ホヴァーンシチナ あらすじ

ホヴァーンシチナ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/02/05 23:51 UTC 版)

あらすじ

  • 【】内はリムスキー=コルサコフ編曲版では省略されている。

前奏曲

モスクワ川の夜明けРассвет на Москве-реке)』という題名で知られ、しばしば単独で演奏される曲。「前奏曲」(Прелюдия)と訳されるが、草稿には「序奏」(Вступление)と記されている。川の小波、鳥のさえずりなど、モスクワの夜明けの美しさが変奏曲の形式で描かれ、続くオペラ本編の人間たちの壮絶な政治闘争の描写と好対照を成す。主題は、オペラ第3幕に置かれたシャクロヴィートゥイのアリアと関連を持っている。

第1幕

1682年の銃兵隊反乱を描いたコルズーヒンの絵画(1882年)。ピョートル1世のおじイヴァン・ナルイシキンを連行・殺害する銃兵隊、それを嘆く母ナタリヤ・ナルイシキナと幼いピョートル、その横にソフィア・アレクセーエヴナ。

モスクワ赤の広場 - 1682年 銃兵隊反乱の翌朝

中央に碑文を刻み込んだ石柱、右手に代書屋の作業小屋。

若い銃兵隊員のクーシカが石柱にもたれ、寝ぼけて歌を歌っている。鐘の音が轟き、遠くから銃兵隊のラッパが鳴り響く中、二人の銃兵隊員が登場、昨夜の反乱について物騒な手柄話をしていると、クーシカが目覚め三人は談笑する。そこへ代書屋が登場、銃兵隊の三人は代書屋をからかいながら退場する。入れ替わりに貴族シャクロヴィートゥイが現れ、高圧的な態度で代書屋に密告書を書かせようとする。その態度が気に入らない代書屋は一度は断るが、金袋を出されると態度を豹変させ仕事を始める。密告書の内容は、銃兵隊長官であるホヴァーンスキー公が、銃兵隊の兵力を使って、息子のアンドレイを皇位につけようと企んでいる、というものであった。他言無用と言い残しシャクロヴィートゥイが去ると、代書屋は死んだ仲間の筆跡で書いてやった、奴は馬鹿野郎さ、と嘲る。

【代書屋が金勘定をしようとするところへ、モスクワの群集が登場。彼等は広場に建てられた石柱を見て驚く。刻まれた碑文の内容を知りたがるが誰も文字が読めない。そこで代書屋に碑文を読むよう頼むが、謝礼を要求されたので怒って代書屋の作業小屋を壊しにかかる。驚いた代書屋はしぶしぶ碑文を読み始める。碑文には、銃兵隊が在留外国人や反対派の大貴族を襲って正義の鉄槌を下した(殺害した)ことが記されてあった。驚愕した群集は、ロシアの行く末を案じて歌う(群集の合唱「おお、母なる祖国ルーシ」)。】

遠くで鳴っていた銃兵隊のラッパが近づき、代書屋は、野獣の親玉の登場だ、と叫んで急いで立ち去る。入れ替わりに扇動した群衆や銃兵隊の歓呼の声に迎えられホヴァーンスキー公が取り巻きとともに登場する。公は、我々は正義を成し遂げた、と演説をぶち銃兵隊を従えてモスクワの巡検に出掛ける。群衆は「白き大鳥に栄えあれ」と合唱しながらこれに続く。

人々が去った後、ドイツ人でルター派教徒のエンマがアンドレイ・ホヴァーンスキーに追われて逃げて来る。アンドレイはエンマをものにしようとするが、彼に父親を殺され婚約者を追放されたエンマは靡かず、もみ合ううちにアンドレイのかつての恋人であるマルファが登場、二人の間に割って入る。かつての恋人同士が刃物を持ってにらみ合ううちに、巡検を終えたホヴァーンスキー公の一行が赤の広場へ戻ってくる。エンマを見た公は、己のものにしようとするがアンドレイに遮られ、親子が一触即発となったところへ、古儀式派教徒を伴い同派のリーダーであるドシフェイが登場、古儀式派であるホヴァーンスキー親子を制止し、マルファにエンマを家へ送るよう命じる。そして、群集にともに神のために闘おうと呼び掛ける。分が悪いと悟ったか、公はアンドレイ、銃兵隊を伴って退場する。続いてドシフェイと古儀式派教徒も祈りながら立ち去る。その声に鐘の音がかぶさり幕。

第2幕

フョードル・シャリアピンが演じるドシフェイ(1912年)。

ヴァシーリー・ゴリーツィン公の屋敷の書斎 - 夏の夕刻

ゴリーツィン公が摂政で愛人関係にある皇女ソフィア・アレクセーエヴナからの恋文を読んでいる。公は気紛れな皇女を信頼しきることができず不安な気持ちを抱いている。続いて母親の手紙に目を通すが、心身ともに潔白であれ、という文言が気になり物思いにふける。

【腹心のヴァルソノフィエフが現れ、ルター派の牧師が面会に来たことを告げる。牧師は公にエンマの保護を求め、色好い回答を得る。調子に乗った牧師はモスクワのドイツ人居住区に教会を建てることも請願するが、にべもなく断られすごすごと退場する。ゴリーツィン公は牧師の退場後、彼を罵倒する。】

ヴァルソノフィエフが現れ、ゴリーツィン公が会いたがっていた魔法使いの女(マルファ)が到着したことを告げる。マルファが登場し、ゴリーツィン公は彼女に先行きが見えない現状についてこぼす。すると、マルファは水占いにより未来を予言して見せようと言う。占いの準備が出来ると、マルファは次第にトランス状態となり霊の言葉を伝える。それはゴリーツィン公の失脚と辺境への流刑という未来であった(マルファの予言の歌「公よ、貴方を待ち受けるは失脚と辺境への流刑」[8])。激怒した公はマルファを下がらせ、ヴァルソノフィエフを呼ぶと、手下を使ってマルファを沼に沈めろ、と命じる。マルファはこれを耳に挟みながら退場する。

一人残ったゴリーツィン公が予言の内容に絶望していると、横柄な態度でホヴァーンスキー公が書斎に入って来る。ホヴァーンスキー公はゴリーツィン公の「改革」で大貴族が貶められている[9]と不満を言い、挙句の果てはゴリーツィン公の戦功がまやかしだと罵る[10]ので二人はあわや乱闘となる。そこへドシフェイが登場し二人を制止する。

【ドシフェイは、自分の前歴は大貴族であるムィシェツキー公であることを明かし、揃って会談に臨むことを両公に訴えようやく予定されていた会談が始まる。】

会談のテーマは「ロシアの未来」であったが、ドシフェイはゴリーツィン公の施策を西洋かぶれと批判し、ゴリーツィン公は古儀式派を古臭いと馬鹿にする。一方、ホヴァーンスキー公は武力を背景にロシアの統治を任せて欲しいと提案するが、 ドシフェイに銃兵隊の行状の悪さを非難され、一向に話はまとまらない。ちょうど古儀式派教徒が窓外を祈りながら通過し、ドシフェイが我等の信仰の力でロシアを復活させると語り、ホヴァーンスキー公が、銃兵隊と信仰の力でロシア復活か、たいしたもんだ!と皮肉ったところへ、突然マルファが飛び込んで来てゴリーツィン公に命乞いする。ゴリーツィン公は蒼白となり、ドシフェイとホヴァーンスキー公は説明を求める。マルファはゴリーツィン邸からの帰途、ゴリーツィン公の命で刺客に命を狙われたが、ピョートル親衛隊が居合わせて救ってくれた顛末を語る。これを聞いた三人はピョートル皇帝が力を付け始めたことを知り驚愕する。その時、ヴァルソノフィエフが現れ、シャクロヴィートゥイの来訪を告げる。シャクロヴィートゥイは、ホヴァーンスキー親子が帝位を狙っているという密告書が届けられ、ピョートル皇帝が「ホヴァーンシチナ」とつぶやき陰謀について調査を命じたことを伝える。

第3幕

モスクワ川右岸にある銃兵隊居住区 - 正午

セルゲイ・ヴォルギンが演じる代書屋(1923年)。

古儀式派教徒が唱和しながら通り過ぎた後、マルファが登場しアンドレイのことを思いながら歌う(マルファの恋の歌「若い娘は歩き回った」)。その歌を聞いた古儀式派教徒の老女スサンナは、マルファが世俗的な愛を断ち切っていないことを非難し、魔女裁判にかけて処刑してやると脅す。続いてドシフェイが登場しスサンナを諭すが、聞き入れられないとわかると彼女を叱責し追い払う。マルファは自分がアンドレイとともに炎の中で焼かれ浄化する幻を見たと訴え、ドシフェイはそれを慰めながらともに退場する。

入れ替わりにシャクロヴィートゥイが登場し、銃兵隊に蹂躙された祖国を思い歌う(シャクロヴィートゥイのアリア「ああルーシよ、あなたは呪われている」)。そこへ酔っ払った銃兵たちが登場、シャクロヴィートゥイはお前たちの世も長くはない、と捨て台詞を残して退場する(酔い覚ましの合唱「起きろ若いの!」)。続いて銃兵の妻たちが登場、酔っ払ってばかりで家庭を顧みない夫を非難する。

【妻たちの剣幕に慄いた銃兵たちは、クーシカに頼んで妻たちを宥めてもらおうとする。クーシカはバラライカ片手に「ゴシップ女の歌」を歌ってその場をうまくおさめる。】

そこへ血相を変えて代書屋が飛び込んでくる。代書屋はベルゴーロド地区の銃兵隊居住地が、外国人傭兵部隊とピョートル皇帝の親衛隊に襲撃されたことを伝える。愕然とする銃兵とその妻たちであったが、クーシカの提案で、とにかくホヴァーンスキー公に事態を報告し、敵を迎え撃とうということになる(銃兵隊と妻たちの合唱「親父殿、出て来てください」)。

銃兵たちの呼びかけに応じて、ホヴァーンスキー公が建物から現れる。銃兵とその妻らは公にご出陣を!と訴えるが、ピョートル皇帝が既に強大な力を持っていることを理解した公は出陣を拒否し、銃兵らに各々家に帰り沙汰を待てと告げて引き籠る。銃兵らの嘆きの合唱で幕。

第4幕

第1場

ホヴァーンスキー公領地内の大邸宅 食堂

女農奴が美しい「草原の小川の傍で夜を明かした」を合唱する傍らで食事を摂っていたホヴァーンスキー公は、湿っぽい歌を歌うなと怒り、陽気な踊り歌「お小姓さん」を歌わせる。気分が乗ってきたところへゴリーツィン公の使者が訪れて、災難が迫っていると伝える。しかし、ホヴァーンスキー公は己の屋敷内でどんな災難が待ち受けるのか、と嘲笑い、使者を馬丁に「御持て成し」させる。興を殺がれた公はペルシャの女奴隷を呼んで踊らせる(ペルシャ奴隷の踊り)。

突然、シャクロヴィートゥイが入って来て、公に、摂政ソフィア様が貴方を呼んでいる、貴方無しでは会議が開けないと仰っている、と伝える。この言葉に喜んだホヴァーンスキー公は、女農奴が公を称える「雌白鳥が泳いで行く」を歌う中、礼服に着替え礼拝を済ませて部屋を出ようとする。その時、戸口に潜んでいた刺客がホヴァーンスキー公を刺し、絶叫と共に公は倒れる。シャクロヴィートゥイは死体に近づき、「白鳥殿に栄光あれ」と嘲り高笑いと共に退場する。

第2場

銃兵処刑の朝 スリコフの絵画(1881年)。

モスクワ聖ワシリイ大聖堂前の赤の広場

マルファの予言の歌のメロディに基づく管弦楽の前奏で始まる。群集がたむろする中、武装した傭兵に伴われ、失脚したゴリーツィン公を乗せた馬車がゆっくりと流刑地に向け進んで行く。ドシフェイがそれを見送り慨嘆していると、マルファが現れ、最高会議が古儀式派教徒を滅ぼす決定を下したことを伝える。ドシフェイはマルファにアンドレイを連れて来るよう命じて姿を消す。

やがてアンドレイが現れ、エンマを返せと叫ぶ。マルファは、エンマは故郷であるドイツに帰り、ホヴァーンスキー公は殺害され、貴方は追われる身だ、と伝えるが、アンドレイは信じない。角笛を吹いて銃兵隊にマルファを捕らえさせようとするが誰も来ない。再度、角笛を吹くと、陰鬱な鐘の音と共に、鎖に繋がれ自らの断頭用の丸太・斧を持たされた銃兵とその妻たちが集まって来る。この光景に怯えたアンドレイはマルファに助けを求め、二人はその場を去る。

銃兵とその妻たちの悲痛な叫びがこだまし、処刑が開始されようとした時、プレオブラジェンスキー行進曲が鳴り渡り[11]、ピョートルの親衛隊と指揮官ストレーシネフが登場、ピョートルとイヴァン両皇帝より銃兵隊に特赦が与えられたことを告げる。銃兵とその妻たちの喜びのうちに幕。

第5幕

モスクワ郊外の林の中にある古儀式派修道院 月夜

ドシフェイが登場し、信徒たちに万策尽きた今、誓いを成就し運命をともにしよう、と呼び掛ける(この聖なる場所で)。信徒たちは炎により自らの潔白を証明しようと合唱し、殉教者となることを決意して修道院へと入って行く。一人残ったマルファがアンドレイのため祈っていると、アンドレイがエンマの名を呼びながら現れる。マルファは、昔の二人の愛を思い出して欲しいと言い、ハレルヤを唱える。

ラッパの音が響き、ピョートル皇帝の軍隊が近づいたことを知らせる。マルファはアンドレイに、最早どこにも逃げ道はないと言い、炎の中へ一緒に行こうと誘う。ドシフェイと信徒たちが唱和する中、マルファは薪の山に火をつける。ラッパの音が高まり、軍隊が近づく中、修道院は炎に包まれ、皆は「アーメン」を唱えながら焼け死ぬ。


  1. ^ 神竹喜重子 (2021). 「ホヴァーンシチナが日の目を見るまで──一九八二年のキエフ初演」大西由紀・佐藤英・岡本佳子編『オペラ/音楽劇研究の現在:創造と伝播のダイナミズム』. 水声社. p. 63-87 
  2. ^ Alfred Loewenberg (1978) [1943]. Annals of Opera 1597-1940 (3rd ed.). London: John Calder. p. 1121. ISBN 0714536571 
  3. ^ Richard Taruskin (1996). Stravinsky and the Russian Traditions. University of California Press. pp. 1054-1058. ISBN 0520070992 
  4. ^ 第3幕、「マルファの恋の歌」及び「酔い覚ましの合唱」の2箇所。
  5. ^ リムスキー=コルサコフ編曲版ではこの設定は表れてこない。
  6. ^ 1672年に始まる古儀式派の抵抗から数えればおよそ四半世紀にわたる。
  7. ^ 例えば、教会周囲の練り歩きの方向を逆にする、十字は2本指ではなく3本指で切る、祈拝は投身ではなく腰までで行う、など。
  8. ^ 本来は1870年に構想されたオペラ「水呑百姓」(Бобыль)のために作曲された。
  9. ^ フョードル3世が最晩年(1682年)に行った門地制(メストニチェストヴォ、Местничество)の廃止のことを指す。
  10. ^ ゴリーツィン公が指揮した二度のクリミア遠征失敗のことを指す。
  11. ^ 若き日のムソルグスキーはプレオブラジェンスキー連隊の将校であった。
  12. ^ 記載あるもののみ。
  13. ^ DreamLifeのDVD版ではカットされているが、131分の全長版ではこの場面は存在する。したがって、この映画としての改変とは考えられない。






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