騎馬人物と農民のいる川辺の風景
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/06/03 03:32 UTC 版)
オランダ語: Rivierlandschap met ruiter en boeren 英語: River Landscape with Horseman and Peasants |
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作者 | アルベルト・カイプ |
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製作年 | 1658-1660年ごろ |
種類 | キャンバス上に油彩 |
寸法 | 123 cm × 241 cm (48 in × 95 in) |
所蔵 | ナショナル・ギャラリー (ロンドン) |
『騎馬人物と農民のいる川辺の風景』(きばじんぶつとのうみんのいるかわべのふうけい、蘭: Rivierlandschap met ruiter en boeren、英: River Landscape with Horseman and Peasants)17世紀のオランダ絵画黄金時代の画家アルベルト・カイプが1658-1660年ごろにキャンバス上に油彩で制作した風景画で、画家の最高傑作ともいえる作品である[1][2]。本来の委嘱者はわかっていない[3]が、ドルドレヒトの支配階級の大邸宅に掛けられていたと思われる[3][2]。作品は国家遺産記念基金、芸術基金の援助により1989年に購入されて以来[3]、ナショナル・ギャラリー (ロンドン) に所蔵されている[1][2][3]。
作品
カイプはドルドレヒトの肖像画家ヤーコプ・カイプの息子で[1][2]、父に学び、風景画の専門家になった[1]。当初、ヤン・ファン・ホイエン風の風景画を描いていたが、1640年代初頭にオランダのイタリア的風景画家 (ローマに滞在した画家、あるいは彼らに影響を受けた画家[3]) に感化され、画風を変えた。以降のカイプの作品は、写実的なものであれ、空想的なものであれ、ある種の壮大さを帯び、ローマ近郊の田舎のような蜂蜜色の光に浸されるようになった[1]。
本作ののどかな風景は、明るく柔らかな光に照らされている。雲が空に浮かび、かすかな霧が川を通過している。静かな川面や、そこに見える遠方の町の塔の反映をかき乱す風はまったくない[3]。日光浴をしている牛たちは十分な栄養が行き届いていて、満足気であり、鑑賞者は牛たちの重みや暖かみを感じることができる。光が、そのそばで立ち止まる白馬の尻と貴族的な騎馬人物の衣服、そして銀色のカバノキの幹とその根元の大きな葉を照らしている[3]。
道の先には牧羊杖を持った女性がおり、勾配のある川岸で密集する羊の群れを率いている。彼女と子供は、彼らの方に歩いてくる男性の方に顔を向けている。一方、騎馬人物の注意は少年に向けられているが、少年は情景の静けさを乱しそうな何かの方を不安げに指している[3]。左側の灌木には身を屈めた男性がおり、川面にいる鳥に銃を向けている[1][3]。当時のオランダでは、狩猟は主に貴族の特権であった[1]。弾丸が発射されれば、動物たちを驚愕させ、情景の雰囲気は失われる[1][3]。このことが絵画に緊張感を与えており、実景とは思えないくらい牧歌的な場面は、現実世界に引き入れられるのである[3]。
この情景は、実際、明らかに実景としてはありえないくらい素晴らしく[3]、空想上の産物である[1][3]。カイプはネーデルラントとドイツの旅先でスケッチを描いており[2][3]、本作はかつて『ドルドレヒト近くのマース川の眺め』とされていた。しかし、ここに描かれているのはマース川ではない[3]。オランダには高い山はなく[1][2][3]、建物はどこか別の場所のものかもしれず、光は地中海地方の朝の淡い金色を帯びている[3]。
本作は、イギリスに入った最初のカイプの作品だとされている[1][2]。1760年ごろにスコットランドのジョン・ステュアート (第3代ビュート伯) のために購入され、イギリスにおけるカイプ・ブームの発端となった[1][2][3]。現在でもカイプの作品の大半はイギリスにあり[1][3]、イギリスの風景画の発達に大きな影響を及ぼした[1]。
脚注
参考文献
- エリカ・ラングミュア『ナショナル・ギャラリー・コンパニオン・ガイド』高橋裕子訳、National Gallery Company Limited、2004年刊行 ISBN 1-85709-403-4
外部リンク
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