ブラックホール 蒸発

ブラックホール

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/09/12 09:59 UTC 版)

蒸発

古典物理学においては、ブラックホールはただひたすら周囲の物体を呑み込み質量が増大していくだけである。しかし、一般相対性理論に量子論を加えた理論を開拓したことで知られるスティーヴン・ホーキングは1974年、ブラックホールから物質が逃げ出して最終的にブラックホールが蒸発する可能性を指摘した[45]。その理論は以下の通りである。

量子力学ではエネルギーと時間は不確定性関係にあり、時空の微小な領域で粒子と反粒子の対生成対消滅が絶えず起こっているとされる。ブラックホールの地平面の近傍でこのような仮想粒子対が生成すると、それらが対消滅する前に片方の反粒子がブラックホールの地平面内に落ち込み、もう一方の粒子が遠方へ逃げ去ることがある[46]。地平面内に落ち込んだ反粒子は負のエネルギーであるため、ブラックホールのエネルギーは減衰する[47]。この現象が繰り返されることによって、粒子がブラックホールから次々に地平面を通り抜けて飛び出してくるように見え[46]、ブラックホールは徐々にエネルギーを失っていくように見える[47]

この粒子の放出はブラックホールの地平面上で確率的に起こるため、巨視的にはブラックホールがある温度の熱放射で光っているように見える。これをホーキング輻射(またはホーキング放射)と呼ぶ[48]。この輻射によってエネルギーを失うと(エネルギーは質量と等価なので)ブラックホールの質量は減少する。ホーキング輻射の温度はブラックホールの質量に反比例し、以下の公式で表すことが出来る[45]

大きさ形成特徴モデル問題計量関連項目

注釈

  1. ^ この乱暴な態度が、その後40年間ブラックホールの研究が滞る結果を招く要因となる。また、このやりとりはチャンドラセカールのその後の人生にも暗い影を落とすことになった[15]
  2. ^ なお、カー解は、ブラックホール唯一性定理により、軸対称定常・真空かつ無限遠平坦という仮定のもとでのアインシュタイン方程式のただ一つの解であることが示されており、ブラックホール脱毛定理(無毛定理)の描像とあわせて、物理的に形成されるブラックホールの最終段階と考えられている[22]。1973年に京都大学冨松彰佐藤文隆が発見したトミマツ・サトウ解はカー解を歪めたもので裸の特異点が存在する[23]
  3. ^ ペンローズ本人は幾何学を専門としており、デニス・シアマにその才能を一般相対性理論の領域で活かすべきだと誘われている[25]
  4. ^ なお、ホイーラーはダラス会議から1年と経たない段階で、スティーヴン・ホーキングと出会っている[25]。ホーキングは後に、事実上ホイーラーの最良の教え子となり、ブラックホールの研究を最も確固たる形で受け継ぐことになった[25]。ホーキングは飲み込みの良い学生で、ペンローズの手法を全て吸収し、逆向きの星の崩壊と考えることができる、開いた宇宙(永久に膨張し続ける宇宙)に手法を応用した[24]

出典

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