増幅回路 接地方式

増幅回路

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/02/10 06:27 UTC 版)

接地方式

真空管トランジスタFETを増幅回路に用いる場合、3本の電極を入力、出力、共通線(接地)にどのように振り分けるかによって、増幅回路の特性が大きく異なる。トランジスタでは、接地する電極を基準としてエミッタ接地回路(Common emitter)、コレクタ接地回路(Common collector)、ベース接地回路Common base)の3種類がある(真空管はエミッタ・コレクタ・ベースをそれぞれカソード・プレート・グリッド、FETはソース・ドレイン・ゲートに読み替える)。それぞれの回路は次表のような特徴がある。

トランジスタ増幅回路の接地方式
接地方式 電圧増幅率 電流増幅率 周波数特性 入力インピーダンス 出力インピーダンス
エミッタ接地 -- --
コレクタ接地 1倍 --
ベース接地 -- --

注:設計次第である項目については -- とした

接地方式別概略回路図
エミッタ接地回路 コレクタ接地回路 ベース接地回路
Common-emitter.png Common-collector.png Common-base.png

バイアス方式

0V0Aから正負対称にリニアに増幅動作してくれる素子があれば理想的だが、真空管トランジスタもそのようには動作しない。そこで入力を常に一定の電圧で偏らせたり一定の出力電流に調整したりすることをバイアスをかけるという。

バイポーラトランジスタの場合入力が0Vではオフの状態で、バイアス電圧をかけ、シリコンでは約0.6Vを越えると(品種によって少し違い、温度による特性もある(約2mV/度))電流が流れ始める。この特性をノーマリーオフという。真空管の場合入力が0Vでも出力電流は流れるという特性がありノーマリーオンという。真空管は通常そこから電流が流れなくなる側にバイアスをかけて使用し、電流がほぼ完全に流れなくなるバイアス電圧をピンチオフ電圧という。真空管ではそのようにバイアスを大きくかけることを「バイアスが深い」と表現する。

バイポーラトランジスタと真空管でバイアスの大きさと意味が逆になるので、それぞれについての記述を読み替える時は注意が必要である。電界効果トランジスタでは種類により真空管と同様のタイプとバイポーラトランジスタと同様のタイプがあり、また個体差による電圧のばらつきも大きい。

完全にオフの領域のバイアスについては入力にかける電圧で、出力電流が少し以上流れる領域のバイアスについてはバイアスによる出力の電流で考えることが多い(トランジスタの特性など出力の電流に依るものが多い)。

バイアスのかけかたには以下のような方式がある。エミッタ接地で説明する。

固定バイアス

固定バイアス

固定バイアスは、常に一定のバイアス電圧か、ほぼ一定のバイアス電流を入力にかける方法である。電圧をかけるには例に示した左の回路図のようになるが、このようにするのは0.1Vより細かい精度で電源電圧の調整が必要な上、入力信号の基準電圧を底上げする必要もありふつうあまり実用的でない(トランス結合であればそうでもないが)。また熱特性の影響をもろに受ける。

実用的には右のようにするが、入力インピーダンスがバイアス抵抗の値にまで下がってしまう、コンデンサによりハイパスフィルタが構成されるという副作用がある。バイアス抵抗の値は次のようにして決める。

まず、無信号時のコレクタ電流をたとえば1mAと決める。次に、トランジスタの電流増幅率hFEがたとえば100であれば、そこからベース電流は0.01mA(10μA)となる。ベースの電位は約0.6Vになるので、電源電圧をvとすると、オームの法則により、バイアス抵抗の値は (v - 0.6) / 0.00001[Ω]となる。

実際に作る際は入手可能な抵抗の値から選ぶ必要があり、設計では負荷抵抗(回路図右の出力-電源間の抵抗)の値の決定も必要であるが割愛する。正確な設計には、結構バラつきの大きい個々のトランジスタのhFEに依存する点が問題である。バイアス抵抗の値が大きめになることから、ベースのバイアス電流が増えるとバイアス抵抗での電圧降下が大きくなってベースの電位が下がる、という特性があるため、Vbeの変動に対しては比較的安定である(Vbeの0.6Vを無視できると近似できるほど電源電圧が高い場合には、電源電圧とバイアス抵抗による簡易定電流源と見ることができ、電流でバイアスを掛けていると解せる)。

自己バイアス

自己バイアス

自己バイアスは出力からフィードバックをかける形のバイアス方式である。反転増幅回路なので負帰還である。設計は以下のようにする。

エミッタ接地回路では、電源電圧を負荷抵抗RLとトランジスタのコレクタ-エミッタ間電圧(Vce)で分圧して出力電圧を取り出すわけだが、無信号時のRLによる電圧降下が電源電圧の1/2から2/3程度になるようにするのが相場である[5]。詳細は教科書等で確認のこと。ここでは2/3と決めたとする。すると無信号時のコレクタの電位は電源電圧をv[V]とするとv/3[V]となり、ベースとの電位差はv/3 - 0.6[V]となる。コレクタ電流を1mAとするとベース電流は0.001 / hFE[A]であるので、オームの法則により、バイアス抵抗は (v/3 - 0.6) / (0.001 / hFE)、整理して (v/3 - 0.6) * hFE / 0.001[Ω]となる。

フィードバックは以下のようにして働く。コレクタ電流が増えたとすると、コレクタの電位は低下する。するとバイアス抵抗にかかる電圧が低下し、ベース電流が減り、コレクタ電流が減る。

電流帰還バイアス

電流帰還バイアス

電流帰還バイアスは、エミッタ接地の場合はエミッタに抵抗が入る(エミッタ抵抗、emitter degeneration resistorなどとも言う)ことが特徴である。負帰還の特性があり、温度安定性が高い、増幅率が抵抗の比で決定される、hFEのバラつきにかかわらず設計できる、などの利点がある。

負帰還の作用は以下の連鎖通りである。

  1. コレクタ電流が増える
  2. エミッタ電流が増える
  3. エミッタ抵抗の電圧が上がる
  4. エミッタの電位が上がる
  5. (ベース電位が一定であれば)ベース-エミッタ間電圧が下がる
  6. ベース電流が減る
  7. コレクタ電流が減る

電圧増幅率は、ほぼ RL/Re になる。

実際の設計では制約条件によりさまざまだが、以下に抵抗値の決定の一例を示す。

  1. シリコンバイポーラトランジスタの Vbeは1℃あたり約2mV変動する。アイドル時のコレクタ電流を1mAとし、温度変動50℃でコレクタ電流の変動を10%以内に収めるには、Reは1kΩとなる。
  2. 増幅率を10倍とすると、RLは10kΩとなる。
  3. コレクタ電流が1mV、Reが1kΩなので、エミッタ電圧は1.0Vとなる。Vbeを0.6Vとして、ベース電圧が1.6Vになるよう、R1とR2で電源電圧を分圧する。安定した動作のためには、ベース電流(=コレクタ電流÷hFE)の数倍以上の電流がR1とR2を流れるようにする。

ここでは増幅回路の、特に素子の動作を指しての級について述べる。アンプ装置全体としての級、特にオーディオ用のそれについてはアンプ (音響機器)#級を参照のこと。

バイアス量

真空管トランジスタなどの増幅素子は、入力信号がある一定の直流値(電圧or電流)範囲にあるときにのみリニアな増幅結果が得られるという特性をもち、その範囲を外れて使用すると出力信号は歪む。そこで、入力信号に対して一定の直流値(電圧、電流)(これをバイアス値という)を加えて素子の適切な動作範囲に収まるようにする必要がある。 アナログ増幅回路はバイアスの量によりA級、B級、C級に分類される(厳密に区別できるものではない)。デジタルアンプのことをD級、その他近年E級~H級までデジタル技術を応用したアンプが呼ばれているが、どれも方式を示す便宜的なもので、特にグレードを示したりするようなものではない。

A級

A級増幅回路とは、増幅素子の入力と出力の関係が直線的(比例関係)になるよう、入力信号の全瞬時値にわたり出力が直線的に対応するバイアス電圧・電流を与え、入力と相似の出力が得られる方式である。B級やC級と比べて最も歪みの少ない出力が得られるが、一定のバイアス電流が常時流れているので消費電力が大きく、入力信号が無い時でも増幅素子には直流電流が流れるため電力を消費する。電力増幅回路を構成した場合、供給電力に対する効率は最大50%である[6]

B級

B級増幅回路とは、交流の入力信号のうち片側の極性のみが増幅されるように増幅素子にバイアスを与えた方式である。バイポーラトランジスタを増幅に用いる場合、電流制御素子なのでベース-エミッタ間にバイアス電流を与えるとPN接合のオン電圧である約0.2V~0.7V前後の電圧となる。

B級PP増幅と歪

入力電圧が負の場合には、トランジスタに入力される電圧はオン電圧より低くなるため、コレクタ電流はゼロとなり、出力されない。入力電圧が正の場合にのみ、入力電圧の振幅に比例した出力電圧が得られる。

音声信号増幅の場合には、2個の増幅素子を正負対称に接続した回路(プッシュプル回路)により、入力信号と同じ波形が出力されるようにする。SSB送信機の出力ブースター(リニア・アンプ)では半周期増幅のままLC共振回路(通称タンク回路)で目的出力を得ている。

出力の効率が正弦波増幅の場合で素子など回路損失が無い場合、最大 π/4 (≒78.5%)[7]とA級増幅回路の最高効率50%に比べ高効率で、特に小信号時の動作電流が非常に少なくできる(定損失が少ない)ため、(大信号も小信号も扱うオーディオアンプなどの)出力段に用いられる。

また、小信号時での歪み率が重要問題となるオーディオアンプなどでは、プッシュプル回路で上下のトランジスタが切り替わるあたりでの歪み(クロスオーバー歪み、およびノッチング歪み:図参照)を減らすため、バイアスを多めにかけて小信号時はA級動作させるものがありそれをAB級という[8]

 また、さらにバイアス値を選んで、プッシュとプルの両方を常にA級動作させることもあり、これは純A級などと称した。

 PN接合を利用するバイポーラトランシスタの電流がゼロとなる瞬間に生じて音質を劣化させる「ノッチング歪み」の回避のために入力に応じてバイアスを増やして電流ゼロの瞬間を作らない製品も存在した。 少数キャリア消滅ノイズは超高周波成分まで含まれて発生すると消せないので、高音質を追求するオーディオアンプではバイポーラ・トランシスタを避けて多数キャリアで動作する大出力電界効果トランシスタ(FET)を用いて少数キャリア消滅ノイズを避けるようになった。

 B2級、AB2級というのは、真空管アンプで、グリッド電圧が正領域まで利用する方式を言い、それに対して通常の負電圧の範囲に留めるものをB1級、AB1級と呼んだ。

C級

C級増幅回路とは、バイアスを遮断値よりも素子がOffになる側にかけて、入力信号の電圧が十分に高い場合にのみ出力電圧が得られる、スイッチング動作に似通ったものである。真空管の場合はバイアスを深く、トランジスタの場合はバイアスをゼロ乃至わずかしか掛けない。

入力信号により直流電源をスイッチングする形となり、そのパルス電流でLC共振回路を駆動して、 目的の周波数の電力を取り出す(この目的でのLC共振回路を通称タンク回路と呼ぶ。SSBリニアアンプの非対称B級ブースター回路でも同じ)、狭帯域高周波増幅回路である。
直流供給電圧に音声信号を重畳することで振幅変調器となる。

出力周波数が入力の整数倍のものを周波数逓倍器(w:Frequency multiplier)という。

無駄に流れる電流がないため消費電力の効率は最も良い。

その他の級

D級

D級は、増幅素子の動作点(バイアス)による区分ではなく、デジタルアンプによる方式を指す。

デジタルアンプは、パルス幅変調パルス密度変調を応用し、スイッチング回路で電力増幅を行うことで高効率増幅(最大で90%以上)を実現する。

A-C級という分類が増幅素子の直線動作範囲に対する動作中心位置(バイアス電圧、電流)の相違なのに対し、スイッチング動作の平均値を出力とするものであり、増幅の動作原理そのものが質的に異なる。

スイッチング回路は矩形波しか出力が出来ないが、入力電圧をパルス幅変調やパルス密度変調して電力増幅した場合エネルギー効率が高い。このスイッチング回路から出力されるのは矩形波であるが、ローパスフィルタを通す事で原信号を取り出すことが出来る。これによって、任意の信号を高いエネルギー効率で増幅することが出来る。

「1ビットアンプ」などともされる。携帯オーディオ機器では、その高い効率によってバッテリーの電力消費を抑えて動作時間を延ばすことが出来る。

E級

E級増幅回路は、共振回路にタイミングを合わせてスイッチング回路で駆動することにより電力増幅を行うことで、高効率増幅を実現するので、D級増幅回路同様に増幅素子の動作点(バイアス)は関係ない。 前出D級増幅器と異なりデューティ比は一定でPWMは不可能で共振する関係上、狭帯域増幅器でなおかつ出力振幅は一定であるため、単体では振幅変調に対応することができないが、D級増幅回路が増幅素子を最低2個要するのに比べ、最低限増幅素子を1個で構成できるためデッドタイムの生成などが不要で回路はシンプルである。




[ヘルプ]
  1. ^ 『電子回路学』、p66、電気学会、2000年
  2. ^ 真空管でもトランジスタでもこの点は基本的に同様である。
  3. ^ 『電子回路学』、pp105-106、電気学会、2000年
  4. ^ 大出力が必要な場合、最終段が真空管やパワーMOSFETなど入力に電流を多く必要としない素子であれば基本的に電圧の増幅が中心で良いが、バイポーラの大電力パワートランジスタは一般に電流増幅率は低めであり、ある程度の電流も必要になる。
  5. ^ 『はじめてトランジスター回路を設計する本』(奥澤清吉 & 奥澤熙 2002)
  6. ^ 『電子回路』、p122、森北出版、1994年
  7. ^ 『電子回路』、pp123-125、森北出版、1994年
  8. ^ 『電子回路』、p125、森北出版、1994年
  9. ^ ラジオ技術』第6巻第12号(1952年11月号、通巻65号)pp. 68-75(目次には pp. 49- とあるが、目次が正しくない)「クロス・シャントPP回路を使った6A3BPPと6AR6PPの試作」島田聰(聡)
  10. ^ a b c Y.Takayama, "Fundamentals of Microwave High-Efficiency Amplifiers", MWE 2007 TL03-01, Nov 2007. (PDF)”. 2013年2月11日閲覧。
  11. ^ ポーラ変調とは - 電子部品 - Tech-On!”. 2013年2月11日閲覧。
  12. ^ ポーラ変調によるパワー・アンプの効率の向上 (PDF)”. 2013年2月11日閲覧。
  13. ^ a b c d e f M.Nakayama and T.Takagi, "Techniques for Low Distortion and High Efficiency Power Amplifier", MWE 2004 TL03-02, Nov 2004. (PDF)”. 2013年2月11日閲覧。
  14. ^ W.H.Doherty, "A new high efficiency power amplifier for modulated waves2, Proc IRE, vol 24, no.9, pp. 1163-1182, Sept. 1936.
  15. ^ a b K.Honjo, "Fundamentals of Microwave Amplifiers", MWE 2008 TL04-01, Nov 2008. (PDF)”. 2013年2月11日閲覧。
  16. ^ NXP、より電力効率に優れたRFベースステーションを実現する新しい3-way Dohertyリファレンスデザインを発表”. 2013年2月11日閲覧。





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