一年生の夢
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/02/22 07:57 UTC 版)
一年生の夢(いちねんせいのゆめ、Freshman's dream)は、(x + y)n=x n + y nという誤りを含んだ式の呼称(ここでnは実数で、通常1より大きい整数)である。初学者がしばしば、実数の和の累乗を考えるときに指数をそれぞれの項に分配してしまうことからこう呼ばれる[1][2]。
例えばn = 2の場合を考えると、(x + y)2 は正しくはx 2 + 2xy + y2と展開される。一般のnについての正しい結果は二項定理によって与えられる。
また「一年生の夢」は、素数pについて、xとyが標数pの可換環の元であるとき、(x + y)p = xp + ypであるという定理を指すことがある。この場合 、pが最初と最後以外の二項係数を打ち消し、それらの項が0になるため、一見誤った式が成立する。
この式はトロピカル幾何学の文脈においても成立する。なぜなら、トロピカル幾何学においては乗算が加算、加算が最小化に置き換わるためである[3]。
具体例
「一年生の夢」という用語に関する歴史はあまり定かではないが、1940年代にモジュラー曲線の記事において、ソーンダース・マックレーンが「代数学を学ぶ一年生は、標数2の代数体において、(a + b)2 = a2 + b2が成立するという事実に大いに苦しめられるだろう」というクリーネの発言を引用している。これが一年生(freshman)と正標数の体における二項定理の拡張についての最初の言及であると思われる[5]。以来、学部レベルのテキストの中に生徒がよく陥る誤りについて記述された。 実際に「一年生の夢(freshman's dream)」という言葉が最初に表れたのは、1984年のトーマス・ハンガーフォードが書いた大学院生向けの代数学のテキストである。ここでハンガーフォードはMcBrienを引用している[6]。また、"freshman exponentiation"という用語も、1998年Fraleighによって用いられている[7]。数学以外の文脈では、"freshman's dream"という言葉自体は19世紀から用いられている[8]。
また、(x + y)n の拡張が二項定理から得られることから、「一年生の夢」の等式は"child's binomial theorem[4] や、"schoolboy binomial theorem"としても知られる。
関連項目
参考文献
- ^ Julio R. Bastida, Field Extensions and Galois Theory, Addison-Wesley Publishing Company, 1984, p.8.
- ^ Fraleigh, John B., A First Course in Abstract Algebra, Addison-Wesley Publishing Company, 1993, p.453, ISBN 0-201-53467-3.
- ^ Difusión DM (2018-02-23), Introduction to Tropical Algebraic Geometry (1 of 5) 2019年6月11日閲覧。
- ^ a b A. Granville, It Is Easy To Determine Whether A Given Integer Is Prime, Bull. of the AMS, Volume 42, Number 1 (Sep. 2004), Pages 3–38.
- ^ Colin R. Fletcher, Review of Selected papers on algebra, edited by Susan Montgomery, Elizabeth W. Ralston and others. Pp xv, 537. 1977. ISBN 0-88385-203-9 (Mathematical Association of America), The Mathematical Gazette, Vol. 62, No. 421 (Oct., 1978), The Mathematical Association. p. 221.
- ^ Thomas W. Hungerford, Algebra, Springer, 1974, p. 121; also in Abstract Algebra: An Introduction, 2nd edition. Brooks Cole, July 12, 1996, p. 366.
- ^ John B. Fraleigh, A First Course In Abstract Algebra, 6th edition, Addison-Wesley, 1998. pp. 262 and 438.
- ^ Google books 1800–1900 search for "freshman's dream": Bentley's miscellany, Volume 26, p. 176, 1849