アイヌ 言語

アイヌ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/28 21:32 UTC 版)

言語

かつてのアイヌ語の分布

アイヌの言語であるアイヌ語孤立した言語であり、日本語とは系統が全く異なる。言語類型論上は、膠着語に属する日本語とは異なり、抱合語に分類される。北海道、樺太、千島列島に分布していたが、現在ではアイヌの移住に伴い日本の他の地方(主に首都圏)にも拡散している。しかし母語話者は極めて少なくなっており、ユネスコによって2009年2月に「極めて深刻」(critically endangered) な消滅の危機にあると分類された、危機に瀕する言語である[49][50]。危険な状況にある日本の8言語のうち唯一最悪の「極めて深刻」に分類された[注 7]。系統的には「孤立した言語」とされており、縄文時代の言語をそのまま残しているという説がある。文字を持たない民族であったが[注 8]、北海道はもとより、東北地方北部にもアイヌ語地名が多数残っていることから、かつては分布域が東北北部まで広がっていたと考えられている。[要出典]

アイヌ語の推定起源と普及

最近の研究によると、アイヌ語は縄文人ではなくオホーツク人に由来していることが示唆されている[51]

人口と分布

北海道のアイヌ人の分布地図 1999年
樺太のアイヌ(1903年)
千島アイヌと竪穴式住居

現在、国勢調査ではアイヌ人の項目はなく、国家機関での実態調査は行われていないに等しい。そのため、アイヌ人の正確な数は不明である。

アイヌの伝統的な人口分布地は、北海道樺太千島列島カムチャツカ、東北地方北部である。なお、北海道千島列島に残る地名の多くは、アイヌ語の地名に当て字をしたものである。

江戸時代のアイヌの人口は、記録上最大26800人であったが、天領とされて以降は感染症の流行などもあって減少した。

1756年弘前藩勘定奉行であった乳井貢が、津軽半島漁業に従事していたアイヌに対し同化政策を実施。以後、本州からアイヌ文化が急速に失われる。

1875年樺太千島交換条約後、困難な生活物資の補給と防衛上の理由から、千島のアイヌはそのほとんどが開拓使によって説得の上色丹島へ移住させられた(『千島巡航日記』)。

1897年ロシア国勢調査によればアイヌ語を母語とする1,446人がロシア領に居住していた[52]

1945年ソビエト連邦日本に参戦し、南樺太と千島列島を占拠、現地に居住していたアイヌは残留の意志を示したものを除き本国である日本に送還された[注 9]

1971年調査で道内に77,000人という調査結果もある。日本全国に住むアイヌは総計20万人に上るという調査もある[53]。この結果を裏付ける他の研究はない。

北海道外に在住するアイヌも多い。1988年の調査では東京在住アイヌ人口が2,700人と推計された[54]1989年の東京在住ウタリ実態調査報告書では、東京周辺だけでも北海道在住アイヌの1割を超えると推測されており、首都圏在住のアイヌは1万人を超えるとされる[19]

1992年に日本・ロシア国内以外にも、ポーランドには千島アイヌの末裔がいると報道されたが、アレウト族の末裔ではないかとの指摘もある[注 10]。一方、アイヌ研究の第一人者で写真や蝋管など膨大な研究資料を残したポーランドの人類学者ブロニスワフ・ピウスツキ樺太アイヌの女性チュフサンマと結婚して生まれた子供たちの末裔は日本にいる。

2006年の北海道庁の調査によると、北海道内のアイヌ民族は23,782人[54][19]となっており、支庁(現在の振興局)別にみた場合、胆振日高支庁に多い。なお、この調査における北海道庁による「アイヌ」の定義は、「アイヌの血を受け継いでいると思われる」人か、または「婚姻・養子縁組等によりそれらの方と同一の生計を営んでいる」人というように定義している。また、相手がアイヌであることを否定している場合は調査の対象とはしていない。

2017年の調査では、道内のアイヌ人口は約1万3000人となっている。これは2006年の2万4000人から急激に減少しているが、これは調査に協力している北海道アイヌ協会の会員数が減少したことと、個人情報の保護への関心の高まりから、調査に協力する人が減っていることが挙げられ、実際の人数とは合致しないと考えられている[55]

現在

アイヌの夫婦(1930年代)

現在の日本政府が日本(北海道)の先住民として認識しているのはアイヌのみである[56]。ただし、国連人種差別撤廃委員会はアイヌ民族以外に琉球民族も先住民だとし、日本政府とは異なる見解をしめしている[57]

アイヌ居留地は存在しないが、釧路阿寒平取町二風谷白老等をはじめとする「全道各地」に多数が居住するほか、白老阿寒湖温泉では観光名所としてアイヌコタンが存在する。

平成18年の北海道の調査によれば、かつて差別を受けたことがあるかという問いに、はい、と答えた人が16.8%、そのほかに別の誰かが受けたことを知っていると答えた人が、19.8%であった[19]。このうち、直近7年間に自分が差別を受けたという人は2%程度であり、平成25年の調査でも同様である。

しかし、平成28年の法務省の調査によれば、「家族・親族・友人・知人が差別を受けている」と回答した人が51%であり、近年は差別が深刻化していることも見て取れる[58]。また、同調査で、アイヌの人々に対する差別や偏見の有無について日本国民全体を対象にアンケートをしたところ、国民全体の18%のみが「あると思う」と答えているのに対し、アイヌの人々は72%が「あると思う」と答えており、差別や偏見に対する大きな認識のギャップがあることが見て取れる。

アイヌとして生活する者が周囲から差別的に扱われる順番として、第一に義務教育課程でアイヌ文化を扱った授業を受けた時、第二に婚姻・結婚、次に就職など社会に出た場合、とされる。中でも義務教育時代に受けた差別は普遍的な経験になっている、とされる[59]

明治以降は和人との通婚が増え、両親がともにアイヌであるアイヌは減少しているが、大和民族との通婚が増えている理由として西浦宏巳は1980年代前半に二風谷のアイヌ調査で、和人によるアイヌ差別があまりにも激しいため、和人と結婚することによって子孫のアイヌの血を薄めようと考えるアイヌが非常に多いと指摘している[60]。アイヌと和人の両方の血を引く人々の中にも、著名なエカシ(長老)の一人である浦川治造(1938年11月生)のように、アイヌ文化の保存と発展に尽力する者は少なくない。また、浦河町のエカシである細川一人(1922年11月21日生)は、和人の両親から生まれたが幼少時に父親と死別し14歳の時に母親がアイヌの男性と再婚したためにアイヌ文化を身につけたという[61]

長い間、和人による差別や蔑視をうけた事により、アイヌであることを肯定的に捉える人は少なく、和人への同化とともに出自を隠す傾向が強かった。しかし、近年は自らがアイヌであることを肯定的にとらえる傾向も、徐々にみられるようになってきた。北海道以外に住むアイヌ民族の活動も盛んになってきており、世界中の先住民族との交流も行われている。

日本における認識

2020年に内閣府はアイヌに対して知っていることで世論調査を行った。

アイヌの存在93.6%、アイヌが先住民族91.2%、アイヌ語がある81.3%であった。一方で中世以降アイヌと和人の間に争いがあった44.1%、明治以降アイヌが独自の文化を制限され貧しい暮らしを余儀なくされた46.3%、アイヌのなかで文化の復興保存活動をしている46.5%と負の歴史などでは過半数を割る結果であった[62]

アイヌの結婚式

文筆家の古谷経平は日本テレビで起こったアイヌに対して不適切な内容が放送された事に対し日本人の歴史認識の低さを指摘した。日本人はアイヌの土地を侵略し征服したというアイヌ側の視点を無視し開拓者が北海道を作ったと和人側の認識しか持っていない、同化政策などアイヌに対する加害を無視して歴史を教えている。自分は明治に北海道に移住した人間の子孫であるが後ろめたい歴史があるから開拓者の子孫とは名乗らないと記事に記した[63]


注釈

  1. ^ 縄文土器の文様は、長い長い年数をかけてゆっくりと変化してゆき、「後期縄文土器」の文様は、その後の時代の「アイヌ」の人々が用いている文様と酷似しており かなり直接的に、連続的に繋がっている。
  2. ^ 例えば、「イヌイット」はカナダ・エスキモーの自称であるが、これはイヌクティトゥット語で「人」を意味する Inuk の複数形、すなわち「人々」という意味である。また、7世紀以前、日本列島に居住した民族は、中華王朝の史書では「倭人」と記載されているが、これは自らを「我(ワ)」と呼んだためとする説がある。他にも、タイ族チェロキーカザフなどにも、民族名に「人」の意が含まれる。
  3. ^ 当時、アイヌは和人のことを「シサム」「シャモ」と呼称していた。シサムは隣人という意味のアイヌ語で、シャモはその変化形の蔑称または「和人」のアイヌ読みともいわれる。
  4. ^ 萱野茂によれば、和人の多い学校に通ったアイヌが「あア、イヌが来た(あ、アイヌが来た)」と悪口を言われるのは序の口だったという[15]。1986年には秋玲二の漫画『日本のんびり旅行』で北海道を扱った際、子供が次の行先を決めるために投げた石が犬に当たったのを見て「あっイヌだ!(中略)アイヌコタンへいこう」と言う場面があり[16]小川隆吉は人権侵犯事案として法務局に申し入れた[17]。また、2021年3月12日放送の日本テレビ系朝の情報番組「スッキリ」で、アイヌの映画を紹介する際にコーナーを担当するタレントが「この作品とかけまして動物を見つけたととく。その心は、あ、犬」という謎掛けを披露し、批判が寄せられた[18]
  5. ^ 義務化されたのは国語、算数、体育、農業の4種目であった。
  6. ^ 毒矢と網の使用禁止、禁猟区と禁猟期の設定。
  7. ^ 他の7言語は与那国語八重山語が「重大な危険 (severely endangered)」、宮古語沖縄語国頭(くにがみ)語奄美語八丈語が「危険 (definitely endangered)」に分類されている。
  8. ^ 1923年(大正12年)に出版された知里幸恵アイヌ神謡集では、その発音を、ローマ字で表記するなどの工夫がされている。
  9. ^ 「昭和21年(1946年)12月19日、東京でデレヴャンコ中将と日本における連合国軍最高司令官代表ポール・J・ミューラー中将が、ソ連領とのその支配下にある地域からの日本人捕虜と民間人の本国送還問題に関する協定に署名した。協定では、日本人捕虜と民間人はソ連領とその支配下のある地域から本国送還されなければならない、と記されていた。日本市民はソ連領から自由意志の原則に基づいて帰還することが特に但し書きされていた。」(ネットワークコミュニティきたみ・市史編さんニュース №100 ヌプンケシ[リンク切れ] 平成17年1月15日発行)
  10. ^ 「しかしアキヅキトシユキは実際には1975年の樺太・千島交換条約の際に千島に住んでいた90人のアレウト族の末裔だったのではないかと推測している。そのアイヌがどこのだれのことを示しているのかということに関してそれ以上の情報はでてこなかった」 David L. Howell. “Geographies of Identity in Nineteenth-Century Japan”. University of California Press. 2014年7月13日閲覧。 小坂洋右『流亡: 日露に追われた北千島アイヌ』北海道新聞社、1992年。ISBN 9784893639431[要ページ番号]
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出典

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