直交ミラーフィルタ
(Quadrature mirror filter から転送)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/10/18 11:01 UTC 版)
直交ミラーフィルタ(ちょっこうミラーフィルタ、英: Quadrature Mirror Filter、QMF)はフィルタバンクの一種で、折り返し雑音が発生しない特徴がある。サンプリング周波数の 1/4 の周波数に対し対称な周波数特性を持つ2つのデジタルフィルタを組み合わせることで、サンプリング時の折り返し雑音をキャンセルする。
直交ミラーフィルタはオーディオ信号や画像信号の知覚符号化を行う際などのフィルタバンクに用いられることが多く、例えばMP3やATRACなどのオーディオコーデックで利用されている。
概要
様々な信号の符号化を行う際など、信号を複数の周波数に分割して処理を行うことは多い。このような場合、入力信号をフィルタを使って複数の周波数成分に分解し、各成分をダウンサンプリングして処理を行う。元の信号の復元には、各信号をアップサンプリングした後に再度フィルタで必要な周波数成分のみを取り出して合成する。
このような場合、フィルタの不完全な周波数特性のため、サンプリング時に隣り合う周波数成分による折り返し雑音が発生し、最終的な信号は元の信号と異なるものになる。例えば、オーディオ信号の符号化の場合には再生された音の歪みとして現れる。
直交ミラーフィルタは、フィルタバンクを構成する各フィルタの特性に折り返し雑音のキャンセルを行うような制限を設けたもので、折り返し雑音が全く発生しない。 また、入力と全く同じ信号を完全再構成することも可能である。
折り返し雑音の除去
単純化した直交ミラーフィルタの構成は以下の図で表現できる。
ここで H0、G0、H1、G1 はフィルタを表し、↓2、↑2 はそれぞれダウンサンプリングとアップサンプリングを示す。図の左半分は信号を分析するステージで、右半分は信号を合成するステージである。この構成では信号をローパスフィルタとハイパスフィルタにより、2つの帯域に分割する。
Z変換を使うと、出力
もっと直接的に2チャネルの構成を任意の M-チャネルに拡張し、M 個の分析フィルタと 1/M ダウンサンプリング、及び M 倍アップサンプリングとM 個の合成フィルタを並列に並べることで実現する方法もある。2チャネルの場合より複雑になるが、折り返し雑音の除去、及び信号の完全再構成の制約条件があり [9]、それを満たすフィルタの組み合わせで完全再構成が可能なマルチチャネルフィルタバンクを実現できる[8]。
フィルタバンクと離散ウェーブレット変換
直交ミラーフィルタや共役直交フィルタによるフィルタバンクは離散ウェーブレット変換の理論と関係がある。片側のみに枝が伸びる木構造の形に2チャネルのフィルタバンクを接続したオクターブバンド構成のフィルタバンクは、2進離散ウェーブレット変換に等しい。

信号処理と応用数学の分野で別々に使われてきたフィルタバンクとウェーブレット変換は、1つの理論の別の側面として扱われるようになっている[10]。
脚注
- ^ Andreas Spanias, Ted Painter, Venkatraman Atti. Audio signal processing and coding. p.39.
- ^ a b c d e f g Martin Vetterli, Jelena Kovacevic. Wavelets and Subband Coding. p.127.
- ^ a b c d Julius Orion Smith III. “Quadrature Mirror Filters (QMF)”. CCRMA, Stanford University. 2010年12月10日閲覧。
- ^ a b c Andreas Spanias, Ted Painter, Venkatraman Atti. Audio signal processing and coding. p.155.
- ^ J. D. Johnston. A filter family designed for use in quadrature mirror filter banks. Proc. IEEE Int. Conf. Acoust. Speech and Signal Proc., pp.291-294, 1980.
- ^ P. P. Vaidyanathan. Multirate Systems And Filter Banks. pp201-205.
- ^ a b c Julius Orion Smith III. “Conjugate Quadrature Filters (CQF)”. CCRMA, Stanford University. 2010年12月10日閲覧。
- ^ a b c Andreas Spanias, Ted Painter, Venkatraman Atti. Audio signal processing and coding. pp.156-160.
- ^ 詳細は Martin Vetterli, Jelena Kovacevic. Wavelets and Subband Coding. p.170. など参照のこと。
- ^ Martin Vetterli, Cormac Herly. Wavelets and Filter Banks: Theory and Design. IEEE Tran. Signal Proc., Vol.40, No. 9, 1992.
参考文献
- Andreas Spanias, Ted Painter, Venkatraman Atti. Audio signal processing and coding. Wiley-Interscience, John Wiley & Sons, Inc., 2007. ISBN 978-0471791478.
- Martin Vetterli, Jelena Kovacevic. Wavelets and Subband Coding.(PDF) Prentice Hall PTR, 1995. ISBN 978-0130970800.
- P. P. Vaidyanathan. Multirate Systems And Filter Banks. Prentice Hall PTR, 1993. ISBN 978-0136057185
- Julius Orion Smith III. “Quadrature Mirror Filters (QMF)”. CCRMA, Stanford University. 2010年12月10日閲覧。
- Julius Orion Smith III. “Conjugate Quadrature Filters (CQF)”. CCRMA, Stanford University. 2010年12月10日閲覧。
関連項目
- 直交ミラーフィルタのページへのリンク