層 (数学) 層 (数学)の概要

層 (数学)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/10 19:44 UTC 版)

 層は局所と大域をつなぐことばであり、装置である。層のことばを使って多様体やリーマン面などの幾何学的対象が定義できる。曲面の向きや微分形式も層のことばで定義できる。 例として、位相空間上の連続関数を考える。位相空間の各集合に対しそこで定義された連続関数の環が定まり、開集合の包含関係に対し定義域を制限することで定まる写像は環の射である。 さらに、局所的に定義された連続関数の族が大域的な関数を定義するならば、その関数は連続関数である。層の定義は、この2つの性質を抽象化したものである[1]

 より形式的に、大域から局所への移行のみを考える概念は前層(ぜんそう、presheaf)とよばれる[2]

定義

前層

層を特別な種類の関手としても表現できることを思い出そう。このとき、層の射は対応する関手の自然変換である。射のこの概念により、任意の C に対し X 上の C に値を持つ層の圏が存在する。その対象は C に値を持つ層であり、射は層の射である。層の同型射はこの圏における同型射である。

層の同型射は各開集合 U 上の同型射であることを証明できる。言い換えると、φ が同型射であることと、各 U に対し φ(U) が同型射であることが同値である。同じことは単射についても正しいが、全射については正しくない。層係数コホモロジーを参照。

層の射の定義において貼りあわせの公理を用いなかったことに注意しよう。したがって、上の定義は前層に対しても意味をなす。すると C に値を持つ前層の圏は関手圏O(X) から C への反変関手の圏である。

層の茎

(stalk) は、点 xX の「まわり」の層の性質を捕らえる。ここに、「まわり」の意味は、概念的に言うと、その点のいくらでも小さい近傍を見るということであるが、もちろん、単独の近傍では十分小さくないので、ある種の極限をとらなければならない。

茎は、与えられた点 x を含む X のすべての開集合上での帰納極限

によって定義される。言い換えると、茎の元は、x のある開近傍上の切断により与えられ、2つのそのような切断は、より小さな近傍でそれらの制限が一致するとき、同じであると考える。

自然な射 F(U) → FxF(U) の切断 s をその芽 (germ) へ写す。これはの通常の定義を一般化する。

茎の別の定義方法は、

であり、ここに i は一点空間 {x} から X への包含である。同値性は逆像英語版の定義から導かれる。

多くの状況下で、層の茎を知ることは、層自身を知るに充分である。例えば、層の射が単射、全射、あるいは同型射であるか否かは、茎の上で調べることができる。ゴドマン分解英語版のような構成においても、茎が使われる。


注釈

  1. ^ 英語で麦類の穂束、書類の束、矢の束などを意味する (sheaf - Wiktionary)。

出典

  1. ^ P191 第7章 層 数学原論 斎藤毅著 東京大学出版会 2020年4月10日 ISBN 978-4-13-063904-0 なお、複素解析(著者:L.V.アールフォルス /笠原乾吉 (訳)(1982)(株)現代数学社)の第8章 1.2 芽と層 およびそれ以降の節が、複素解析論における層の理論の具体的適用例として大変参考になる。
  2. ^ 層という訳語の由来は仏語 Faisceau のあとの方の 'ソー' をとったというのが一つの根拠である。Faisceau の元来の意味は束 (タバ) である。'群の束' (X 上に配置された) の意である。ところで、これを横に見ると地層のような層になる。そこで、垂直を水平におきかえて層と訳してみたのである。この訳がよいか、悪いか、わが国で定着しているかどうか知らないが、この訳語の発案者として、その由来を記しておく。(秋月 1970, p. 176)
  3. ^ Bredon 1997, pp. 1–2.


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