松中権
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/08/31 03:47 UTC 版)
松中 権(まつなか ごん、1976年 - )は、日本のLGBT社会運動家。認定NPO法人グッド・エイジング・エールズ代表。LGBTQ+と社会を繋ぐ場づくりや法制度づくり、LGBTQ+に関連した講演や授業などを全国で行っている。
一般社団法人 金沢レインボープライド 共同代表、 一般社団法人work with Pride 代表理事、公益社団法人Marrriage for All Japan -結婚の自由をすべての人に 理事、一般社団法人NOTOTO. 共同代表、NPO法人新公益連盟 理事、プライドハウス東京 初代代表、東京大学総長室アドバイザーなど。
人物・経歴
1976年、石川県金沢市生まれ。父は金沢大学名誉教授。金沢大学附属小学校、金沢大学附属中学校、金沢大学附属高等学校を経て[1][2][3]、1995年一橋大学法学部入学、2000年一橋大学法学部国際関係課程卒業卒業[4]、2001年に電通入社。大学在学中、メルボルン大学に如水会海外留学奨学生、国際ロータリー財団海外派遣奨学生として留学[5][6]。
電通ではストラテジック・プランニングセクションで企業のコミュニケーション戦略を担当するなどした[5]。2008年、海外研修制度でニューヨークのイベント会社Empire Entertainment Inc.でインターンシップを行い、NPO関連のチームで、アリシア・キーズのHIVプロジェクトや、対がんマラソン企画、独立系映画祭などに携わる[7]。ニューヨーク滞在中の大統領選で国民の一人ひとりが活動をしている姿を見たことが日本での活動のきっかけとなる。
2009年からは電通にて官公庁担当部署で勤務。環境省、経済産業省、農林水産省、外務省、文部科学省等の国際案件を担当。2011年3月11日の東日本大震災を受けて強化された首相官邸や内閣官房関連の事業を担当した[8]。
2010年特定非営利活動法人グッド・エイジング・エールズを仲間たちと設立し代表に就任。LGBTQ+を含むあらゆる性的マイノリティが自分らしく歳を重ねていける社会になること、性のあり方に関係なくLGBTQ+の人もそうでない人もお互いにエールを送り合うこと、という2つの願いを込めた。[9]
2011年「場づくり」を目指し、”LGBTQ+も、そうでないひとも関係なく、素敵な出逢いや交流ができるカフェ”をコンセプトに、障碍者、外国人などとの交流ができるビーチカフェ「カラフルカフェ」(葉山)を開始。
2013年アメリカ合衆国国務省主催インターナショナル・ビジター・リーダーシップ・プログラム研修生としてアメリカ合衆国のLGBTQ+関連NPOや政府機関での調査に従事。
2014年5月にはLGBTに関する情報発信を行うコミュニティスペース「カラフルステーション」を開始。1階にはエスニックレストラン「irodori」(※株式会社ニューキャンバスが経営。代表:杉山文野氏)、2階はシェアオフィス、1・2階それぞれの壁は多様性を発信するギャラリーとして機能する交流拠点(2018年3月末クローズ)。[10]
2015年、著名人のポートレートなど国内外のファッション誌、広告の世界で活躍するシンガポール出身の写真家、レスリー・キー(Leslie Kee)氏と5年間で1万人のLGBTポートレート撮影を目指すカミングアウト・フォト・プロジェクトとして「OUT IN JAPAN」をスタート。WEBサイトや展覧会などを通じて、セクシュアル・マイノリティを身近な存在として可視化し、正しい知識や理解を広げるきっかけづくりの一環。第19回文化庁メディア芸術祭エンタテインメント部門審査委員推薦作品に選出され、2016年4月には合計1000人の当事者の撮影を達成した。[11]
2017年電通を退社[5]。同年、なくそう!SOGIハラ実行委員会代表に就任[12]。国会議員や様々な団体・個人と院内集会「レインボー国会」を開き、LGBTQ差別をなくすための法律づくりに取り組む。現在では、同性婚の法制化を目指した「公益社団法人Marrriage for All Japan -結婚の自由をすべての人に」の 理事として、同性婚訴訟の広報・啓発活動や全国の原告・弁護団とともに院内集会「マリフォー国会」を実施している。
2019年6月には一橋大学で卒業生有志を中心とした団体「プライドブリッジ」を設立。2015年8月に同性愛者だと暴露(アウティング)された男子大学院生が後者から転落死したことがきっかけとなり、一橋大ジェンダー社会科学研究センターとの共同事業として、学内にジェンダーやセクシュアリティーを学び交流できるセンターを設置した。都内での発表では「当事者らが気軽に集える場をつくりたい」「学生や教職員にもLGBTは当たり前にいる。居場所づくりや教育、支援をしていきたい」と話した。
2018年にキックオフしたプロジェクト「プライドハウス東京」の初代代表となり、2020年10月11日の国際カミングアウト・デーに、日本初の常設型のLGBTセンターである「プライドハウス東京レガシー」をオープン。オリンピック・パラリンピックの大会組織委員会による公認プログラムとして、競技大会期間中、LGBTQ+とスポーツ・文化・教育などに関する情報発信企画を実施した。(2021年9月5日をもって公認プログラムは終了)。大会終了後も常設総合LGBTQ+センターとして運営している。[13]
2021年3月には同性カップルの関係を公的に認めるパートナーシップ制度の導入を東京都に求める要望書を「東京都にパートナーシップを求める会」発起人として提出。小池百合子都知事が受け取った。[2])「(企業で)全ての社員が安心して働ける場所としてカバーできないことがある。東京都としてサポートしてほしいという話をしました。」と述べた。
2023年1月に法人化された一般社団法人work with Pride では、日本国内の企業・団体のLGBTに関するダイバーシティ・マネジメントの促進と定着を支援するカンファレンスを毎年開催している。尚、取り組み自体は、2012年に日本アイ・ビー・エム株式会社と、国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ、NPO法人グッド・エイジング・エールズの3者共同でLGBT従業者支援に関するセミナーを企画したことに始まる。
2023年2月 岸田文雄首相が松中権氏らLGBT支援団体の関係者を官邸に招いて面会。元首相秘書官の差別発言について謝罪している。差別禁止法や同性婚の法整備を要請した他、面会後には記者団には「首相の『社会が変わってしまう』という発言は心臓が止まるほどショックである。政府が多様性をきちんと受け止めるための制度、法律を進めて欲しい」などと述べている。[14]
2023年3月 世界初となるLGBTQ+の人権保護・政策提言に関するG7の新たなエンゲージメントグループ「Pride7」を、理事を務める「公益社団法人Marrriage for All Japan -結婚の自由をすべての人に」を主体に国内の支援団体、国際人権団体らと発足、同月には世界初の国際市民会合「Pride 7サミット 2023」の開催した。[15][16]
2023年5月 日本社会における同性婚の法制化実現に向けて、「公益社団法人Marrriage for All Japan -結婚の自由をすべての人に」を主体に、地域・セクターの枠を越えて理解促進・機運向上を図るプロジェクトとして「結婚の平等にYES!〜YES!FOR MARRIAGE EQUALITY」を全国のLGBT当事者・支援者団体と発足。尚、日本コカ・コーラ株式会社が一社目の賛同企業となっている。
2023年6月に制定されたLGBT理解増進法(性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律)に対して、「LGBTQ+に対する理解が広がる法律ができることを願っていましたが、逆にLGBTQ+の人々が不安を感じる法案が作られ、それが法制化されそうな状況は、本当に悲しく残念です。」と述べている。[17]その他、企業・公的機関への講演や、有識者会議の場などで活躍している。
2024年元旦に起きた令和6年能登半島地震では、企業・団体からの物資・人的なサポートを一時的に受け付ける『令和6年 能登半島地震 企業・団体からの民間支援事務局』を立ち上げた。4月には一般社団法人NOTOTO.として法人化し共同代表に就任。
2025年4月 短編映画「誰も悪くないのにね」を「公益社団法人Marrriage for All Japan -結婚の自由をすべての人に」がYouTubeに公開。LGBTQ+の「カミングアウト」に対する作品となっている。記者会見を同日に厚生労働省で行った。(監督:大森歩 企画:高崎卓馬[18])
エピソード
- 学生~社会人
小さい頃からゲイとしての自覚はあったが、社会の中にある「男なら当然女性が好きになり、こういう生き方をすべき」といったバイアスにより生きづらさを感じながら過ごしていた。そんな生活から脱却したいと、違う世界に触れるため、一橋大学4年生時にオーストラリアへ渡航、LGBTQ+が当たり前に存在する世界を目の当たりにし感化された。留学先で初めてゲイであることをオープンにして生活し、隠すことも伝える必要もないストレスなき日常を過ごした。[19]
2015年に一橋大法科大学院の男子学生が同性愛者であることを同級生に暴露(アウティング)された後、転落死した。出身校で起きたこの事件を機に、2017年会社を退職し活動に専念するようになる[20]。
メディア
日経ビジネス
朝日新聞
ハフポスト
- ずっと帰省を避けてきた。故郷・金沢で両親にカミングアウトするということ
- 電通の上司への叶わなかったカミングアウト、5月17日に考える。
- 新宿二丁目は、孤独だった大学生の私を救ってくれた。 #SAVEthe2CHOME を願う、あるゲイの人生
- 新宿二丁目を救うために、奔走する人たちがいる。老舗バーの“ママ”になった私の想い
「彼は私」でした。一橋大アウティング事件で、電通を辞めて向き合ったひとつの感情。
・【一橋大アウティング事件から10年】
- 彼が遺した「黄色い一枚の絵」、家族や友人の“希望”を未来につなぐために【一橋大アウティング事件から10年①】
- 「学生の父親です」遺された家族と私をつないでくれた2回のシンポジウム【一橋大アウティング事件から10年②】
- 命日、ご両親と一橋大学の献花台へ。男子校の友人が語ってくれた彼の「あだ名」【一橋大アウティング事件から10年③】
- 「それでも、友達だよな」彼が告白した高校の同級生ともに法曹を目指した友人の言葉【一橋大アウティング事件から10年④】
- 忘れない。「黄色い一枚の絵」に託した“彼の願い”、誰にも言えなかった家族の本心とこれから【一橋大アウティング事件から10年⑤】
評価・反響
著書
- 『LGBT初級講座 まずは、ゲイの友だちをつくりなさい』講談社+α新書 2015年(著)
- 『ぼくがスカートをはく日』学研プラス 2018年(解説)
- 「はじめよう!SOGIハラのない学校・職場づくり 性の多様性に関するいじめ・ハラスメントをなくすために』大月書店 2019年(「なくそう!SOGIハラ」実行委員会 ・共著)
- 『多様性との対話 ダイバーシティ推進が見えなくするもの』青弓社ライブラリー 100 2021年(岩渕功一 編、共著)
- 『一橋大学アウティング事件がつむいだ変化と希望 10年の軌跡』サウザンブックス社 2025年(編著)
出演
- テレビ番組
- オン・マイ・ウェイ! 「偏見をなくすためには?」(2018年09月12日、NHK)
- Our Family ~3人の子育て~(2020年03月17日、NHKハートネットTV)など
- ラジオ
- 第113回「ジェンダーニュートラルとサステナビリティ 2」松中権(グッド・エイジング・エールズ)×向千鶴(WWD JAPAN)(2023年05月27日、TBSラジオ)
- Find Your Colors with TOKYO RAINBOW PRIDE(2024年03月30日、interfm)
脚注
- ^ [1]金沢大学
- ^ 「【シリーズ・この人に聞く!第127回】LGBT初級講座「まずは、ゲイの友だちをつくりなさい」著者 松中権さん」potaru.
- ^ 「【講師紹介:松中権さま】」 小松サマースクール
- ^ 如水会寄附講義「如水ゼミ」一橋大学
- ^ a b c 「松中 権(まつなか・ごん)」プレジデントオンライン
- ^ 「差別の根源は教育?KABA.ちゃん×松中権の「LGBT対談」」COSMOPOLITAN1/1(月) 23:00配信
- ^ 「“2020”はいろいろなことがポジティブに働く”奇跡のモノサシ”になる 〜松中権さんインタビュー」行動系ウェブマガジン[DRIVE]2017.08.31
- ^ “「ちがいを、ちからに」、いろんな経験や価値観を将来に生かそう LGBTQ+運動家・松中権さん:中日新聞Web”. 中日新聞Web. 2025年8月23日閲覧。
- ^ “good aging yells. | LGBTと、いろんな人と、いっしょに。”. goodagingyells.net. 2025年8月23日閲覧。
- ^ グリーンズ, greenz jp. “東京に”もうひとつの2丁目”を! LGBTもそうでない人も一緒に集える街をつくる、神宮前2丁目の「カラフルステーション」”. greenz.jp. 2025年8月23日閲覧。
- ^ “【京都初】LGBTカミングアウト・フォト企画「OUT IN JAPAN」写真展@京都マルイ。写真家レスリー・キー、春光院副住職・川上全龍、トランスジェンダー女優・西原さつき、による豪華トークショー!”. プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES (2018年3月2日). 2025年8月23日閲覧。
- ^ 「それって「SOGIハラ」発言かも 誰でも被害に」朝日新聞デジタル2018年2月10日13時24分
- ^ “プライドハウス東京 - PRIDE HOUSE TOKYO JAPAN 2020 -”. プライドハウス東京 - PRIDE HOUSE TOKYO JAPAN 2020 -. 2025年8月23日閲覧。
- ^ “「心からおわび」岸田首相が元秘書官の差別発言でLGBTQ当事者に陳謝 「早急な法整備を」強まる声:東京新聞デジタル”. 東京新聞デジタル. 2025年8月23日閲覧。
- ^ “世界初の国際市民会合を日本で開催。「Pride 7サミット 2023」LGBTQ+の人権保護と議論促進に向け初開催。G7の新たなエンゲージメントグループ『Pride 7』国際社会と連携・政策提言へ”. プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES (2023年3月30日). 2025年8月23日閲覧。
- ^ “【G7に向け世界初の市民組織を日本から発足】国際社会と連携・議論を推進LGBTQ+の人権保護と政策提言を促進する新たなエンゲージメントグループ『Pride7』を発足。11カ国が集まるP7サミットを開催”. プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES (2023年3月24日). 2025年8月23日閲覧。
- ^ 日経ビジネス電子版 (2023年6月15日). “「今のLGBT法案は廃案に!」松中権氏が語る当事者たちの懸念”. 日経ビジネス電子版. 2025年8月23日閲覧。
- ^ マリフォーチャンネル Marriage For All Japan -婚姻の平等 同性婚- (2025-04-09), 短編映画『誰も悪くないのにね』(本編) 2025年4月15日閲覧。
- ^ ライフハッカー編集部「LGBTに「ポジティブ思考」を学ぶ──セクシュアリティーは多様でカラフルなグラデーション | ライフハッカー・ジャパン」『ライフハッカー・ジャパン』2016年8月24日。2025年8月23日閲覧。
- ^ 理事/東京大学総長室アドバイザー。, 松中権npo法人グッド・エイジング・エールズ代表/金沢レインボープライド 共同代表/nototo 共同代表/新公益連盟 (2019年2月26日). “「彼は私」でした。一橋大アウティング事件で、電通を辞めて向き合ったひとつの感情。”. ハフポスト. 2025年8月23日閲覧。
- ^ 「《渋谷区条例のグッドデザイン賞受賞、取り消しについてのご報告》」
- ^ 「第7回若者力大賞「ユースリーダー賞」 松中 権氏インタビュー」」公益財団法人日本ユースリーダー協会21日 1月 2016
外部リンク
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