トマス・アクィナス 著作

トマス・アクィナス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/07 06:17 UTC 版)

著作

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分類と解説

トマスの著作は、大きく以下の5種類に分類できる[41]

  1. 神学に関する総合的・体系的著作
  2. 討論
  3. 聖書注解
  4. アリストテレス及びその他の権威ある著作の注解
  5. その他の小著作。

第一のカテゴリーに分類されるものには、『命題論集注解』及び『対異教徒大全』のほか、もっとも有名な『神学大全』が含まれる。

第二のカテゴリーには、様々な題のついた「定期討論集」(正規の授業で行なわれた討論を集めたもの)と「任意討論集」(復活祭と誕生祭の前の週に行なわれた討論を集めたもの)がある。

定期討論集は以下のとおり

  • 『悪について』
  • 『神の能力について』
  • 『真理について』
  • 『徳一般について』
  • 『霊魂について』
  • 『霊的被造物について』

第三のカテゴリーは、旧約聖書や新約聖書の注解である。

旧約聖書の注解は以下のとおりである。

  • 『ヨブ記注解』
  • 『詩篇注解』
  • 『イザヤ書注解』
  • 『エレミヤ書注解』
  • 『エレミヤ悲歌注解』

新約聖書の注解は以下のとおり

  • 『マタイ福音書注解』
  • 『ヨハネ福音書注解』
  • 『カテナアウレア』(1475年)。これは四福音書への注解である。この福音書注解はどちらかというと教父たちの注解を引用して集成したものといえる。

第四のカテゴリーは、アリストテレスやその他の権威ある人の注解である。

アリストテレスの著作への注解は以下のとおり

  • 『感覚と感覚されるものについての注解』
  • 『記憶と想起についての注解』
  • 『形而上学注解』
  • 『自然学注解』
  • 『生成消滅論注解』
  • 『天体宇宙論注解』
  • 『分析論後書注解』
  • 『命題論注解』
  • 『倫理学注解』
  • 『政治学注解』

アリストテレス以外の権威ある者の著作への注解は以下のとおり

  • 『原因論注解』
  • 『ディオニシウス注解』
  • 『ボエティウス・デ・ヘブドマディブス注解』
  • 『ボエティウス三位一体論注解』

第五のカテゴリーには、『世界の永遠性についてーつぶやく者に対して』など論争的著作や『存在するものと本質について』など特定の主題についての論文が含まれる。

トマスは著作を自ら筆記せず、口述したものを弟子たちに書き取らせた。トマスは悪筆で有名で、初期の伝記作家によればトマスは複数の筆記者にそれぞれに異なった事柄を話し、あたかも「神からの真理の巨大な奔流が彼のうちに流れこんでいるかのようだった」という。このような伝説的な逸話は別としても、近代の研究者も写本の研究から、トマスが覚書を手にして読み上げながら、自分が読み上げた文章を必要に応じて修正し、他の著作を引用するときはその書物を取り出して読んでいたのであろうと推測している[42]

その著作において、トマスはドゥンス・スコトゥスらと違い、読者にも自らの思想の軌跡を懇切丁寧に追体験させるような表現をせず、権威を持って教えるという形にしている。これは彼が啓示を受けて著作したというスタンスに立っているためであり、そのためトマスの著作は現代のわれわれの視点からはやや物足りないという感を与えるものになっている。

著作(主な邦訳)

神学大全以外
  • 中世思想原典集成 14 トマス・アクィナス』、上智大学中世思想研究所編(山本耕平編訳・監修)、平凡社、1993
    『兄弟ヨハネスへの学習法に関する訓戒の手紙』、『形而上学注解』[47]、『使徒信条講話』、『種々の敬虔な祈り』、『聖書の勧め』、『聖書の勧めとその区分』、『存在者と本質について』
    『知性の単一性について―アヴェロエス主義者たちに対する論駁』、『ボエティウス 三位一体論注解』、『ボエティウス・デ・ヘプドマディプス注解』、『命題論注解』、『離存的実体について(天使論)』(全12編:初訳もしくは新訳)
  • 『トマス・アクィナス 真理論 (上・下)』、中世思想原典集成(第Ⅱ期 第1・2巻)
    上智大学中世思想研究所 編・監修(山本耕平編訳)、平凡社、2018
  • 『トマス・アクィナス 神秘と学知-ボエティウス三位一体論」に寄せて 翻訳と研究』 長倉久子訳著、創文社、1996
  • 『君主の統治について 謹んでキプロス王に捧げる』 柴田平三郎訳、慶應義塾大学出版会、2005/岩波文庫、2009
  • 『在るものと本質について』 稲垣良典訳註、知泉書館、2012
  • 『トマス・アクィナス「ヨブ記註解」』 保井亮人訳、知泉書館、2016
  • 『神学提要』 山口隆介訳、知泉書館「知泉学術叢書」、2018
  • 『『ガラテア書』註解』 磯部昭子訳、知泉書館「知泉学術叢書」、2021
  • カテナ・アウレア マタイ福音書註解 (上・下)』 保井亮人訳、知泉書館「知泉学術叢書」、2023

注釈

  1. ^ トマス自身は世界の永遠性という説を積極的に否定していたが、この説がアリストテレスに由来するという問題があった。そこでトマスは『神学大全』(1:45)においてなんとかこの矛盾を回避すべく、アリストテレスと「世界の永遠性」の結びつきを否定しようとしている。その論述においてトマスはマイモニデスの『迷えるものへの手引き』を引用している。[要出典]
  2. ^ 第3部に「連番」での刊行巻があり、全39冊の刊行。半世紀かけ、訳者を引継ぎ行われた

出典

  1. ^ 「教皇ベネディクト十六世の228回目の一般謁見演説 聖トマス・アクィナス(二)」”. カトリック中央協議会 (2010年6月16日). 2022年11月5日閲覧。
  2. ^ David, Marian (5 February 2016). Zalta, Edward N.. ed. The Stanford Encyclopedia of Philosophy. Metaphysics Research Lab, Stanford University. https://plato.stanford.edu/archives/fall2016/entriesruth-correspondence/ 
  3. ^ Avicenna (Ibn Sina) (c. 980–1037)”. The Internet Encyclopedia of Philosophy (2006年1月6日). 2010年1月19日閲覧。
  4. ^ Sadler, Greg (2006), “Anselm of Canterbury (1033–1109)”, Internet Encyclopedia of Philosophy, http://www.iep.utm.edu/anselm/ 2017年11月10日閲覧。 
  5. ^ Massey 1995, p. 16.
  6. ^ Brown 2014, p. 12.
  7. ^ 稲垣 1999, pp. 85–96.
  8. ^ 稲垣 1999, pp. 111–112.
  9. ^ 稲垣 1999, pp. 113–121.
  10. ^ 稲垣 2016, pp. 57–61.
  11. ^ 稲垣 2016, pp. 78–79.
  12. ^ 稲垣 2016, pp. 85.
  13. ^ 稲垣 2016, pp. 104–105.
  14. ^ 稲垣 2016, pp. 108–110.
  15. ^ 稲垣 2016, pp. 130–131.
  16. ^ 稲垣 1999, pp. 192–219.
  17. ^ 稲垣 1999, p. 192.
  18. ^ 稲垣 2016, p. 158.
  19. ^ 稲垣 2016, p. 187-188.
  20. ^ 稲垣 1999, p. 220.
  21. ^ 稲垣 1999, p. 234.
  22. ^ 稲垣 2016, p. 196.
  23. ^ 稲垣 1999, pp. 233–235.
  24. ^ 稲垣 1999, p. 482.
  25. ^ 稲垣 1999, pp. 55–56.
  26. ^ a b 稲垣 1999, p. 59.
  27. ^ 稲垣 1999, p. 54.
  28. ^ 稲垣 1999, p. 72.
  29. ^ 気象学と気象予報の発達史 アリストテレスによる宇宙像. 堤 之智. 丸善出版. (2018.10). ISBN 978-4-621-30335-1. OCLC 1076897828. https://www.maruzen-publishing.co.jp/item/?book_no=302957 
  30. ^ a b 山本義隆 (2014). 世界の見方の転換1 天文学の復興と天地学の提唱. みすず書房 
  31. ^ 気象学と気象予報の発達史: トマス・アクィナスによるアリストテレス自然哲学とキリスト教の調停”. 気象学と気象予報の発達史 (2020年10月5日). 2020年10月8日閲覧。
  32. ^ 稲垣 1999, pp. 430–433.
  33. ^ トマス・アキナス『神学大全』第2部の1第91問題第1項
  34. ^ トマス・アキナス『神学大全』第2部の1第91問題第2項
  35. ^ トマス・アキナス『神学大全』第2部の1第91問題第3項
  36. ^ トマス・アキナス『神学大全』第2部の1第91問題第4項
  37. ^ トマス・アキナス『神学大全』第2部の1第91問題第5項
  38. ^ トマス・アキナス『神学大全』第2部の1第93問題第1項
  39. ^ トマス・アキナス『神学大全』第2部の1第93問題第3項
  40. ^ 高坂 1971, p. 36.
  41. ^ 稲垣 1999, pp. 240–258.
  42. ^ 稲垣 1999, pp. 144–146.
  43. ^ 創文社が2020年に会社解散したため、講談社「創文社オンデマンド叢書」に移行。上製・全巻組も刊
  44. ^ 元版は『トマス・アクィナス 世界の名著』山田晶責任編集、中央公論社、1975年。創文社版でも第1・2冊目。
  45. ^ 前半は「徳論」「法論」、後半2巻は山本芳久編訳で『神学大全』全体から重要な箇所を抜粋訳。
  46. ^ 第2期・28巻目での刊行。初邦訳は『資本利子及企業利得論 抜萃神学大全』、高畠素之・安倍浩訳、而立社「經濟學說體系3」、大正12年(1923年)。原著 Augustae Taurinarum 1913年版
  47. ^ 旧訳に『聖トマス 形而上学叙説-有と本質とに就いて』(高桑純夫訳、岩波文庫、初版1935年 度々復刊)






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