菜食主義者 (小説)とは? わかりやすく解説

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菜食主義者 (小説)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/12/10 04:49 UTC 版)

菜食主義者
채식주의자
著者 ハン・ガン
訳者 きむふな
発行日 2007年10月30日
2011年4月25日
発行元 創作と批評社朝鮮語版
クオン
韓国
言語 朝鮮語
ページ数 247
コード ISBN 978-8936433598
ウィキポータル 文学
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菜食主義者
各種表記
ハングル 채식주의자
漢字 菜食主義者
発音 チェシクチュウィジャ
日本語読み: さいしょくしゅぎしゃ
ローマ字 Chaesikjuuija
英題: The Vegetarian
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菜食主義者』(さいしょくしゅぎしゃ、채식주의자)とは、ハン・ガンの小説である[1]。2007年に出版された。本作をもとに、イム・ウソン監督、チェ・ミンソ主演の映画『花を宿す女英語版』が制作され、2010年に公開された。2024年時点で23か国語に翻訳されている[2]

内容

3つの中編「菜食主義者」「蒙古斑」「木の花火」で構成されている。

肉を食べなくなる女性、ヨンヘが主人公[1]。ヨンへは幼い頃から父親の暴力に晒され、結婚後も夫の支配下で管理されてきた[1]。そんなヨンヘはある日突然肉食を絶ち、拒食症となる[3]。周りとのコミュニケーションも途絶するうち、ヨンヘは植物になることを夢想する[4]

なお、著者のハン・ガンは本作について「書くのに3年かかった。ある意味で、とてもつらい時期だった」「この世界はあまりに美しく、抱きしめたい。でもそこに暴力や苦痛があります。『菜食主義者』を書いた時は人間の暴力に対する問いがあり、一切の暴力を拒否することが可能なのかという問いもありました」と語っている[5][6]

評価

2015年1月に刊行された英語版『The Vegetarian』。

本作は英語、フランス語、ドイツ語、日本語など23カ国語に翻訳され、世界的な支持を集めた[7][2][8][9]。本書に収録された「蒙古斑」(『문학과사회』2004年秋号掲載)は2005年に韓国で最高峰とされる李箱文学賞を受賞した[10]。2015年1月、英語の翻訳『The Vegetarian』(デボラ・スミス訳)が刊行。2016年にはブッカー賞を受賞し、ハン・ガンの名前が世界に知られるきっかけとなった[7]。なお、ハン・ガンはアジア人女性として初めてブッカー賞を受賞した作家である[7]

本作について小川公代は「肉食を拒むのは、暴力の世界から抜け出し、植物の世界に入っていこうとするからではないか」と評しているほか[1]、峯岸博は「普通の専業主婦がある日、肉を食べなくなる背後に朝鮮半島に根ざす家父長制社会がある」と指摘している[11]。他にも、藤田哲哉は以下のように評している[3]

菜食主義者とはベジタリアンではなく、「肉」を無理やり口に入れようとする精神的な「暴力」へのアンチテーゼだ。肉食は暴力と規律で武装された家父長制社会を隠喩し、植物人間になりたいと願う拒食症の患者を「木」になぞらえ、平和と解放の世界の象徴と位置づけた。その描写は「解」のない不条理を描いているようにもみえる[3]

また、松永美穂は以下のように評している[12]

肉を食べない女性を囲む、三人の身近な人物の視点から語られているが、それぞれの思惑と、女性への距離感がくっきりと表れていて、実に巧みである。手の届かない世界に閉じこもってしまったかに見える女性に、芸術家として激しく惹かれていく義兄の話も興味深いが、困惑し、疲弊しつつ妹に寄り添おうとする姉の愛情にも心を打たれずにはいられない[12]

なお、『菜食主義者』の日本語訳を出版したクオンの金承福は、以下のように述べている[13]

構成も面白いし、描かれている世界観も魅力的。何より文体が洗練されていて、詩的で。同時期に、翻訳者のきむ ふなさんからも翻訳したいと連絡があって「小説が好きな人ならば楽しめる作品」と確信しました。実際、出版されると新聞の書評が次々と出て、広がった。本国以外でもっとも彼女の本が読まれてきたのは日本でしょう[13]

他にも、『日本経済新聞』の記事は「肉食を絶った妻の変貌ぶりによって、韓国社会の女性に対する抑圧と抵抗を暗示的に描き出したと評価される」と記している[7]

脚注

  1. ^ a b c d 小川公代「「侍女の物語」から考える「生殖する身体の権利」 ケアと物語(2)」『日本経済新聞』2024年4月10日。
  2. ^ a b テレシア・マーガレット (2024年10月28日). “ハン・ガン作家の作品世界”. Korea.net. 2024年12月8日閲覧。
  3. ^ a b c 藤田哲哉「ノーベル文学賞ハン・ガン氏、韓国社会の「痛み」を刻む」『日本経済新聞』2024年10月11日。
  4. ^ 干場達矢「ノーベル文学賞のハン・ガン氏 韓国文学の厚み示す」『日本経済新聞』2024年10月12日。
  5. ^ 「「息子とお茶飲み、静かに祝いたい」 ハン・ガンさん、ノーベル文学賞に「驚いたが光栄」」『朝日新聞 夕刊』2024年10月11日。
  6. ^ 「(インタビュー)暴力に満ちた世界、光は 作家、ハン・ガンさん」『朝日新聞 朝刊』2024年5月28日。
  7. ^ a b c d 【ノーベル賞】文学賞に韓国のハン・ガン氏 アジア人女性初”. 日本経済新聞 (2024年10月10日). 2024年11月30日閲覧。
  8. ^ ハン・ガン氏著書のフランス語訳者「やっと彼らも理解した」”. ハンギョレ新聞 (2024年10月14日). 2024年12月8日閲覧。
  9. ^ 韓江の『菜食主義者』を独メディアが好評”. Korea.net (2016年8月25日). 2024年12月8日閲覧。
  10. ^ 藤原学思「ハン・ガンさん、文学賞 韓国作家で初の受賞 ノーベル賞」『朝日新聞 朝刊』2024年10月11日、1ページ。
  11. ^ ノーベル文学賞と2つの「ハンガン」 負の韓国史を直視 編集委員 峯岸博”. 日本経済新聞 (2024年10月12日). 2024年11月30日閲覧。
  12. ^ a b 松永美穂「(書評)菜食主義者 ハン・ガン著 肉を食べず、手の届かない世界へ」『朝日新聞 朝刊』2011年7月24日。
  13. ^ a b 金承福「(モジモジ? Kカルチャー)ハン・ガンさんと語り合う、書店への愛」『朝日新聞 夕刊』2024年11月2日、3ページ。



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