囲碁 競技人口の概要

囲碁

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/24 05:18 UTC 版)

競技人口の概要

人工知能AlphaGoの対局では世界で約6,000万人が観戦した[21]。世界競技人口は4,000万人にのぼる[22]

レジャー白書』(財団法人日本生産性本部)によると、1年に1回以上囲碁の対局を行う、いわゆる「囲碁人口」は、1982年の1,130万人から、2004年450万人、2006年360万人、2015年250万人、2017年190万人となっている[23]。最新の「レジャー白書2020」では230万人と推計されている。

囲碁と数学

囲碁の特徴として、盤面が広く、また着手可能な手が非常に多いため、出現しうる局面の総数やゲーム木のサイズがほかの二人零和有限確定完全情報ゲームに比べてもきわめて大きくなることが挙げられる。また、そのルールの単純性と複雑なゲーム性から、コンピュータの研究者たちの格好の研究材料となってきた。

合法な局面の総数

19×19、361路の碁盤に黒石、白石、空点をランダムに配置したとき、その組合せの総数は3361、およそ1.7×10172(173桁)となる。この中には着手禁止点に石があるなどの非合法な盤面が含まれるため、この値より囲碁の合法な局面数は小さくなる。合法な局面の総数の正確な値は2016年に求められ、約2.1×10170(171桁)であることが明らかにされた[24]。正確な値は下記のとおりである[24]

合法な19路盤の囲碁の総局面数:

2081681993819799846994786333448627702865224538845305484256394568209274196127380153785256484516985196

43907259916015628128546089888314427129715319317557736620397247064840935≃2.1×10^170

これは将棋の1068~1069[25]チェスの1050[26]シャンチー(象棋)の1048[27]オセロの1028[26]チェッカーの1020[26]などと比べても非常に大きく、観測可能な宇宙の原子の総数約1080とも比較にならない。

ほかの大きさの碁盤の総局面数も算出されており、13路盤では約3.7×1079、9路盤では約1.0×1038である[24]

ゲーム木のサイズ

数学的な解のある合法な局面数とは異なり、ゲーム木の総数には正確な定義がない。コンピュータ将棋の開発に携わった田中哲朗は、ゲームの複雑性を表現するために用いられる「ゲーム木のサイズ」は多くの棋譜の平均手数と合法手の数のかけ算によって求められているにすぎず、平均手数が数手変わるだけで算出結果が何桁も変わるため数学的にはあまり根拠がないと指摘している[28]

ゲーム木の複雑性は、将棋で10226、チェスで10123、シャンチーで10150と見積もられるのに対し、囲碁では10400と見積もられている[27]

コンピュータ囲碁

チェスの世界では、1996年ガルリ・カスパロフとの対局で、初めて単一のゲームで世界チャンピオンにコンピュータが勝利した。また、1997年にはオセロの世界チャンピオンであった村上健がコンピュータとの6番勝負で6戦全敗し、2006年にはシャンチーのプログラムが大師との対局に勝利、2012年には引退した将棋棋士米長邦雄がコンピュータに敗れた。こうしたほかのゲームにおけるコンピュータの躍進と比較すると、コンピュータ囲碁の棋力は伸び悩み、2000年代前半においてもアマチュアの有段者に及ばない程度の棋力であった。

コンピュータ囲碁がほかのゲームに比較して進歩が緩やかだったのは、前述の囲碁の総局面数の多さやゲーム木の複雑性も影響しているが、それだけではない。将棋やチェス、シャンチーより局面数の少ない9路盤においても、2005年まではコンピュータはアマチュア初段の域を出ることができていなかった[26]。初めてコンピュータが9路盤でプロに公の舞台で勝ったのは2008年のエキシビジョンマッチでのMoGo対タラヌ・カタリン戦(1勝2敗)である[26]が、プロ側が9路盤の対策を練った2012年の電気通信大のイベント、2014年の第1回囲碁電王戦ではいずれもコンピュータ側が全敗した[29][30]

こうしたコンピュータ囲碁の進歩の難しさの一因に、囲碁において評価関数を作るのが非常に難しい点が挙げられる[26]。将棋やチェスでは駒の損得や局面の状態に応じた評価関数が作りやすく、オセロにおいても隅や辺の重要な部分のパターンで評価関数が作成されてきた[26]。しかし囲碁にはそうした評価方法が存在せず、すべての石の価値が平等であり、オセロの隅のように大きな重みをもつ箇所も存在しない。「形のよさ」「厚み」「味のよさ」「石の軽さ」などが複雑に絡み合っており、評価関数を設定することで強いコンピュータを作るのは非常に困難であった[26]

しかし2006年、レミ・クーロンがモンテカルロ法を応用して作成したCrazy Stoneがひとつの転機となる[31]。クーロンはこれを「モンテカルロ木探索」と名付けた。従来の評価関数を作成して着手を選択させる手法とは異なり、モンテカルロ木探索ではコンピュータにランダムな着手を繰り返させて多数の対局を行わさせ、さらにその中で有望な展開に多くの探索を繰り返させ、もっとも勝率が高くなる着手を決定させる[26]。従来の手法よりモンテカルロ木探索は囲碁に適合し、ほかのプログラムもこぞってこれを採用した[31]。コンピュータ囲碁の棋力は2006年から1年に1-2子ほどの速さで向上し、2012年ごろにはアマ六・七段程度の棋力にまで達したが、そこからは棋力の伸びが停滞した。2015年の段階でも、コンピュータがプロに勝つにはまだ10年以上かかるとクーロンや他の関係者は語っていた[31]

ところが、2016年にモンテカルロ木探索にディープラーニングニューラルネットワークの技術を組み合わせたAlphaGoGoogle DeepMind社が発表した。AlphaGoは数千万の棋譜による学習ののち、数百万の自己対戦を繰り返し強化された。ヨーロッパのプロ棋士である樊麾に2015年10月に勝利していたことが公表され、2016年3月に行われた韓国のトップ棋士である李世乭との五番勝負も4勝1敗で制した。2017年には中国のトップ棋士である柯潔とも三番勝負を行い、3連勝して人間との戦いから引退した。

AlphaGoの登場は、コンピュータがプロを上回るのはまだまだ先だろうと考えていた囲碁界に大きな衝撃を与えた。AlphaGoの技術を使用した囲碁AIはプロ棋士を凌駕する棋力を有するようになり、AlphaGoをはじめとする囲碁AIのさまざまな手法は従来の定石や布石に大きな影響を与え、新たな布石や定石の流行を生むようになった。

文化における囲碁

囲碁の別称とその意味

囲碁にはさまざまな別称・雅称があるが中には中国の故事に由来するものも多い。

そのような故事由来の異称の代表である爛柯(らんか)は中国の神話・伝説を記した『述異記』の次のような話に由来する。の時代、木こりの王質が信安郡の石室山に入ったところ童子たちが碁を打っているのを見つけた。碁を眺めていた王質は童子からナツメをもらい、飢えを感じることはなかった。しばらくして童子から言われて斧を見ると、その柄()が朽()ちていることに気付いた。王質が山を下り村に帰ると知っている人は誰一人いなくなっていた。

この爛柯の故事は、囲碁に没入したときの時間感覚の喪失を、斧の柄が腐るという非日常な事象で象徴的に表している。また山中の童子などの神仙に通じる存在から、こうした時間を忘れての没入を神秘的なものとしてとらえていることもうかがえる。この例と同様に、碁を打つことを神秘的にとらえた異称として坐隠(ざいん)がある。これは碁にのめりこむさまを座る隠者に通じるとしたもので、手談(しゅだん)と同じく『世説新語』の「巧芸」に囲碁の別称として記されている。手談は字の通り、互いに碁を打つことを話をすることと結びつけたものである。

囲碁の用具に着目した異称として烏鷺(うろ)がある。碁石の黒白をカラス(烏)とサギ(鷺)にたとえている。方円(ほうえん)は碁石と碁盤の形からつけられたもので、本来は天円地方で古代中国の世界観を示していた。のちに円形の碁石と正方形の碁盤から囲碁の別称となった。「烏鷺の争い」とも言う。

太平広記』巻四十「巴邛人」の話も別称の由来となっている。巴邛に住むある男がの庭園を持っていたが、あるとき霜が降りたあとで橘の実を収穫した。しかし3、4も入りそうな甕のように大きな実が2つ残り、それらを摘んで割ってみると、中には老人が2人ずつ入っていた。この老人たちは橘の実の中で碁を打っていた。この話から囲碁は橘中の楽(きっちゅうのらく、―たのしみ)とも呼ばれる。ただし、原文では老人が遊んでいたのは碁ではなく「象戯」(シャンチー)である。

碁盤には、「天元→北極星」、「星→星」、「19路×19路=361 → 1年365日」、「四隅→春夏秋冬」など、自然界・宇宙を抽象的に意味づけているとの主張もあるが、361日と365日は10年で40日(1か月以上)も差があり、こじつけという見方もある。

囲碁に由来する慣用表現

傍目八目・岡目八目(おかめ はちもく)
そばで見ていると冷静だから対局者の見落としている手も見え、八目ぐらい強く見える[32]意から、当事者よりも第三者の方がかえって物事の真実や得失がよく分かる例え[33]
一目置く(いちもく おく)
棋力に明らかに差のある者どうしが対局する場合、弱い方が先に石を置いてから始めることから、相手を自分より優れていると見なして敬意を表すること。その強調形の『一目も二目も置く』が使われることもある。
なお、ハンデ付で対局する「置き碁」については、2目以上を置く場合をそのように呼ぶことが多く、1目を置く(黒で先手し、コミを出さずに対局する)場合については、一般に「先(せん)」という呼び方が用いられる。
駄目(だめ)
自分の地にも相手の地にもならない目のこと。転じて役に立たないこと、上手くいかないこと、してはいけないこと。また、そのさま。
駄目押し(だめおし)
終局後、計算しやすいように駄目に石を置いてふさぐこと。転じて、念を入れて確かめること。また、既に勝利を得るだけの点を取っていながら、さらに追加点を入れることにもいう。
実際の囲碁用語としては「駄目詰め」の方が多用される。
八百長(やおちょう)
江戸時代末期、八百屋の長兵衛、通称八百長なる人物が、よく相撲の親方と碁を打ち、相手に勝てる腕前がありながら、常に一勝一敗になるように細工してご機嫌を取ったところから、相撲その他の競技において、あらかじめ対戦者と示し合わせておき、表面上真剣に勝負しているかのように見せかけることをいう。
布石(ふせき)
序盤、戦いが起こるまでの石の配置。転じて、将来のためにあらかじめ用意しておくこと。また、その用意。
定石(じょうせき)
布石の段階で双方が最善手を打つことでできる決まった石の配置。転じて、物事に対するお決まりのやり方。
捨て石、捨石(すていし)
対局の中で、助けても価値の低い石や助けることの難しい石をあえて相手に取らせること。転じて、一部分をあえて犠牲にすることで全体としての利益を得ること。
死活(しかつ)、死活問題(しかつもんだい)
石の生き死にのこと。また、それを詰碁の問題にしたもの。転じて、商売などで、生きるか死ぬかという問題ごとにも用いられる。
大局観(たいきょくかん)
的確な形勢判断を行う能力・感覚のこと。転じて、物事の全体像(俯瞰像)をつかむ能力のこと。
目算(もくさん)
自分と相手の地を数えて形勢判断すること。転じて、目論見や見込み、計画(を立てること)を指す。

囲碁を扱った作品

文芸

映画

文楽・歌舞伎

  • 祇園祭礼信仰記、金閣寺の段 - “国崩し”松永大膳此下東吉との対局から碁笥を利用した決定的な場面につながる。この話は囲碁用語を解さないとストーリーが理解できない。

漫画

落語

その他


注釈

  1. ^ 日本の公式戦で使用される囲碁のルールである「日本囲碁規約」の規定上は対局者が合意しないと、無限に続く可能性もあるため、有限なゲームとは分類されないが、事実上有限なゲームで、広くプレイされているゲームであるため、適切な停止条件を考慮した上で、二人零和有限確定完全情報ゲームとして研究されている。
  2. ^ 実際に「信長から名人の称号を受けた」かには異論もある。詳細は本因坊算砂を参照。
  3. ^ あくまでも、権利であるため、パスをして相手に手番を渡すことが認められる[5]
  4. ^ 「直前」のみならず、対局中のすべての同一局面の再現の禁止はスーパーコウルールと呼ばれる。日本ルールでは採用されていない。
  5. ^ 双方の石ともに打たれていない点のこと

出典

  1. ^ a b c 囲碁の日本棋院” (日本語). 囲碁の日本棋院. 2021年7月31日閲覧。
  2. ^ 囲碁の日本棋院” (日本語). 囲碁の日本棋院. 2021年7月31日閲覧。
  3. ^ 囲碁,棋聖戦,上達の指南” (日本語). 読売新聞 囲碁コラム. 2021年7月31日閲覧。
  4. ^ ふりがな付きの使用例:日本棋院発行の月刊碁ワールド2012年10月号38ページ、週刊碁2012年11月19日号18面1段最終行。
  5. ^ a b Ⅱ日本囲碁規約(ルール)逐条解説 第1条・第2条|囲碁の日本棋院” (日本語). 囲碁の日本棋院. 2021年8月2日閲覧。
  6. ^ Ⅱ日本囲碁規約(ルール)逐条解説 第13条・第14条|囲碁の日本棋院” (日本語). 囲碁の日本棋院. 2021年8月2日閲覧。
  7. ^ Ⅱ日本囲碁規約(ルール)逐条解説 第4条|囲碁の日本棋院” (日本語). 囲碁の日本棋院. 2021年8月2日閲覧。
  8. ^ a b Ⅱ日本囲碁規約(ルール)逐条解説 第5条|囲碁の日本棋院” (日本語). 囲碁の日本棋院. 2021年8月2日閲覧。
  9. ^ 囲碁の基本:囲碁の打ち方 アタリ|囲碁の日本棋院” (日本語). 囲碁の日本棋院. 2021年8月4日閲覧。
  10. ^ 囲碁の基本:囲碁の打ち方 石を打てない所|囲碁の日本棋院” (日本語). 囲碁の日本棋院. 2021年8月4日閲覧。
  11. ^ 着手禁止|囲碁の日本棋院” (日本語). 囲碁の日本棋院. 2021年8月1日閲覧。
  12. ^ a b 囲碁の基本:囲碁の打ち方 コウ|囲碁の日本棋院” (日本語). 囲碁の日本棋院. 2021年8月4日閲覧。
  13. ^ a b c 囲碁の基本:対局のルール・流れ|囲碁の日本棋院” (日本語). 囲碁の日本棋院. 2021年8月1日閲覧。
  14. ^ Ⅱ日本囲碁規約(ルール)逐条解説 第8条|囲碁の日本棋院” (日本語). 囲碁の日本棋院. 2021年8月4日閲覧。
  15. ^ a b Ⅳ 日本囲碁規約改定の概要(6)「ダメ詰め」、「手入れ」の交互着手原則(根拠の明確化)|囲碁の日本棋院” (日本語). 囲碁の日本棋院. 2021年8月2日閲覧。
  16. ^ Ⅱ日本囲碁規約(ルール)逐条解説 第9条|囲碁の日本棋院” (日本語). 囲碁の日本棋院. 2021年8月2日閲覧。
  17. ^ Ⅱ日本囲碁規約(ルール)逐条解説 第11条・12条|囲碁の日本棋院” (日本語). 囲碁の日本棋院. 2021年8月2日閲覧。
  18. ^ 日本棋院棋士採用規程平成30年12月4日改定
  19. ^ a b c d 岩橋 培樹 東アジアに展開される碁ビジネス -現代的な創造産業としての現状と可能性-(2009年)
  20. ^ a b 松本忠義 囲碁史における定説・通論研究の基礎、方法論
  21. ^ The Sadness and Beauty of Watching Google’s AI Play Go”. WIRED (2016年3月11日). 2016年3月12日閲覧。
  22. ^ 世界の囲碁人口分布図
  23. ^ 「レジャー白書に見るわが国の余暇の現状」
  24. ^ a b c Combinatorics of Go”. tromp.github.io. John Tromp, Gunnar Farneback. 2018年12月22日閲覧。
  25. ^ 将棋における実現可能局面数について”. www.nara-wu.ac.jp. 篠田正人、奈良女子大学理学部. 2018年12月22日閲覧。
  26. ^ a b c d e f g h i 美添一樹「モンテカルロ木探索-コンピュータ囲碁に革命を起こした新手法」『情報処理』第49巻第6号、2008年6月15日、 686–693。
  27. ^ a b Yen, Chen, Yang, Hsu (2004) "Computer Chinese Chess" Archived 2015年7月9日, at the Wayback Machine.
  28. ^ 田中哲朗、「ゲームの解決」 『数学』 2013年 65巻 1号 p.93-102, doi:10.11429/sugaku.0651093
  29. ^ コンピューターにプロ全勝 九路盤、巧みにミス誘う” (日本語). 朝日新聞. 2018年12月22日閲覧。
  30. ^ 「第1回囲碁電王戦」プロ棋士の張豊猷八段と平田智也三段がコンピュータに全勝” (日本語). マイナビニュース (2014年2月11日). 2018年12月22日閲覧。
  31. ^ a b c なぜ「囲碁」だったのか。なぜ「10年かかる」と言われていたのか──AlphaGo前日譚|WIRED.jp” (日本語). WIRED.jp. 2018年12月22日閲覧。
  32. ^ 日本棋院「別冊囲碁クラブNo.37囲碁雑学ものしり百科304ページ「岡目」の項 昭和56年12月」
  33. ^ おかめはちもく”. goo辞書(デジタル大辞泉). 2020年9月24日閲覧。 ただし「八目」が「八手先」を指すと解釈するのは無理がある。





英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「囲碁」の関連用語

囲碁のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



囲碁のページの著作権
Weblio 辞書情報提供元は参加元一覧にて確認できます。

  
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの囲碁 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2021 GRAS Group, Inc.RSS