アーベル圏 加法圏

アーベル圏

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/10 23:32 UTC 版)

加法圏

上述のようにアーベル圏の著しい性質として加法圏になる事が挙げられるので、本節ではアーベル圏を導入する準備として、加法圏の定義とその性質を述べる。

定義

加法圏は以下のように定義される:

定義 ― 前加法圏: preadditive category: Ab-category)であるとは、の任意の対象ABに対し、には2項演算子「」が定義されており、「」に関してアーベル群になり、さらに任意の射に対し、射の結合は下記の双線型性を満たす事を言う[6]

定義 ― 前加法圏加法圏英語版: additive category)であるとは、以下を満たす事を言う[7][8][9][10][11][注 2]

  1. 零対象を持つ
  2. の任意の対象ABに対し、ABが常に存在する。

特徴づけ

加法圏の1番目の条件は以下のようにも言い換えられる:

定理 ― を前加法圏とし、Zの対象とするとき、以下の4条件は同値である[12]

  • Z始対象である。
  • Z終対象である。
  • のアーベル群としての単位元をと表すと、
  • は単位元のみからなる群である。

加法圏の2番目の条件は以下のようにも言い換えられる:

定理 ― を零対象Zが存在する前加法圏とするとき、以下は同値である[13]

  • の任意の対象ABに対し、ABの積が常に存在する。
  • の任意の対象ABに対し、AB余積が常に存在する。
  • の任意の対象ABに対し、AB複積英語版(後述)が常に存在する。

ここで複積とは以下のように定義される概念である:

定義 ― ABを前加法圏の対象とするとき、

AB複積: biproduct)であるとは、以下を満たす事を言う[13]

実は次が成立する:

定理 ― を加法圏とし、AB対象とするとき、ABの積、余積、複積は一致する[13]


出典

  1. ^ #MacLane p.205.
  2. ^ Grothendieck (1957)
  3. ^ a b David Eisenbud and Jerzy Weyman. “MEMORIAL TRIBUTE Remembering David Buchsbaum”. American Mathematical Society. 2023年12月22日閲覧。
  4. ^ David Buchsbaum”. nLab. 2023年12月22日閲覧。
  5. ^ Buchsbaum (1955)
  6. ^ #MacLane p.28, 194.
  7. ^ #MacLane p.194.
  8. ^ #河田 p.177.
  9. ^ additive category”. nLab. 2023年12月19日閲覧。
  10. ^ additive category”. Encyclopedia of Mathematics. 2023年12月19日閲覧。
  11. ^ #Rotman p.303.
  12. ^ #MacLane p.194.
  13. ^ a b c #河田 p.178.
  14. ^ #河田 p,168,
  15. ^ a b c d e f g #Rotman p. 308.
  16. ^ a b #Rotman p.309
  17. ^ a b #河田 pp.174-177.
  18. ^ a b c d 12.5 Abelian categories”. The Stacks project. Columbia University. 2024年1月9日閲覧。
  19. ^ #河田 p.180.
  20. ^ a b c d #河田 pp.193-194.
  21. ^ #河田 p.193
  22. ^ #河田 p.189
  23. ^ 12.13 Complexes”. The Stacks project. Columbia University. 2024年1月9日閲覧。
  24. ^ #Rotman p.349.
  25. ^ #玉木
  26. ^ #Mitchell p.151.
  27. ^ #Rotman p.315.
  28. ^ #Mitchell p.151.
  29. ^ #Rotman p. 307.
  30. ^ #Rotman p.319.
  31. ^ #Rotman pp. 309-311.
  32. ^ #Rotman p.310.

注釈

  1. ^ アーベルの名にちなむが、「abelian」の語頭は小文字を用いる。本項執筆者が確認した範囲では、#Rotman p.303、#Mitchell p.33. #MacLane p.198で小文字であった。
  2. ^ #河田のみ2番めの条件が「2つの対象の積」ではなく単に「積」になっているが、「2つの対象の積」の意味であると判断。実際その直後に2つの積が余積や複積と等しいことを示している。
  3. ^ 対角射は双対対角射である。
  4. ^ 本項では#Mitchellに基づいてステートメントを書いたが、#Rotman p.316.では本項の「R-Mod」の部分がアーベル群の圏「Ab」になっている。これはR-加群をアーベル群と解釈できる事による。





英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「アーベル圏」の関連用語

アーベル圏のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



アーベル圏のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのアーベル圏 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS