アメリカ法 合衆国の統治機構

アメリカ法

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/24 02:36 UTC 版)

合衆国の統治機構

合衆国の司法制度

以上のような歴史を有する合衆国の司法制度は、他の法制にない次のような特徴を有している。

合衆国では、多種多様な紛争を解決する必要という実需に答える形で、各州で、民間から自然発生的に生じたロースクールによって法曹教育が行われたという歴史を有する。裁判官、検察官に任用についても、特別な教育を施すのではなく、民間の弁護士から採用するという法曹一元制をとり、英国と異なり、法廷弁護士事務弁護士を区別しない制度をとったが、その結果として、90万を超える法曹人口と高度な法廷技術の発達を促した。

合衆国憲法修正第5条は、死刑または自由刑を科せられる犯罪について刑事事件における大陪審の審理を受ける権利を、合衆国憲法修正第6条は、刑事事件における小陪審の審理を受ける権利を、合衆国憲法修正第7条は、係争の価額が20ドルを超えるときの民事事件における陪審の審理を受ける権利を保障している。陪審制の母国である英国においては、様々な理由から陪審制が衰退しているのに対し、合衆国では、多くの法曹人口に支えられ、現在でも広く活用されている。

この陪審制は、当事者主義、直接・口頭主義、集中審理等の裁判手続に重大な影響を与えているが、法律専門家でない一般人が合理的な判断ができるように発達したものとして、民事事件と刑事事件に共通して適用される証拠についての詳細な規則が設けられているのも大きな特徴となっており、特に 伝聞法則が広く知られている。もっとも、民事手続では、伝聞法則は緩和され、その例外が広く認められる傾向にある。

合衆国は、連邦制を採用しているため、連邦裁判所(federal courts)と州裁判所(state court)の関係が問題になるが、連邦政府と州政府がそれぞれ独自に別々の裁判所を持つという二元的な裁判制度を採用している。

連邦裁判所

連邦裁判所の権限は、合衆国憲法第3編第2節に規定された権限に限定されている。連邦法によってこの権限を拡張することは許されないが、逆に縮小することは許される。

現在では、連邦法によって、(1)合衆国が当事者となる事件、(2)合衆国憲法、連邦法および条約の下で発生するすべてのコモン・ローおよびエクイティ上の係争事件(「連邦問題」)、(3)異なる2つの州に住む市民の間での訴訟である「州籍相違」(diversity of citizenship)事件の場合が連邦裁判所の管轄とされており、知的財産破産などが連邦問題に含まれる。

連邦裁判所は、連邦地方裁判所(United States District Court)、連邦控訴裁判所 (United States Court of Appeals) [注釈 4]連邦最高裁判所(Supreme Court of the United States)という3段階制(three-tier system)をとっている。

州裁判所

州裁判所は、各州の議会が各州の憲法に基づき、州法によって、裁判官の具体的な権限や管轄を定めているので、裁判所の構成・名称も州により様々である。

概括的に言えば、多くの州裁判所で、事実審裁判所(trial court)、中間上訴裁判所(intermediate appellate court)、最終審裁判所(supreme court)[注釈 5]の3段階制がとられている州が多いが、中間上訴裁判所がない州もあり、連邦裁判所のように明確な3層構造になっているわけでない。

1審の事実審裁判所は、比較的軽微な事件[注釈 6]や少年裁判所(juvenile court)、家庭裁判所(family court)ように特定の種類の事件を管轄する「制限的管轄権を有する裁判所」と、「一般的管轄権を有する裁判所」に分かれる[注釈 7]

制限的管轄権を有する裁判所では、治安判事が無給の名誉職とされる代わりに、正式な法律上の訓練の経験を一切必要としないものとされ、正式な裁判記録を作成しない簡易な手続がとられている。治安判事が行い得る権限等は州によって異なっている。

一般的管轄権を有する裁判所では、すべての州で裁判官に法律の学位取得が義務付けられているだけでなく、制限的管轄権を有する裁判所の判決についての上訴審理を行い、しかも改めて事実審理をやりなおす覆審制をとっていることにより手続の公正が担保されることになっている。州によっては制限的管轄権を有する裁判所の判決についての上訴審理を中間控訴裁判所が行うところもある。

連邦裁判所と州裁判所の関係

連邦裁判所と州裁判所は、それぞれ独立した関係にあり、上下の関係にあるものではない。

州裁判所の事物管轄は、広く連邦裁判所の排他的な専属管轄に属しない事件に及ぶが、連邦裁判所の第一審として専属管轄を認めるのは、特許に関する事件や倒産に関する事件などさほど多くはないので、連邦裁判所と州裁判所の管轄は競合することもある。このような場合、いずれの裁判所に訴訟を提起するかは、原告が判断することになる。

原告が州裁判所に訴訟を提起することを選択した場合、移送が認められる場合を除き、州最高裁判所の終局判決が最終的な判断となる。州最高裁判所の判決に不服のある当事者は、連邦最高裁判所に上訴ができるが、この場合、当事者の権利として上訴できるのではなく、連邦最高裁判所が裁量によって上訴を許可することとなっており、許可事由も州法が合衆国憲法または連邦法に違反していることが争点となっているときなどに限定されている。

原告が連邦裁判所に訴訟を提起することを選択した場合は、若干複雑である。合衆国では、大陸法系のような民法に対応する形での民事訴訟「法」、刑法に対応する形での刑事訴訟「法」というものはなく、裁判所組織および裁判手続に関する法律の中で、民事編と刑事編の規定が分けられており、法(Law)と手続(Procedure)は区別されている。したがって、連邦裁判所での裁判手続(Procedure)については、連邦法および連邦裁判所施行規則に従うが、実体法(Law)については、その管轄する地方の州法ないしコモン・ローに従うものとされている。1938年のイーリー鉄道会社対トンプキンズ事件判決以来現在に至るまで、連邦裁判所による、州を超えた合衆国全体についてのコモン・ローの形成は認められていない。

いずれにせよ、契約、不法行為、家族、相続、刑事事件など日常の大部分の事件は州裁判所で取り扱われ、または連邦裁判所で取り扱われる場合にも州法ないしその州のコモン・ローに従って解決されている。今まで述べてきた連邦の権限の拡大・強化にもかかわらず、各州は強大な権限を現在でも維持し、合衆国国民にとって単に裁判所といえば、自分が住んでいる行政地区にある身近な州裁判所のことを指すのである。

合衆国の議会

連邦には、連邦議会があり、上院下院に分かれている。

各州は、州議会が一院制の州もあれば、二院制の州もあり、その他にも州議会の会期もまちまちである。


注釈

  1. ^ ただし、 ルイジアナ州は、大陸法系のフランスの植民地であったので、フランス法を基礎としつつ、英米法の影響を強く受けた法制度となっている。また、ニューヨーク州法はオランダ法の、カリフォルニア州法はスペイン法の影響を受けている。
  2. ^ ただし、伝統的な慣習であればどのようなものでもいいというわけではなく、「法」といえるためには、将来の予測が可能で誰にでも等しく適用されうる強制力のあるものであることが必要とされている。
  3. ^ 米国では、民事法(civil code)の対象は主に契約法(contract law)、不法行為法(tort law)、財産法(property law)、相続法、家族法(family law)の五つに分かれるとされているが、日本と異なり、民法典と商法典の区別を明確に意識していない。むしろ商取引(契約)なのか、消費者契約なのかによって区別されている。
  4. ^ 日常的には巡回裁判所(Circuit Court)と呼ばれることが多いが、これは控訴審裁判所が管轄区域内を定期的に移動し、審理を行っていたからである。
  5. ^ 最高司法裁判所(supreme judicial court)、最高控訴裁判所(supreme court of appeals)と呼ぶ州もある。
  6. ^ 治安判事裁判所(justice of the peace court、magistrate court)、地区裁判所(district court)、郡裁判所(county court)、都市裁判所(municipal court)、市裁判所(city court)、首都圏裁判所(metropolitan court)等と様々な名称で呼ばれている。
  7. ^ 記録審裁判所(Recorder's Court)、郡裁判所(County Court)等と様々な名称で呼ばれているが、地区裁判所(District Court)、上級裁判所(Superior Court)と呼ばれるのが普通である。ただし、ニューヨーク州では、主要なものを最高裁判所(Supreme Court)と呼んでいる。

出典



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