広義固有ベクトル 広義モード行列

広義固有ベクトル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/06 09:12 UTC 版)

広義モード行列

An × n 行列とする.A広義モード行列 (generalized modal matrix) M とは,n × n 行列であって,その列が,ベクトルと考えたときに,A の標準基底をなし,M において以下の規則に従って現れるものをいう:

  • 1つのベクトルからなるすべてのジョルダン鎖は M のはじめの列に現れる.
  • 1つの鎖のすべてのベクトルは M の隣接する列に一緒に現れる.
  • 各鎖は M において階数が増える順番で現れる(つまり,階数 1 の広義固有ベクトルは同じ鎖の階数 2 の広義固有ベクトルよりも前に現れ,これは同じ鎖の階数 3 の広義固有ベクトルよりも前に現れ,……)[25]

ジョルダン標準形

ジョルダン標準形の行列の例.灰色の箱はジョルダンブロックと呼ばれる.

Vn 次元ベクトル空間とする;φV から自身への線型写像全体の集合 End(V) の元とする;A をある基底に関する φ の行列表示とする.次のことを示すことができる.A特性多項式 f(λ) が一次式に分解して

の形,ただし A の相異なる固有値,になれば,各 μi は対応する固有値 λi の代数的重複度であり,Aジョルダン標準形の行列 J に相似である,ただし各 λi は対角線上連続した μi 回現れ,各 λi の上(すなわち優対角英語版)の各成分は 0 または 1 である;各 λi の最初の出現の上の成分はつねに 0 である.すべての他の成分は 0 である.行列 JA の対角化にできるだけ近い.A が対角化可能ならば,対角線の上のすべての成分は 0 である[34].教科書によっては優対角成分ではなく 劣対角成分英語版, すなわち主対角線の直下に 1 たちがあることに注意.固有値はなお主対角線にある[35][36]

すべての n × n 行列 A は相似変換 J = M−1AM によって得られるジョルダン標準形の行列 J に相似である,ただし MA の広義モード行列である[37]

例 5

に相似なジョルダン標準形の行列を見つけよ.

A の特性方程式は (λ − 2)3 = 0 であるので,固有値は λ = 2(代数的重複度 μ = 3)である.前の節の手順に従って,

が分かる.したがって,ρ2 = 1ρ1 = 2 であり,A の標準基底は階数 2 の1つの線型独立な広義固有ベクトルと階数 1 の2つの線型独立な広義固有ベクトルを含むことが分かる,あるいは同じことだが,2つのベクトルの1つの鎖 {x2, x1} と1つのベクトルの1つの鎖 {y1} を含む.M = (y1 x1 x2) と書いて,次が分かる:

および

ただし MA の広義モード行列で,M の列は A の標準基底で,AM = MJ である[38].広義固有ベクトル自身は一意ではないから,また MJ の両方の列のいくつかは交換できるから,MJ はいずれも一意ではないことが従うことに注意[39]

例 6

例 4 において,行列 A に対する線型独立な広義固有ベクトルの標準基底を求めた.A の広義モード行列は

である.A に相似なジョルダン標準形の行列は

であり,AM = MJ である。

応用

行列関数

正方行列に実行できる最も基本的な演算の3つは,和とスカラー倍と積である[40].これらは n × n 行列 A多項式関数を定義するのにちょうど必要な演算である[41].多くの関数がマクローリン級数として書けることを基本的な解析学から思い出すと,行列のより一般の関数をきわめて容易に定義できる[42]A が対角化可能ならば,つまり

ならば,

であり,A の関数のマクローリン級数の計算は大きく単純化される[43].例えば,A の任意の冪 k を得るには,Dk を計算し,M を左から掛け,さらに M−1 を右から掛けるだけでよい[44]

広義固有ベクトルを用いて,A のジョルダン標準形を得ることができ,これらの結果は対角化可能でない行列の関数を計算する直截的手法に一般化できる[45].(行列関数#ジョルダン分解英語版を参照.)

微分方程式

次の線型常微分方程式系を解く問題を考える:

(5)

ただし

     および     

行列 A が対角行列で ij に対して aij = 0 のとき,系 (5) は次の形の n 個の方程式の系に簡約される:




(6)

この場合,一般解は次で与えられる:

一般の場合には,A を対角化し系 (5) を (6) のような系に以下のように簡約しようとする.A が対角化可能ならば,MA のモード行列として,D = M−1AM である.A = MDM−1 を代入して,方程式 (5) は次の形となる: あるいは

(7)

ただし

(8)

(7) の解は

(5) の解 x はすると関係式 (8) を用いて得られる[46]

一方,A が対角化可能でなければ,MA の広義モード行列に選び,J = M−1AMA のジョルダン標準形とする.系 y′ = Jy は次の形を持つ:

(9)

ただし λiJ の主対角成分にある固有値であり,εiJ の優対角成分にある 1 と 0 である.系 (9) はしばしば (5) よりも容易に解かれる.(9) の最後の方程式を yn に対して解いて, を得る.次に yn のこの解を (9) の最後から二番目の方程式に代入して,yn − 1 に対して解く.この手順を続けて,(9) を最後の方程式から最初までやり,y に対する全体の系を解く.すると解 x は関係式 (8) を用いて得られる[47]


  1. ^ a b c Bronson 1970, p. 189.
  2. ^ a b Beauregard & Fraleigh 1973, p. 310.
  3. ^ a b c d Nering 1970, p. 118.
  4. ^ Golub & Van Loan 1996, p. 316.
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  8. ^ a b Bronson 1970, p. 196.
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  15. ^ Herstein 1964, p. 225.
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  19. ^ a b Bronson 1970, pp. 179–183.
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  21. ^ Bronson 1970, p. 179.
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  26. ^ Bronson 1970, pp. 189, 209–215.
  27. ^ Herstein 1964, p. 261.
  28. ^ Nering 1970, pp. 122, 123.
  29. ^ Bronson 1970, pp. 189–209.
  30. ^ Bronson 1970, pp. 196, 197.
  31. ^ Bronson 1970, pp. 197, 198.
  32. ^ Bronson 1970, pp. 190–191.
  33. ^ Bronson 1970, pp. 197–198.
  34. ^ Beauregard & Fraleigh 1973, p. 311.
  35. ^ Cullen 1966, p. 114.
  36. ^ Franklin 1968, p. 122.
  37. ^ Bronson 1970, p. 207.
  38. ^ Bronson 1970, p. 208.
  39. ^ Bronson 1970, p. 206.
  40. ^ Beauregard & Fraleigh 1973, pp. 57–61.
  41. ^ Bronson 1970, p. 104.
  42. ^ Bronson 1970, p. 105.
  43. ^ Bronson 1970, p. 184.
  44. ^ Bronson 1970, p. 185.
  45. ^ Bronson 1970, pp. 209–218.
  46. ^ Beauregard & Fraleigh 1973, pp. 274–275.
  47. ^ Beauregard & Fraleigh 1973, p. 317.





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