アメリカ法 家事法

アメリカ法

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/24 02:36 UTC 版)

家事法

家族法

米国では、州ごとに家族法が制定されており、その内容は州によって大いに異なり、判例にも相当の相違点がある。

米国は生地主義をとっており、米国内で出生することにより米国籍を取得するが、一定の年齢までに国籍を選択し、二重国籍を解消しなければならない。出生は州ごとに管理される出生登録簿に記録されるが、日本における戸籍のような人ごとに出生から死亡までの婚姻離婚などの全ての身分関係を記録するような制度は存在せず、身分証を発行するのが通常である。

婚姻には、州の役場や裁判所の発行する婚姻許可証(marriage license)が必要であり、許可証の発行後一定の期間内に結婚式を挙げる必要があり、役場や裁判所でその事実が確認されて初めて婚姻登録簿に登録がされる。所定の期間内に結婚式をあげなければ婚姻許可証は失効する。

2000年代以降、一部の州によって同性同士の婚姻、同性結婚(Same-Sex Marriage)を認めるようにもなる。2015年6月26日、合衆国最高裁判所は「法の下の平等」を定めた「アメリカ合衆国憲法修正第14条」を根拠に、アメリカ合衆国の全ての州での同性結婚を容認する判決を下した(9名の裁判官のうち同性結婚に、5名が支持、4名が反対、「オーバーグフェル対ホッジス裁判」も参照)。これによりアメリカ合衆国において同性婚のカップルは異性婚のカップルと平等の権利を享受することになった[1]。なお、同性婚の際の配偶者の姓に関しては異性婚と同様に同姓や別姓など様々な選択肢がある[2](詳細は「en:Same-sex marriage in the United States」参照)。

一般に内縁関係と婚姻関係は区別されているが、一定期間の内縁関係を婚姻関係に準じて保護する州もある。

離婚は判決によるのが原則とされてきたが、現在では協議離婚を認める州も多くなっている。1960年代以降は、判決による離婚では破綻主義の傾向が強くなっている。夫婦間に子どもがいる場合、離婚後の親権は共同親権が通常であり、面会交流権が認められているが、トラブルも多い。

相続法

相続自由の原則が認められる現在の米国の相続法だが、イングランド法を継受しているために、人の財産関係はキリスト教精神との関係から一代で完全に消滅するとの建前により、遺産管理の主たる目的は死者のもつ債務の履行であるとされ、その法理は当然に死者の債務も債権も相続人に移転するとの態度をとらない。

13世紀末ごろのイングランドでは、遺産は、相続人が死者の債務を全て弁済した後、遺言執行者に引き渡し、遺言執行者が死者の意思により遺産を分配していた。また、この頃から相続人の死者の法律上の債務についての責任は、遺産の総額の範囲内とされ、現在の日本の限定承認に似た制度が「あるべき法」としてみとめられていた。

合衆国各地域がイギリス植民地時代を終え、その慣習法の継受が終了した段階では、すでに相続人と遺言執行者の地位は逆転していたが、1830年の遺言執行者法(Executors Act,1830)を継受していないため、アメリカでは遺言執行者はコモン・ローの原則どおり、遺言執行者が明らかに遺言者の意思に反しているとされた場合以外は残余財産の所有権は遺言執行者に帰属するとの原則どおりとなり、遺言の執行に関して大きな権限をもつ。つまり、遺言執行者の法的地位は、死者の全ての財産関係の代表者、完全な管理清算機関である。また、遺言執行者と相続人は相互に干渉しないとの原則も受け継がれている。

以上の経緯により、アメリカでもイングランド相続法の人格代表者制度(personal representatives)を採用しており、死者の意思たる遺言により、遺産の受託者的な遺言執行者は死者の意思たる遺言を執行する。なお、これらの建前は相続人を包括継承人として扱い、当然に遺産の財産権が相続人に移転するとする、日本、ドイツ、フランス、などの相続法と大きく異なっている。

  • 検認裁判は遺言の有効性と遺言執行者の遺産への権利を証明するために行われる、死者が無遺言の場合、もしくは遺言の中で遺言執行者を選任していない場合に行われる、英米法独自の相続手続である。人格代表者制度(personal representatives)の建前から、死者名義の所有権のある財産で、共同所有(ジョイントテナンシーJoint Tenancy)や、トラストや契約によるもの以外は、死者との利害関係人との債務の清算のために、プロベートと呼ばれる検認裁判を経て遺産の分配が行われる。
  • 検認裁判(プロベート)では、死者が遺言を残していればその遺言が裁判所に提出され、遺言がなければ遺言なしの申請を裁判所に行い検認の手続を開始させる。検認裁判は、(1)遺産管理人を任命する。(2)遺言書や遺言があればそれを裁判所が検分する(3)遺産の実質的な内容と価値の査定(4)死者の負債と租税の確認と清算(5)遺言があればそれに添って遺産を配分処分し、遺言がなければ法定相続人や国庫へ遺産を配分する。資産の内容は公開とされ、裁判所費用、弁護士費用、鑑定士経費などが、相続財産から差し引かれる。そのため、ある免責額(例えばカルフォルニア州法では10万ドル)が制度として、各州において定められている。
  • 遺産の相続先は、原則として死者の意思による。そのため、人のみでなく、犬や猫(物)にも遺産の相続が認められる(遺言執行者の死者の意思の代理行為)。例外として、共同所有(ジョイントテナンシーJoint Tenancy)の場合は、生存者に当該所有権が検認裁判所の手続なしで当然に継承される。
  • 夫婦の共有財産(コミュニティ・プロパティ、夫婦が結婚してから作ったと認められる財産)は、全て配偶者が相続できるが、遺言で共有財産の半分(死者の持分)を誰にでも相続させ得る(離婚している場合は離婚裁判で財産の分与は既に済んでいる)。法定相続分は、夫婦の共有財産でない場合は子と妻の立場は対等になる。
  • 遺言がない場合は、州法などによって相続人の範囲が定められており、その詳細は州によって異なるが、個人の意思(遺言)がない場合は、妻、子供、孫、曾孫、父母、兄弟姉妹、祖父母、叔父叔母従兄弟が相続人と定められ、関係者がいない場合は各州が収納する。
  • 以上のように清算手続を経てプラスの残余財産がある場合に相続人は初めて相続することから、故人(被相続人)の負債は遺産の範囲外であり、そもそも日本のように相続放棄により負債を逃れる必要はない(日本では黙って相続すると、債務まで引き継ぐことになり得るがアメリカの場合はない)。なお、相続を放棄することは自由である。

もっとも、検認裁判では複雑な手続と費用が必要なため、これを回避する目的で、米国では、老若男女・遺産の多寡にかかわらず、多くの人が指定遺言執行者(Executor)か管財人(Administrator)が遺産の分与を執行する旨の遺言状を作成するのが通常であり、他に生前信託も大いに利用されている。


注釈

  1. ^ ただし、 ルイジアナ州は、大陸法系のフランスの植民地であったので、フランス法を基礎としつつ、英米法の影響を強く受けた法制度となっている。また、ニューヨーク州法はオランダ法の、カリフォルニア州法はスペイン法の影響を受けている。
  2. ^ ただし、伝統的な慣習であればどのようなものでもいいというわけではなく、「法」といえるためには、将来の予測が可能で誰にでも等しく適用されうる強制力のあるものであることが必要とされている。
  3. ^ 米国では、民事法(civil code)の対象は主に契約法(contract law)、不法行為法(tort law)、財産法(property law)、相続法、家族法(family law)の五つに分かれるとされているが、日本と異なり、民法典と商法典の区別を明確に意識していない。むしろ商取引(契約)なのか、消費者契約なのかによって区別されている。
  4. ^ 日常的には巡回裁判所(Circuit Court)と呼ばれることが多いが、これは控訴審裁判所が管轄区域内を定期的に移動し、審理を行っていたからである。
  5. ^ 最高司法裁判所(supreme judicial court)、最高控訴裁判所(supreme court of appeals)と呼ぶ州もある。
  6. ^ 治安判事裁判所(justice of the peace court、magistrate court)、地区裁判所(district court)、郡裁判所(county court)、都市裁判所(municipal court)、市裁判所(city court)、首都圏裁判所(metropolitan court)等と様々な名称で呼ばれている。
  7. ^ 記録審裁判所(Recorder's Court)、郡裁判所(County Court)等と様々な名称で呼ばれているが、地区裁判所(District Court)、上級裁判所(Superior Court)と呼ばれるのが普通である。ただし、ニューヨーク州では、主要なものを最高裁判所(Supreme Court)と呼んでいる。

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