化学イオン化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/12 02:22 UTC 版)
応用
CI質量分析法は有機化合物の構造解明における有用な手段である[3]。[M+1]+ の形成により存在する官能基を推測するために使用できる安定分子が排除されるため、CIによる質量分析が可能である[3]。これに加え、CIはフラグメンテーションが広範ではないため、分子イオンピークを検出する能力を高める[3]。化学イオン化はガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、キャピラリー電気泳動のようなクロマトグラフィー分離技術と組み合わせることにより、サンプル中に存在する分析物を同定および定量するためにも使用されうる[3]。これにより化合物の混合物からの分析物の選択的イオン化が可能になり、正確な結果を得ることができる。
別の種類
負の化学イオン化 (Negative chemical ionization, NCI)
気相分析のための化学イオン化は正もしくは負のいずれかである[9]。ほとんど全ての中性の分析物は、上記の反応を通して陽イオンを形成することができる。
負の化学イオン化(略称: NCIまたはNICI)による反応を見るためには、分析物は例えば電子捕獲イオン化によって負のイオンを生成する(負の電荷を安定にする)ことができなければならない。全ての分析物がこれを行うことができるわけではないため、NCIを使うことで他の一般的なイオン化技術(EI、PCI)ではできないある程度の選択性が得られる。NCIは酸性基もしくは電気陰性元素(特にハロゲン)を含む化合物の分析に使える[5]:23。さらに、負の化学イオン化はより選択的であり、酸化剤およびアルキル化剤に対してより高い感度を示す[10]。
ハロゲン原子は電気陰性度が高いため、NCIはその分析に対しては一般的な選択である。これにはPCB、農薬、難燃剤などの化合物の多くが含まれる[10]。これらの化合物のほとんどは環境汚染物質であるため、行われるNCI分析の多くは環境分析の援助のもとでなされている。非常に低い検出限界が必要とされる場合はハロゲン化種、酸化剤、アルキル化剤のような環境毒性物質は[9]、しばしばガスクロマトグラフにつながった電子捕獲型検出器を用いて分析される。
負イオンは、近熱エネルギー電子の共鳴捕獲、低エネルギー電子の解離捕獲やプロトン移動、電荷移動、水素化物移動などのイオン-分子相互作用を介して形成される[9]。負イオン技術含む他の方法と比較して、NCIは溶媒がない中でも陰イオンの反応性をモニターすることができるので非常に都合が良い。電子親和力と低原子価のエネルギーもこの手法で決定できる[9]。
電荷交換化学イオン化
これもCIと類似であり、その違いは奇数個の電子を持つラジカルカチオンの生成にある。試薬ガス分子は高エネルギー電子に衝突され、それにより生成される試薬ガスイオンは分析物から電子を引き抜きラジカルカチオンを形成する。この技術に使われる一般的な試薬ガスはトルエン、ベンゼン、NO, Xe, Ar, Heである。
試薬ガスの選択に対して慎重に制御を行い、試薬ガスラジカルカチオンの共鳴エネルギーと分析物のイオン化エネルギーとの間の差に対して考察することでフラグメンテーションを制御することができる[6]。電荷交換化学イオン化の反応は以下の通り。
大気圧化学イオン化 (Atmospheric-pressure chemical ionization, APCI)
大気圧放電における化学イオン化は大気圧化学イオン化 (APCI) と呼ばれ、試薬ガスとして通常水を用いる。APCI源は、溶離液を噴霧する液体クロマトグラフィー口、加熱蒸発器の管、コロナ放電針、10−3 torr真空へのピンホール口からなる[8]。分析物は気体もしくは液体スプレーであり、イオン化は大気圧コロナ放電を用いて達成される。このイオン化法は、高性能の液体クロマトグラフィーと組み合わされ、ここで溶離分析物を含む移動相が高流速の窒素やヘリウムで噴霧され、エアロゾルスプレーがコロナ放電をうけてイオンを生成する。これは比較的極性が低く熱的に安定でない化合物に適用できる。APCIとCIの違いは、APCIは大気圧下で機能することである。大気圧下では衝突の頻度は高くなる。これにより感度およびイオン化効率を向上させることができる[6]。
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