラン 水素化アルミニウム
SiH4 シラン 水素化ケイ素
PH3 ホスファン ホスフィン
リン化水素
H2S スルファン 硫化水素
HCl 塩化水素
GaH3 ガラン 水素化ガリウム
GeH4 ゲルマン 水素化ゲルマニウム
AsH3 アルサン アルシン
H2Se セラン セレン化水素
HBr 臭化水素
SnH4 スタナン 水素化スズ
SbH3 スチバン スチビン
H2Te テラン テルル化水素
HI ヨウ化水素
PbH4 プルンバン 水素化鉛
BiH3 ビスムタン ビスムチン

水素は電気陰性度が2.2とアルカリ金属アルカリ土類金属よりも高くハロゲンよりも小さい値であり、酸化剤としても還元剤としても働く。このため非金属元素とも金属元素とも親和しやすい。たとえば、水素と酸素が化合するときには還元剤として働き、爆発的な燃焼とともに水H2Oを生じる。ナトリウムと水素との反応では酸化剤として働き、水素化ナトリウムNaHを生じる。このような水素とほかの元素が化合した物質を水素化物という[28]

水素化物の結合には、イオン結合型・共有結合型のほかに、パラジウム水素化物などの侵入型固溶体(侵入型化合物)と呼ばれる3種類の形態がある[28]。イオン結合型の化合物の中では、水素はHイオン(ヒドリドイオン)として存在する。共有結合型は電気陰性度が高いPブロック元素と電子を共有して化合する[28]。侵入型固溶体は一種の合金であり、水素原子は金属原子の隙間にはまり込むように存在している。このため、容易かつ可逆的に水素を吸収・放出することができ、水素吸蔵合金に利用される。高性能な水素吸蔵合金の中には、水素原子の密度が液体水素のそれに匹敵したり、上回るものもある。

一方、より電気陰性度の大きい元素との化合物では水素はH+イオンとなる。水中で水素イオンを生じる物質が狭義のである。水溶液中では水素イオンは、H+(ヒドロン)ではなく、水分子と結合してH3O+オキソニウムイオン) として振る舞う。

水素はまた、炭素と結合することで、さまざまな有機化合物を形成する。ほとんどすべての有機化合物は構成原子に水素を含む。

水素を含む有機化合物の例:

おもな元素の水素化物の化学式と国際純正応用化学連合(IUPAC)による組織名、および(存在するものは)慣用名を表「元素の水素化物」に示す。

核磁気共鳴法における利用

分子構造の研究に非常によく利用される核磁気共鳴分光法(NMR)において、1Hを用いた方法は代表的である。1Hはすべての核種の中で最も強い特異吸収を示すうえ、水素はほとんどすべての有機化合物に含まれることもあり、NMRにおいてよく利用される。周囲の原子の電子から影響を受ける結果、吸収される周波数が変化する(化学シフト)ため、原子の相対位置を推測する有力な手掛かりとなる。

水素イオンと水素化物イオン

水素のイオンには、陽イオンである水素イオン(hydron、ヒドロンまたはハイドロン)と、陰イオンの水素化物イオン(hydride、ヒドリドまたはハイドライド)とが存在する。1H+はプロトン(陽子)そのものであるが、一般に水素は同位体混合物なので、水素の陽イオンに対する呼称としてはヒドロンが正確である(すなわちヒドロンは H+D+T+の総称である)。しかし、化学の領域において単に「プロトン」と呼ぶ際は水素イオンを指し示していると考えて差し支えはない。

水素イオンの濃度[H+]酸性度を定量的に表す指標として用いられ、mol/L(モル毎リットル)単位で表した水素イオンの濃度の数値の対数に負号をつけた値を水素イオン指数(pH)で表す。水中の[H+]濃度は1から10−14mol/L程度の広い範囲を取り、pHでは0 - 14 程度となる。常温で中性の水には約10−7mol/Lの水素イオンが存在し、pHは約7となる[1]

ヒドロン・プロトンとヒドロニウムイオン

H+であれ D+であれ、ヒドロンは電子殻を持たないむき出しの原子核であるため、化学的にはファンデルワールス半径を持たない正の点電荷のように振る舞う。それゆえ通常は単独で存在せず、溶媒などほかの分子の電子殻と結合したヒドロニウムイオン(hydronium ion)として存在する。水素のイオン化エネルギーは1131kJmol−1、遊離状態の水素イオンの水和エネルギーは1091kJmol−1と見積もられており[28]、これは高い電子密度に起因する、水分子との高い親和力を示すものである。

E番号 E949 (その他) 国連/北米番号 1409 ChEBI Gmelin参照 14911 特性 化学式 H モル質量 1.00794 熱化学 標準モルエントロピー So 108.96 J K−1 mol−1 特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

ヒドリド(別名、水素化物イオン、ヒドリドイオン[32][33][34]: hydride: hydrogen anion、化学記号Hとも表記される)は、アルカリ金属、アルカリ土類金属あるいは第13族、14族元素(共有結合性が強い)などの、電気的に陽性な元素の水素化物が電離する時に生成する水素の陰イオン(アニオン)。ヒドリドはK殻が閉殻した電子配置を持ちヘリウムと等電子的であるために、一定の大きさを持ったイオンとして振る舞う点でヒドロン(水素カチオン)とは異なる。実際、ヒドリドはフッ素アニオンよりもイオン半径が大きいように振る舞う。

ヒドリドはきわめて弱い酸でもある水素分子(pKa=35)の共役塩基であるので、強塩基として振る舞う。

ヒドリドは塩基として作用する場合と還元剤として作用する場合がある。これをヒドリド還元というが、それは金属と還元を受ける化合物との組み合わせにより変化する。ヒドリドの標準酸化還元電位は−2.25Vと見積もられている。

ヒドリドの発生源としては、代表的なものとしてNaBH4やLiAlH4(通称LAH)がある。これらの化合物のBH4-やAlH4-からはH-が脱離する。この反応は有機合成の時に非常に便利であり、例えば、炭素間二重結合に対して反マルコフニコフ付加を施したい時に有効である。

周期表上の位置

一般的な周期表では水素はアルカリ金属の上に配置されるが、2006年に周期表における水素の位置を変更すべきではないか[注 3]とする論文が国際純正応用化学連合(IUPAC)に提出され、公式雑誌に掲載された[35][要ページ番号]


注釈

  1. ^ 次いでヘリウムが約25パーセント[8][9]
  2. ^ Dias & Silvera (2017) は495GPaの圧力において固体と推定される金属水素が得られたと発表したが、この実験結果については多くの科学者が疑問視している[22][23]
  3. ^ ハロゲンに近い性質を持つため、1周期系列と17族の位置に変更すべきというもの。

出典

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