新幹線500系電車900番台 試験の経過

新幹線500系電車900番台

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/02 01:16 UTC 版)

試験の経過

1992年4月の落成後、博多総合車両所に配置され、6月8日に試験走行を開始した[3]。編成番号はW0となった。さらに6月22日からは、地上設備を350 km/h運転対応に整備した小郡(現・新山口) - 新下関間で高速試験を開始した[3]8月8日には、同区間で当時国内最高速の350.4 km/hを達成し、基本的な性能面では350 km/hでの運転に支障がないことが確認された[3]。8月下旬からは、300 km/h速度域での騒音関係の試験とアクティブサスペンション関係の試験を実施した。

騒音低減のため、後のN700系において採用される全周幌(通称:成田幌)が試験されたが、耐久性などの問題から量産車には採用されなかった。

なお、営業車両での500系の最高速度を350 km/hとした場合パンタグラフから発生する風切り音のため騒音が環境庁(現・環境省)の騒音基準(線路中央から20メートルで75デシベル以下)を超えてしまうことが判明した。車体傾斜装置が未搭載で曲線区間通過時の遠心力の問題が未解決だったことも考慮され、1994年夏に量産車での営業最高速度は320 km/hに改められた。その後、阪神・淡路大震災の発生によって非常制動距離の厳守が必須となったことと、総合的な費用対効果の検討から更に300 km/hに改めている[4]

集電装置周囲の変化

低騒音形パンタグラフの開発に当たっては、ドイツシーメンスのシングルアーム型パンタグラフ(初代V型)に翼型舟体を搭載して試験を行った。しかし、負の揚力によって走行中に折りたたまれるという事態も発生した[5]。量産車に採用される翼型パンタグラフの他に、後に700系で採用されるシングルアームパンタグラフ(2代目V型)も試験され、耐久試験も行われていた。しかし、高速度領域における騒音低減効果が小さいため、採用されなかった[6]

集電装置からの騒音を低減するため、新造時には300系に似た箱型のカバーが搭載されていた。集電装置からの騒音は低減できたものの、カバーが大きくなったために、カバーそのものから発せられる騒音とトンネル微気圧波が増加した[7]。その後、カバーから発せられる騒音を減らすために、集電装置の前後をできるだけ長いスロープとしたカバーが試験された。これを使用することによって、ひし形パンタグラフの場合でも300 km/hにおいて環境基準を満たすことができたが、重量増加という問題が解決できず、低騒音形パンタグラフを使用することによってカバーの小型化・軽量化を図る方向に方針転換した[6]

量産車で採用された碍子カバーの他にも、700系で採用された側面にディフレクターを追加したタイプも試験された[6]

運用終了後

1995年(平成7年)に本車を使用した試験は終了し、量産先行車(W1編成)の登場後の1996年(平成8年)5月25日に最終運用を行い[8]、5月30日には博多総合車両所にてお別れセレモニーを実施[8]、5月31日付で廃車となり、両先頭車両を除いて解体された。

  • 博多方の500-901がJR米原駅近くの鉄道総合技術研究所(JR総研)風洞技術センターの敷地内に保存され、イベント時には公開されている。
  • 新大阪方の500-906も博多総合車両所に保存(こちらもイベント時には公開)されていたが、2024年3月14日に解体が開始された。

  1. ^ a b c d e f g 日本機械学会 編『高速鉄道物語 -その技術を追う-』成山堂書店、1999年、p.125頁。ISBN 4-425-92321-9 
  2. ^ a b c d e 則直 久 1992, p. 58.
  3. ^ a b c 南谷 昌二郎 編『山陽新幹線 関西・中国・北九州を結ぶ大動脈』JTBパブリッシング、2005年、p.171頁。ISBN 9784533058820 
  4. ^ 『鉄道ジャーナル』2008年5月号、鉄道ジャーナル社、2008年、42 - 45頁、ISSN 0288-2337 
  5. ^ 南谷 昌二郎 編『山陽新幹線 関西・中国・北九州を結ぶ大動脈』JTBパブリッシング、2005年、p.120頁。ISBN 9784533058820 
  6. ^ a b c 南谷 昌二郎 編『山陽新幹線 関西・中国・北九州を結ぶ大動脈』JTBパブリッシング、2005年、p.122頁。ISBN 9784533058820 
  7. ^ 南谷 昌二郎 編『山陽新幹線 関西・中国・北九州を結ぶ大動脈』JTBパブリッシング、2005年、p.121頁。ISBN 9784533058820 
  8. ^ a b 交友社鉄道ファン』1996年8月号 通巻424号 p.119


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