モンゴル語 表記

モンゴル語

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2017/11/17 03:56 UTC 版)

表記

モンゴル語の表記は歴史的に、縦書きのモンゴル文字(フドゥム、胡都木とも呼ぶ)により表記される蒙古文語が専ら使用されてきた(ただし後述のキリル文字が出てくるまで、モンゴル文字が全く伝わらなかった地域も存在する)。ソビエト連邦の全面的な支援によって中国からの独立を果たしたモンゴル人民共和国では、1930年代ラテン文字による表記体系が宣伝された時期もあり、1941年2月1日には一旦ラテン文字表記が公式に採用されたが、その2か月後には撤回された。

結局、ロシア語キリルアルファベットに2つの母音字を加えた表記体系を、モスクワからの指示で1941年に採用し、言文一致の表記が可能となった。1957年にはキリル文字で書かれた教科書も出版されている。他方、中国内のモンゴル系民族はモンゴル文字トド文字英語版オイラト語の表記に使用)による表記体系を現在まで維持し、モンゴル人民共和国のモンゴル語とは、文字により分断されてきた。なお、中華人民共和国内モンゴル自治区では、文字こそ伝統的なものではあるものの、かつての文語ではなく、言文一致を指向してきたことは注意を要する。

モンゴル人民共和国は、ソ連崩壊に伴い社会主義を脱却し、民主主義を果たして、新生モンゴル国となったが、その際に、民族意識の高揚と共に、伝統的なモンゴル文字を復活させようという動きが一時高まった。1991年には国家小議会 第36号決定において、1994年からのモンゴル文字公用化が決定され、その準備が指示された。

しかし、内モンゴル自治区の新たな文字表記との接触がほとんどなかった一般国民の間では、「モンゴル文字」イコール「話しことばとは無関係の文語」というイメージが定着してしまっており、言語そのものと文字の関係に関する正しい理解が得られなかったことなどから、一時期は正式に計画されていたモンゴル文字への全面的な切り替えは正式に中止された。

現在、モンゴルの一般教育では、週1時間のモンゴル文字の時間が設置されているが、社会的にはすっかり無関心になっていることもあり、生徒達も自分の名前をモンゴル文字で書ける程度である。なお、モンゴル政府は、パソコン上での使用のためのラテン文字への置換え基準を正式に制定したが、国民の規範意識は低く、電子メールなどでは個人によってバラバラの表記が通用している。

歴史的には、16世紀以降のチベット仏教の普及に伴い、チベット文字を俗語であるモンゴル語の表記に用いることも、僧侶たちの間では広く行われ、現在でもその伝統は一部継続している。また、チベット文字を基にしたパスパ文字は元朝の公用文字のひとつであり、モンゴル語の表記にも広く使われた。また、チベット文字などインド系文字を参照しながら作り上げられたソヨンボ文字という文字も存在している。『元朝秘史』は明代に中国で翻訳された版本が残っているが、ここでは原文であるモンゴル語を、漢字で音訳し表記している。

モンゴル文字表記

キリル文字表記

大文字 А Б В Г Д Е Ё Ж З И Й К Л М Н О Ө П
小文字 а б в г д е ё ж з и й к л м н о ө п
転写 a b v g d je jo ž z i i k l m n o ö p
音価 /a/ /b/ /β, w/ /g/ /d/ /je, jɵ/ /jɔ/ /ʥ/ /ʣ/ /i/ /j/ /k/ /ɬ/ /m/ /n/ /ɔ/ /ɵ/ /p/
大文字 Р С Т У Ү Ф Х Ц Ч Ш Щ Ъ Ы Ь Э Ю Я
小文字 р с т у ү ф х ц ч ш щ ъ ы ь э ю я
転写 r s t u ü f x c č š šč y ' e ju ja
音価 /r/ /s/ /t/ /o/ /u/ /f/ /x/ /ʦ/ /ʨ/ /ɕ/ /ɕʨ/ /iː/ /e/ /jo, ju/ /ja/

モンゴル語に用いるキリル文字はロシア語に用いるキリル文字に өү の2つの母音字を追加したものである。母音字12、子音字20、記号2、半母音字1の35文字からなる。このうち、к, п, ф, щは外来語にのみ用いられ、固有のモンゴル語に用いられることはない。また、о, уの発音はロシア語ではそれぞれ[o, u]だが、モンゴル語ではそれぞれ口を大きく開けて[ɔ, o]と異なって発音されることに注意。

男性母音 女性母音 中性母音
短母音 表記 а о у ү ө э и
音価 [a] [ɔ] [o] [u] [ɵ] [e] [i]
長母音 表記 аа оо уу үү өө ээ, эй ий
音価 [aː] [ɔː] [oː] [uː] [ɵː] [eː] [iː]
二重母音 表記 я ё ю е
音価 [ja] [jɔ] [jo] [ju] [jɵ] [je]
表記 яа ёо юу юү еө еэ
音価 [jaː] [jɔː] [joː] [juː] [jɵː] [jeː]
表記 ай ой уй үй
音価 [ai] [ɔi] [oi] [ui]

モンゴル語の正書法では、第一音節の7つの母音は上記7文字の1つ1つを対応させる一方、第二音節以降に唯一現れうる1つの短母音については、実際の発音とは一切関係なく、機械的にいずれかの文字を選ぶことになっている。

長母音を表記するための専用の文字はなく、対応する短母音(第一音節に現れるもの)を表記する母音字を2つ重ねることでこれを表記する。従って、ハーン (/xaːŋ/) は、хаан となる。ただし、и の長母音のみは例外で、記号である「ハガス・イー」й を使い ий と書く(筆記体で書いた時に他の子音字と紛らわしいことが理由)場合と ы の字を使う場合との2通り存在する(発音はどちらも同じであることに注意)。なお、й は、и 以外の母音字と共に2文字で1つの重母音を表記する綴りともなる。

ロシア語における軟音記号 ь や硬音記号 ъ は、モンゴル語においても同様な用途でもって使用される(ただしこれらはロシア語ほどには出現頻度は高くない)。軟音記号 ь は単独では使用されず、一部の子音の直後に付き、その子音に半母音 /j/ の音が弱く混じったような音に変化することを表す。例:морь /mɔrʲ/ 馬、「モルィ」のように発音される。ただし、ь 自体単独で音価を持つことはなく(ゆえに単独では使われず)、子音に付くことで元の子音とは別なもう1つの子音であることを意味する(さきの例で言えば р /r/ に対し рь /rʲ/ という別な1つの子音であることを表している)。これを子音の軟音化といい、この軟音ともとの子音との対立が語彙の違いに影響する(例:тав「5」, тавь「50」)。また、硬音記号 ъ は、子音と母音の間に挟んで、それぞれが分けて発音されることを表す。例:суръя /sor'j/ 学ぼう、「ソルィ」のように発音され、「ソリ」のようにはならない(なお、語末のя, е, ё は半母音 /j/ のみを発音する)。




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  1. ^ a b 東外大のモンゴル語のモジュール
  2. ^ Törijn alban josny helnij tuhaj huul'”. MongolianLaws.com (2003年5月15日). 2009年8月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年3月27日閲覧。 The decisions of the council have to be ratified by the government.
  3. ^ "Mongγul kele bičig-ün aǰil-un ǰöblel". See Sečenbaγatur et al. 2005: 204.
  4. ^ 荒井幸康 (2013年9月19日). “モンゴル人を悩まし続けている「文字」の変遷 政治勢力に翻弄され、縦書きと横書きを行ったり来たり”. 日本ビジネスプレス. http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38720 2013年9月28日閲覧。 







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