トッケビ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/03/13 04:59 UTC 版)
種類 | 民間伝承の精霊、妖怪 |
---|---|
副種類 | おばけ、神霊、鬼火、付喪神、疫神、漁業神、豊嬢神 |
類似 | 妖狐、鬼神、夜叉、鬼、河童、ゴブリン |
別名 | 独脚鬼、独甲、魑魅、魍魎、虚主、虚体、狐魅など |
国 | 李氏朝鮮、韓国、北朝鮮 |
地域 | 朝鮮半島、済州島 |
起源
発祥した時期や地域は不明。
トッケビ説話の起源を新羅時代の郷歌『処容歌』の疫神や『三国遺事』の「桃花女 鼻荊郎」に求める意見も存在する[4][6]。
名称
文献によるとハングル創製直後の1447年に記された釈迦の一代記『釈譜詳節』に「돗가비(中期朝鮮語発音ではトㇲガビ)」とあるのが初出[7]。漢文による記録には鬼、鬼神、夜叉、独甲、独脚鬼、魑魅、魍魎、虚主、虚体、狐魅などの類義語が記されているのみであり、それらをトッケビと同一のものとみるか、ルーツとみるか、あるいは当て字に過ぎず無関係とみるかは諸説ある[8]。また、済州島の神話に登場するトッケビはソウルのホ・ジョンスンという架空の人物の息子がモデルであり、トッケビを「参奉」「令監」などの官名で呼ぶ風習が残る[9][8]。
語源
中国から伝播した一本足の鬼神の名称「独脚鬼」が変化したとする説があるが[10]、多くの言語学者は固有語の「アビ(아비、父)」を語源の一部とする説を採る[11]。その場合、語頭の「돗(トㇲ)」の意味については諸説ある。
- 徐廷範(1926年生)は、古語の「도섭(トソㇷ゚、幻影、妖術)」だと主張、現代語の「도섭(トソㇷ゚)」の「がさつで気まぐれ」などの意味にも繋がる可能性を示唆した[12]。
- 朴恩用(1927年生)は、木製道具がトッケビに化ける言い伝えから杵(절구공이、チョㇽグコンイ)を語源と仮定し、「臼(절구、チョㇽグ)」の綴りの変遷を推定して「돗구(トㇲグ)」が原型だと主張した。さらに遡って、それらのルーツを三国時代の木の精霊「豆豆里(トゥドゥリ)」にあるとした[6]。この説については、農機具や祭祀の伝来についての考古学的な検証が足りないとの指摘がある[6]。
- 李基文(1930年生)は、「斧(トッキ、도끼)」の古語「돗귀(トㇲグィ)」だとした[6]。
- ハングル学会の權在善(1934年生)は、徐廷範の説に対し、同様の名詞化接尾辞の事例がなく音韻学上の観点から不可能だと否定した。また、自説として語源を「道術(도술、トスㇽ)」と「遁甲(둔갑、トゥンガㇷ゚)」が合わさったものだと主張した[11]。
- 朴相圭(1948年生)は、語源をアルタイ諸語の語根「tot」に求め、「火」もしくは「種子」が語源とした。他にも漢語の「都」が語源の可能性も示した。綴りの変化についても「돗가비」→「도비」→「도까비」→「도깨비」だとした[6]。
- 民俗学者の金宗大(キム・ジョンデ)(1958年生)は、アルタイ諸語説を支持し、火の神と豊饒神の性質を持つことに着目して「火を起こし、豊作をもたらす成人男性の意味が内包された」と補足した。また、徐廷範の説の一部について、後世の妖怪としてのイメージによるものであり、信仰の対象であった時代にはあてはまらないと否定した[5]。
- 国立国語院は、「アビ」を語源とするならば成り立ちを「(トㇲㇰ)+アビ」とすべきだが、その場合「(トㇲㇰ)」の意味の説明ができないと指摘した[7]。
文献に見る綴りの変遷
時代 | 綴り | 読み | 文献(年、記載された語) |
---|---|---|---|
15世紀 | 돗가비 | トㇲガビ | 『釈譜詳節』(1447年) 『月印釈譜』(1459年) |
16世紀 | 文献なし | ||
17世紀 18世紀 |
독갑이 | トㇰガビ | 『癸丑日記』(16??年) 『譯語類解』(1690年) 『同文類解』(1748年) 『続明義録諺解』(1778年) 『漢清文鑑』(1779年) |
19世紀 | 독갑이 독감이 독잡이 도깨비 |
トㇰガビ トㇰガミ トㇰジャビ トッケビ |
『廣才物譜』(18??年、독갑이) 『裵裨將傳』(18??年、도깨비) 『韓佛字典』(1880年、독갑이) 『國韓會語』(1895年、독갑이、독감이) 『韓英字典』(1897年、독갑이、독잡이) |
20世紀 | 도깨비 도까비 |
トッケビ トッカビ |
金裕貞『두포전』(1934年、도깨비) 沈薫『常緑樹』(1935年、도깨비、도까비) 丁友海『도까비 노릇한 오빠』(1935年、도까비)[13] 金裕貞『두꺼비』(1936年、도까비) |
※16世紀以降に末子音「ㅅ(ㇲ)」が「ㄷ(ッ)」と同音になったことにより発音が「돋가비(トッガビ)」に変化し、さらに末子音「ㄷ(ッ)」が次音節「ㄱ(グ、g)」と同化して「독갑이(トㇰガビ)」と表記された。
※18世紀末から19世紀初頭に硬音化や末子音の脱落が起こり「독갑이(トㇰ/ガ/ビ)」が「도까비(ト/ッカ/ビ)」に変化。さらに母音が逆行同化して「도깨비(トッケビ)」に変化した。
参考:国立国語院[7]
方言
- 「도까비(トッカビ)」慶尚道、全羅南道、忠清北道、平安道、黄海北道
- 「도짜비(トッチャビ)」全羅道
- 「도채비(トッチェビ)」慶尚道、全羅道、咸鏡北道、江原道、済州道
- 「도째비(トッチェビ)」慶尚道、全羅道
- 「돛재비(トッチェビ)」慶尚南道
- 「돛째비(トッチェビ)」全羅南道
- 「토째비(トッチェビ)」慶尚道
- 「토개비(トゲビ)」
- 「또깨비(ットッケビ)」
- ^ a b c 金容儀, 国際日本文化研究センター 『玄界灘を渡った鬼のイメージ : なぜ韓国のトケビは日本の鬼のイメージで語られるのか』国際日本文化研究センター〈日文研フォーラム〉、2006年。doi:10.15055/00005657 。
- ^ a b 宗教学大辞典 도깨비
- ^ a b c 朴美暻『ドッケビと韓国の視覚文化 : 20世紀、韓国の大衆文化におけるドッケビの視覚イメージの形成と定着過程』(論文)、京都大学〈博士(文学) 甲第19250号〉、2015年。doi:10.14989/doctor.k19250。hdl:2433/202653。
- ^ a b ‘공유’의 <도깨비>, 한국 도깨비 설화와 얼마나 일치하는가 : 오피니언/칼럼 : 종교신문 1위 크리스천투데이2017.02.12
- ^ a b c キム・ジョンデ著『도깨비, 잃어버린 우리의 신』2017年
- ^ a b c d e 『한ㆍ중 도깨비 설화 연구』朴基龍
- ^ a b c 国立国語院 온라인가나다 도깨비 어원 2012. 3. 28
- ^ a b 韓国民俗信仰辞典 도깨비고사
- ^ 드라마 '도깨비' 아닌 제주신화 속 도깨비 이야기는? – 제주의소리 2017年4月14日
- ^ 도깨비 '뒷조사'를 해봤다chosun.com 2017.01.20
- ^ a b c 『도깨비 설화와 연금술』キム・ジョンラン(尚志大)
- ^ [우리말로 깨닫다] 가위에 눌려서 - 재외동포신문2016.03.08
- ^ 東亜日報連載 1935年10月27日号、11月3日号
- ^ 『우리말 큰사전』ハングル学会著、『朝鮮語大辞典』、『国立国語院標準国語大辞典』、Daum辞典、「못된 도깨비 머리에 뿔난다」京郷新聞 1998年10月15日号
- ^ 金容儀「韓日昔話の比較研究 : 近代の教科書に語られた「瘤取り爺」譚を中心に」大阪大学 博士論文14401甲第06126号、1998年3月、NAID 500000164586。
- ^ - 梨花女子大学 梨花ニュース 62号
- ^ [단독]또…한국 도깨비로 둔갑한 ‘일본 요괴’ - 경향신문2016.09.13
- ^ 도깨비를 찾아라 | 교육의 중심 EBS
- ^ 도깨비, 도깨비의 역사 한국 도깨비의 원래 모습은 어떤 것일까?小説家 郭財植ブログ「곽재식의 옛날 이야기 밭」 2017.02.17
- ^ 정책브리핑 | 고증을 통한 일제 잔재청산2005.07.01
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