応力拡大係数
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/27 01:46 UTC 版)
き裂進展限界値
応力拡大係数は、脆性破壊が始まる破壊靭性K c と、それ以下ではき裂の成長が停止すると考えられる下限界応力拡大係数を持つ。下限界応力拡大係数は、疲労に対する下限界応力拡大係数 ΔK th と、応力腐食割れの下限界応力拡大係数 K Iscc の2種類が存在する[13]。これらの限界値は材料定数であり、実験的に求まるものである。
もし、応力拡大係数が K c 以上となり脆性破壊によるき裂の進行が始まると、き裂は極めて速い速度で伝播し、瞬間的に破断に至る。脆性破壊による重大事故として知られるものの中に、1943年、アメリカで起きたタンカー、スケネクタディー号の事故が有るが、これは静かな港内で突然真っ二つに割れるという劇的なものであった。こうした経験から、限界応力拡大係数は、破壊力学において重視され、最もよく使われる工業設計パラメータのひとつである。
他の破壊力学量との関係
以下に応力拡大係数と他の破壊力学量との関係を示す。いずれも小規模降伏状態を前提としている。
- エネルギ解放率 G[14]
遠方一様引張応力を受ける半無限板片側き裂の応力拡大係数[20] 遠方一様引張応力を受ける有限幅板の中央き裂の応力拡大係数[21]
0 < ξ < 1 の範囲で誤差0.1%以内遠方一様引張応力を受ける有限幅板の片側き裂の応力拡大係数[21]
0 < ξ < 1 の範囲で誤差0.5%以内曲げを受ける有限幅板の片側き裂の応力拡大係数[21]
0 < ξ < 1 の範囲で誤差0.5%以内遠方一様引張応力を受ける有限幅板の両側き裂の応力拡大係数[21]
0 < ξ < 1 の範囲で誤差0.5%以内き裂面に対向集中荷重を受ける無限板中のき裂の応力拡大係数[22]
厳密解A点の応力拡大係数
ASTM E399-90に規定されている金属材料破壊靭性試験用の標準試験片(コンパクト試験片)の応力拡大係数[21]
0.2 < ξ < 1 の範囲で誤差0.5%以内ASTM E1290-08に規定されているき裂開口変位試験用の標準試験片(3点曲げ試験片)の応力拡大係数[23]
- ^ 日本機械学会(編) 2007, pp. 149–150.
- ^ Anderson 2011, p. 10.
- ^ 大路、中井 2010, p. 14.
- ^ a b 小林 2013, p. 60.
- ^ 日本機械学会(編) 2007, p. 935.
- ^ 小林 2013, p. 62.
- ^ a b 大路、中井 2010, pp. 16–17.
- ^ a b 小林 2013, p. 64.
- ^ 大路、中井 2010, p. 20.
- ^ a b 小林 2013, p. 96.
- ^ 岡村 1983, p. 1067.
- ^ 岡村 1983, p. 1062.
- ^ 大路 1983, p. 940.
- ^ 小林 2013, p. 79.
- ^ 小林 2013, p. 99.
- ^ 小林 2013, pp. 99–100.
- ^ Anderson 2011, p. 106.
- ^ Anderson 2011, p. 112.
- ^ 小林 2013, p. 73.
- ^ 大路、中井 2010, p. 18.
- ^ a b c d e 大路、中井 2010, p. 19.
- ^ 小林 2013, p. 75.
- ^ 小林 2013, p. 70.
- 1 応力拡大係数とは
- 2 応力拡大係数の概要
- 3 き裂進展限界値
- 4 参照文献
- 5 関連項目