特異点解消とは? わかりやすく解説

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特異点解消

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/05/05 20:19 UTC 版)

ホイットニーの傘

特異点を改良するために"もっとも悪い"特異点の軌跡でのブローアップを考えることは自然である。ホイットニーの傘英語版 x2 = y2zz 軸を特異集合として持ち、ほとんどの点は通常2重点であるが原点ではより複雑な ピンチ・ポイント英語版[訳語疑問点]特異点を持っている。したがって、もっとも悪い特異点でブローアップとするという考えでは原点でのブローアップからはじめることになる。しかし、原点でブローアップしてもある座標チャートの上では同じ特異点ができてしまう。したがって"もっとも悪い"(ように見える)特異点でブローアップしても特異点は改善されない。代わりに、z 軸に沿ってブローアップすることで特異点を解消できる。

Bierstone & Milman (1997) のように、ある意味で"もっとも悪い"特異点でブローアップすることにより上手くいくアルゴリズムもあるが、この例が示すように"もっとも悪い"の定義は慎重に行う必要がある。

もっと複雑な特異点として x2 = ymzn を考える。これは x = yz = 0 に沿って特異点を持つ。 原点にあるもっとも悪い特異点でブローアップすると、x2 = ym+n−2znx2 = ymzm+n−2 で定義される特異点が生まれる。mn がともに3以上なら、これらは元の特異点より悪くなっている。

特異点を解消すると、全変換(強変換と例外因子の和集合)は単純正規交叉型の特異点を持つ代数多様体になっている。この型の特異点を解消することなく特異点を解消できないか、つまり滑らかな点と単純正規交叉している点の集合上で同型となるような解消を見つけられないか考えることは自然である。強変換が因子(つまり、滑らかな代数多様体に余次元英語版1の部分代数多様体として埋め込みが可能)の場合には、単純正規交叉点を避けた強型の解消が存在することが知られている。ホイットニーの傘から、正規交叉特異点でのブローアップを避けて特異点を解消することは不可能であることがわかる。

少しずつ解消していく方法は履歴を必要とする

特異点を解消する自然な方法は、何らかの標準的な方法で選ばれた滑らかな部分代数多様体でのブローアップを繰り返すことである。これは次の問題に直面する。式 x2 = y2z2 の特異集合は y 軸と z 軸の直線の組である。ブローアップの中心として考えられる代数多様体は、原点とこの2つの軸の片方と特異集合全体(2つの軸)だけである。しかし、特異集合全体は滑らかではないため使うことができず、2つの軸のうち片方を選択するのは対称性のために標準的にならない。そのため原点でのブローアップからスタートすることになるが、そうすると元の特異点がまた生じてしまうため、先に進めない。

この問題の解決策は、原点でのブローアップが特異点の型を変えなかったとしても、2つの特異な軸の間の対称性を壊れ、わずかな改善があることである。これは、それらのうちの1つは前のブローアップでの例外因子であることによる。それゆえ、どちらか片方をブローアップすることが今度は許される。しかし、これを利用するには、解消の手続きでこれら2つの特異点を、局所的に同じであったとしても違うやり方で処理する必要がある。これは時に解消手続きに履歴を使うことでなされる。したがって、各ステップでのブローアップの中心は特異点のみに依存するのではなく、それを生成するために使われた前のブローアップにも依存する。

解消は関手的ではない

円錐型の特異点 x2 + y2 = z2

標数0における特異点解消方法の中には滑らかな射について関手的なものがある。しかし、強型の解消で滑らかとは限らない全ての射について関手的なものを見つけることは不可能である。例としてアフィン平面 A2 から円錐型の特異点 x2 + y2 = z2 への写像で (X, Y)(2XY, X2Y2, X2 + Y2) に送るものを考える。XY 平面ははじめから非特異なので解消により変化すべきではない。そして、円錐型の特異点の任意の解消は特異点でのブローアップで与えられる最小解消を介して分解する。しかし XY 平面からこのブローアップへの有理写像は正則写像に拡張しない。

最小解消が存在するとは限らない

1次元と2次元では最小解消(解消であって全ての解消はこれを介して分解するもの)が存在したが、高次元では常に存在するとは限らない。アティヤ・フロップ英語版は最小解消が存在しない3次元での特異点の例である。YA4 における xy = zw の零点とし、VY の原点でのブローアップとする。このブローアップの例外軌跡は P1×P1 と同型である。これは、2つの異なるやり方で P1 にブローダウンすることができ、それぞれ Y の2つの小さい解消英語版 X1X2 を与える。どちらもこれ以上ブローダウンすることはできない。

解消は直積操作と交換可能ではない

Kollár (2007, example 3.4.4, page 121) において、十分によい解消手順は直積操作と交換できることを期待できないことがわかる次の例が示されている。f : AB を3次元アフィン空間における2次の円錐 B の原点でのブローアップとする。このとき、f × f : A×AB×B はエタール局所的な解消手順から得ることはできない。これは、本質的にはこの例外軌跡が2つの交叉する成分を持つことによる。

トーリック多様体の特異点

トーリック多様体の特異点は具体的に解消することが容易な高次元特異点の例である。トーリック多様体は、格子の錐の集まりである扇を用いて定義される。この特異点は各錐を格子の基底から生成される錐の和集合に分割し対応するトーリック多様体を取ることで解消できる。

X の正則部分代数多様体を中心に選ぶ

代数多様体 X の非特異化の構成では、X の滑らかな部分代数多様体がブローアップの中心になるとは限らない。抽象的な代数多様体 X の非特異化は、多くの場合、局所的に X を滑らかな代数多様体 W に埋め込み、W におけるそのイデアルを考え、このイデアルの標準的な非特異化を計算することにより作られる。イデアルの非特異化ではイデアルの位数をイデアルの特異度を測るものとして使う。イデアルの非特異化は局所的な中心を貼り合わせて大域的な中心を作るというやり方でなされる。この方法による証明は、ヒルベルト・サミュエル関数で特異点の悪さを測る広中の元の証明に比べて、相対的に簡単である。例えば Villamayor (1992), Encinas & Villamayor (1998), Encinas & Hauser (2002), Kollár (2007) ではこのアイデアを使って証明している。しかしこの方法ではブローアップの中心は W で正則であることしか保証されない。

次の例 (Bierstone & Milman 2007) は、この方法により X(の強変換)との交叉が滑らかではない中心が生じ、したがって抽象的な代数多様体 X の非特異化が X の正則部分代数多様体でのブローアップとして得られていないものの例である。

4次元アフィン平面を考える。その座標を x, y, z, w とする。多項式 y2x3x4 + xz2w3 で定義される部分代数多様体 X を考える。この多項式を生成元とするイデアルの標準的な非特異化では x = y = z = w = 0 で定義される C0 を中心とするブローアップを行うだろう。変換後のイデアルは、x チャートでは xy2y2(y2 + z2w3) で生成される。次のブローアップの中心は x = y = 0 で定義される C1 である。X の強変換 X1xy2y2 + z2w3 で定義されるものである。C1X1 の交叉は x = y = 0z2w3 = 0 により与えられるが、これは正則ではない。

X の正則部分代数多様体をブローアップの中心とするより強い証明(Bierstone, Milman & 1991-97)では、局所的に W に埋め込んだときのイデアルの位数ではなく、X の局所環のヒルベルト・サミュエル関数が使われる。

特異点解消のその他の変形版

解消のあと、全変換(強変換 X と例外因子の和集合)は悪くとも単純正規交叉する特異点しか持たない代数多様体になるように作られる。したがってこのタイプの特異点を解消することなく特異点を解消できないか、つまり滑らかな点と単純正規交叉している点の集合上で同型となる解消を見つけることができないか考えることは自然である。X が因子、つまり滑らかな代数多様体に余次元1の部分代数多様体として埋め込まれている場合には、単純正規交叉している点を避ける強型の解消が存在することが知られている。一般の場合や他のタイプの特異点を避けることが可能かどうかはまだわかっていない(Bierstone & Milman 2012)。

ある種の特異点については避けることは不可能である。例えば、正規交叉する特異点でのブローアップを避けて特異点を解消することはできない。実際、ピンチ・ポイント特異点を解消するためには、正規交差している特異点を含めた特異軌跡全体をブローアップする必要がある。

脚注

注釈

  1. ^ X の非特異点がなす開集合は X とほぼ同じ形の非特異代数多様体であるが、X が固有であったとしてもそれは固有にはならない。コホモロジー論的に扱いやすものは固有な代数多様体であるため、このような自明な解は応用上強力なものにならない。そのため、「固有」という条件を満たすものの中から非特異なものを探すことが大事である。

出典

参考文献

日本語の文献

  • 川ノ上帆 (2011年). “特異点解消入門” (PDF). 平成23年度(第33回)数学入門公開講座テキスト(京都大学数理解析研究所,平成23年8月1日~8月4日開催). 2021年12月29日閲覧。

文献目録

外部リンク

  • Resolution of singularities I, 広中の講演の映像記録
  • pictures, 特異点とその解消のイラスト
  • SINGULAR, 特異点解消パッケージがある計算機代数システム
  • Notes and lectures for the Working Week on Resolution of Singularities Tirol 1997, September 7–14, 1997, Obergurgl, Tirol, Austria
  • Lecture notes from the Summer School on Resolution of Singularities, June 2006, Trieste, Italy.
  • desing, 特異点解消のためのソフトウェア
  • Hauser's home page, 特異点解消についての解説記事が複数ある



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