所得税 所得概念論

所得税

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/10/26 03:24 UTC 版)

所得概念論

所得概念論とは所得とは何かという議論である。所得税導入以来、様々な展開を見せてきた。

所得税の課税対象となる所得のとらえかたには次に掲げる通りいくつかの考え方がある。今日では、次の3つのうち、包括的所得概念が有力であるが、一方で、ヨーロッパ諸国では制限的所得概念の考え方も根強く、たとえば、ドイツフランスでは株式譲渡益が非課税とされる。また、北欧諸国では、主に包括的所得概念の非効率性に着目して、投資所得と勤労所得とを区分して前者には比例税率課税を行い、後者には累進税率を適用する二元的所得税が採用されている。

制限的所得概念

課税所得は、反復継続する活動から得られるものに限定し、偶発的・一時的なものは課税しないとする考え方。いわゆる取得型所得概念の一つ。

産業革命以降、資本の自立的運動(資本の循環)の結果として賃金利潤利子配当地代など、継続的・反復的利益が生み出されるようになっていった。それらは確実・安定的な税源であり、把握も容易だったため所得税の成立を促した。このような背景を元に、利益を生み出す源泉に着目して反復継続する活動から得られるもののみを所得とする学説(所得源泉説)が生まれる。この所得源泉説は国民所得論を基礎理論として19世紀から20世紀初頭のドイツドイツ帝国)を中心に唱えられた。

制限的所得概念を前提とした所得税には、所得を源泉によって分類し各所得ごとに異なった税率・税額を課税する分類所得税(イギリスなど)と所得の源泉別に純所得を算出しそれらを合算して課税する一種の総合的所得税(プロイセンやそれを参考にした戦前の日本など)がある。

消費型所得概念

課税所得は、所得の内、消費により効用の得られた部分とする考え方。所得は人の一定期間の消費の総額によって測定される。貯蓄を所得から除外する一方、借入金による消費も所得に含まれる。ジョン・スチュアート・ミルアーヴィング・フィッシャーの理論によるもので、フィッシャー、カルドアにより提唱され今でも経済学者の間には根強い支持があるなど、理論的には一定の有用性が認められている

消費型所得税概念を採用する所得税(消費型・支出型所得税、支出税)はインドセイロン(現スリランカ)で短期間実施されたこともあるが定着しなかった。貯蓄除外に起因する不公平、消費の把握・貴族判定の困難性、一般常識からの乖離などが原因である。

ただし、支出税は内容的には一般消費税に類似するため、一般所得税としての付加価値税によって代替されているとも見ることができる。

包括的所得概念

ドイツの財政学者シャンツ(Georg von Schanz)が唱えた純資産増価説にはじまり、アメリカのヘイグ(Robert M. Haig)とサイモンズ(Herry C. Simons)によって発展した概念。シャンツ=ヘイグ=サイモンズ概念、ヘイグとサイモンズの頭文字をとってH-S概念ともいわれる[6][7]。課担税力を増加させる経済的な利得はすべて純資産の増加であり、所得であるとする考え方で、「所得=蓄積+消費」という定式であらわされる。いわゆる取得型所得概念の一つである。一時的・偶発的な利得も所得となり、相続も所得としてみなす(相続税参照)。

包括的所得概念は公平負担の要請(担税力に応じた負担の原則)に適合し、20世紀の福祉国家に適した所得概念であったため、広い支持を集めることとなった。包括的所得概念を採用する総合累進所得税は全所得を1つの累進税率表で適応し課税することが可能になり、国家財政調達機能・再分配機能景気調整機能・資源再配分機能を高めることができる[8]

他方、問題点もあり、本来であれば、未実現の利得や帰属所得も課税の対象とされるべきであるが、捕捉ないし評価が困難であり、課税の対象とならない場合が多く、たとえば未実現の利得の一つであるキャピタル・ゲインは、実現されなければ課税されない[7]。また1970年代の経済停滞期のアメリカにおいて、包括的所得税の概念は、理論的には明快だが、現実の課税把握においては、概念の曖昧さを払拭できず、課税当局が所得の把握が困難であり、限界があるとして批判された。例えば、地下経済における所得などに対する把握は困難を極め、アメリカ社会において所得課税の不公平感が広がった。1980年代以降は、税率を一律にし、また税務上の手続きを簡素化かつ明瞭にするものとしてフラット・タックスという税案に関する議論が高まった[9]


  1. ^ 田中康夫. “再び「日本の消費税制は欠陥税制」”. 日刊ゲンダイ にっぽん改国. 新党日本. 2010年8月8日閲覧。
  2. ^ a b c 栗林隆、2009、「個人所得に対する望ましい課税」、『CUC View & Vision』27号、千葉商科大学ISSN 1342-0542
  3. ^ 八田達夫『ミクロ経済学II 効率化と格差是正』東洋経済新報社プログレッシブ経済学シリーズ、ISBN:978-4-492-81300-3、p468
  4. ^ 2010年9月 日本における貧困議論の現状と展望 山上俊彦
  5. ^ 三和総合研究所編 『30語でわかる日本経済』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2000年、204頁。
  6. ^ 谷口勢津夫『租税基本講義』第2版168 - 170ページ
  7. ^ a b [1]
  8. ^ 谷口170ページ
  9. ^ 知原 信良「米国における税制改革の問題 -フラット・タックスを中心に-」財務省財務総合政策研究所ディカッションペーパー2003年12月 Archived 2011年5月23日, at the Wayback Machine.
  10. ^ a b c 各国の税制 日本都市センター、2018年4月24日閲覧。
  11. ^ イタリアで所得税の前払い 物価手当、手直しも『朝日新聞』1976年(昭和51年)11月12日朝刊、13版、7面
  12. ^ OECD Economic Surveys: Japan 2021 (Report). OECD. (2019). doi:10.1787/6b749602-en. 
  13. ^ “[https://mobile.twitter.com/yoichitakita/status/1442082147318177795 滝田洋一(日本経済新聞)@yoichitakita 日本経済新聞編集委員、テレビ東京ワールドビジネスサテライト(WBS)解説キャスター]” (日本語). Twitter. 2021年9月26日閲覧。
  14. ^ No.2260 所得税の税率|所得税|国税庁
  15. ^ NO.2240 申告分離課税制度(国税庁)
  16. ^ No.2220 総合課税制度国税庁
  17. ^ 個人の方に係る復興特別所得税のあらまし|国税庁
  18. ^ 創設所得税法概説”. 国税庁 (1998年6月30日). 2011年8月12日閲覧。
  19. ^ 租税及び印紙収入決算額調一覧 財務省






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