ヒトパピローマウイルス ヒトパピローマウイルスの概要

ヒトパピローマウイルス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/10 07:33 UTC 版)

ヒトパピローマウイルスの電子顕微鏡写真

通常は様々な免疫が応答し体内から排除される[1]。発がん性のリスクが高いといわれるHPV16型や18型でも、出生時に感染がみられ[2][3]、日本の5歳でも、口腔から16型が1/3の子供から検出されている[4]

感染の多い型のウイルスに対してはヒトパピローマウイルスワクチン(HPVワクチン)が開発されている。

性状

エンベロープを持たない環状構造の二本鎖DNAウイルス。全世界的に古くから存在していた[要出典]。2016年現在180以上のHPVの遺伝子型に分類されており[5]、生殖器粘膜に感染する40以上の型が知られており、そのうち子宮頸癌の発症に関わる高リスク型HPVとして少なくとも15の型が知られていて、なかでもHPV16は全世界の子宮頸癌の約50%から検出されている[6]。正20面体のカプシドで覆われており、遺伝子サイズは種類により異なるがだいたい約8,000塩基ほどで、8から9のオープンリーディングフレーム(ORF:蛋白をコードしていると推定される遺伝子。しかしその遺伝子産物は同定されていない)を含んでいる。欧米の子宮頸癌でよく発見される16型HPVの場合、初期遺伝子 (E1,E2,E4,E5,E6,E7) と後期遺伝子(L1とL2)というORFを持っている。その中で特にE6とE7が発癌に関与していると考えられている。

E6はがん抑制遺伝子であるp53と結合し分解することで発癌に寄与している。E6はそれ以外にもhTERTの再活性化やPDZドメインを持つたんぱく質を分解することで発癌に寄与している。E7はp53と同様がん抑制遺伝子であるpRbと結合、分解・不活化することでpRbと結合している転写因子であるE2Fを遊離し活性化することで発がんに寄与している。それ以外にもE7はcdk阻害因子であるp21、p27と相互作用することで発癌に寄与している。

青:E6赤:p53 緑:ユビキチンリガーゼ/E6AP PDB ID : 4XR8

それ以外のウイルスがコードするタンパク質ではE1はDNAヘリカーゼ活性を有し、E2と結合することでウイルスゲノムの複製に関与している。E2はE1と同様ウイルスゲノムの複製に関与するが、ウイルス遺伝子の発現調節に関わるLCR (Long Control Region) 上に結合ドメインがあり、初期遺伝子の発現調節(特にE6、E7)に関わっている。E4はサイトケラチンのネットワーク崩壊、E5はEGFRの活性化などが報告されているが、これらのウイルスタンパクの明確な機能は明らかにされていない。L1とL2はカプシドタンパクでL1のみでウイルス様粒子を形成できることが知られている。後半に記述しているGardacilやCervarixなどはいくつかの型のL1をもとに作製したワクチンである。L2はキャプシド形成に補助的に働いていることが知られている。

通常、ウイルスは自己の複製を促すため感染細胞の増殖能を上げるために分化を抑制することが多いが、HPVのゲノム複製は分化依存的に行われる。そのため、単層培養系ではウイルスのライフサイクルを再現することが出来ず、純培養が不可能なウイルスである。

種類

HPVは2016年現在、180種類以上存在が確認され、発見順に番号がつけられている。

感染部位による分類

上皮型
HPV1、5、8、14、20、21、25、47型
粘膜型
HPV6、11、16、18、31、33、35、39、41、45、51、52、56、58、59、68、70型

発癌性による分類

日本性感染症学会の『性感染症 診断・治療 ガイドライン 2016』[5]による分類では、

低リスク群
手足に発症する尋常性疣贅(イボ)
HPV2、27、57型など
高リスク群
子宮頸癌や外陰癌の発症要因の一つと考えられている
HPV16、18型
HPV31、33、35、39、45、51、52、56、58、59、68、73、82型など
膀胱癌や咽頭癌の他、外陰癌や肛門癌との関連性も近年指摘されている

HPV検査における分類

子宮頸管部から採取した細胞から抽出したDNAを使用するHPV核酸キット(体外診断用医薬品)が、各社から発売されている。細胞診でBethesda systemのASC-US以上(日母分類のClassIIIa以上に相当)と判定された患者に適用される。子宮頸がんの高リスク型HPV(high risk human papillomavirus; hrHPV)は、HPV16、18、31、33、35、39、45、51、52、56、58、59、68 型(13 種類)。その中でもHPV16、18、31、33、35、(45、)52、58型の感染が子宮頸癌の前駆病変であるCINの進展に有意なリスクであることが報告されており、HPVタイピングが治療方針決定に有用とされる[7]

  • ハイリスクHPV検査
キットで陽性の判定結果は、子宮頸癌の原因ウイルスである中~高リスク型HPV のいずれかに感染していることを示す。
HPV DNA「キアゲン」HC II[8]など
  • HPVジェノタイプ判定検査
13種高リスクHPVゲノムの検出と型判別
どのタイプに感染しているか詳細な情報を得られるので、治療方針決定の目的で行われる[9]
クリニチップHPV[7]など

  1. ^ a b Westrich, Joseph A.; Warren, Cody J.; Pyeon, Dohun; et al. (2017). “Evasion of host immune defenses by human papillomavirus”. Virus Research 231: 21-33. doi:10.1016/j.virusres.2016.11.023. PMC 5325784. PMID 27890631. https://doi.org/10.1016/j.virusres.2016.11.023. 
  2. ^ a b Cason J, Kaye JN, Jewers RJ, etal (November 1995). “Perinatal infection and persistence of human papillomavirus types 16 and 18 in infants”. J. Med. Virol. 47 (3): 209-18. PMID 8551271. 
  3. ^ a b Mund, K.; Han, C.; Daum, R.; et al. (1997). “Detection of Human Papillomavirus Type 16 DNA and of Antibodies to Human Papillomavirus Type 16 Proteins in Children”. Intervirology 40 (4): 232-237. doi:10.1159/000150552. PMID 9612724. 
  4. ^ a b Kojima, A; Maeda, H; Kurahashi, N; et al. (2003). “Human papillomaviruses in the normal oral cavity of children in Japan”. Oral Oncology 39 (8): 821-828. doi:10.1016/S1368-8375(03)00100-3. PMID 13679205. 
  5. ^ a b c d e f g 日本性感染症学会「性感染症 診断・治療 ガイドライン2016」(pdf)『日本性感染症学会誌』第27巻1 Supplement、2016年11月。 
  6. ^ a b 柊元巌、森清一郎、長島真美『ヒトパピローマウイルス感染症 (pdf)』(レポート)、国立感染症研究所、2012年9月。2018年3月10日閲覧
  7. ^ a b クリニチップHPV pmda
  8. ^ HPV DNA「キアゲン」HC II pmda
  9. ^ 子宮頸がんと検診 子宮頸がん検診における細胞診とHPV検査併用の有用性に関する研究班HP
  10. ^ 笹川寿之「ヒトパピローマウイルス (HPV) ワクチンの現状と課題」(pdf)『Modern Media』第55巻、2009年、269-275頁、NAID 80020752537 
  11. ^ 今野良「Chapter1 HPV感染と子宮頸癌」『知っておきたい子宮頸がん診療ハンドブック』(pdf)中外医学社、2012年、1-5頁。ISBN 978-4-498-06062-3http://www.chugaiigaku.jp/upfile/browse/browse685.pdf 
  12. ^ Kreimer, Aimée R.; Bhatia, Rohini K.; Messeguer, Andrea L.; et al. (2010). “Oral Human Papillomavirus in Healthy Individuals: A Systematic Review of the Literature”. Sexually Transmitted Diseases (6): 1. doi:10.1097/OLQ.0b013e3181c94a3b. PMID 20081557. 
  13. ^ 『ウイルスの臨床検査』《臨床検査MOOK No.28》p.243. 金原出版、1988年、ISBN 978-4307643283
  14. ^ ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種への公費助成に関する要望書 (PDF) 日本産科婦人科学会、2010年
  15. ^ Ault, Kevin A. (2007). “Effect of prophylactic human papillomavirus L1 virus-like-particle vaccine on risk of cervical intraepithelial neoplasia grade 2, grade 3, and adenocarcinoma in situ: a combined analysis of four randomised clinical trials”. The Lancet 369 (9576): 1861-1868. doi:10.1016/S0140-6736(07)60852-6. PMID 17544766. 
  16. ^ Nick Mulcahy (2016年10月24日). “GSK’s HPV Vaccine, Cervarix, No Longer Available in US”. Medscape. https://www.medscape.com/viewarticle/870853 2018年3月10日閲覧。 
  17. ^ 松本光司「2) 子宮頸癌制圧のためのHPVワクチン(クリニカルカンファレンス1 婦人科がんとTR,生涯研修プログラム,第60回日本産科婦人科学会学術講演会)」『日本産科婦人科學會雜誌』第60巻第2号、2008年、404頁、NAID 110006804731 
  18. ^ a b HanleySharon、今野良「HPVワクチン-40歳代女性を含むCatch-up vaccination」『産科と婦人科』第77巻第9号、2010年9月、1016-1022頁、NAID 40017265898 
  19. ^ HPV“治療”ワクチンを米社が開発、第I相臨床試験結果発表”. Medical Tribune (2012年10月16日). 2014年9月2日閲覧。
  20. ^ ヒトパピローマウイルス感染症(子宮頸がん予防ワクチン)”. 厚生労働省. 2014年9月2日閲覧。


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