チェーン・ホーム
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/04 05:25 UTC 版)
チェーン・ホーム(英語: Chain Home)は、イギリス空軍で採用された早期警戒用レーダーである。
AMES Ⅰ型をチェーン・ホーム、低空用のAMES Ⅱ型をチェーン・ホーム・ロウ(英語: Chain Home Low)と呼んだ[1]。
概要

英国では1925年にイギリス防空隊(ADGB)が創設され、目視情報をADGB司令部で集約する、最初期の警戒網が築かれていた[2]。目視の限界から、英空軍省がワトソン・ワットに依頼し、電子的な反響を利用した探知装置、すなわちレーダーが開発された[3]。
これは空軍省実験所(英語: Air Ministry Experimental Station、AMES)の略称から、AMES Ⅰ型と指定された[4]。ただし目標までの方位角を探知できない欠点があり、また情報秘匿の観点からも「無線方向探知機」(英語: Radio Direction Finding、RDF)と通称された[5][4]。欠点は複数のレーダーによって三角測量を行うことで補完した[4]。
1940年7月までにAMES Ⅰ型によるチェーン・ホーム(CH)20局とこれを補完する低空用AMES Ⅱ型によるチェーン・ホーム・ロウ(CHL)30局が整備され、世界最高水準の防空体制が整い[6]、同年夏のバトル・オブ・ブリテンで多大な貢献を果たした。
チェーン・ホームと運用

点線:1939年9月・高度1万5000ft
実線:1940年9月・高度1万5000ft
網掛:1940年9月・高度500ft
AMES Ⅰ型は、ビーム幅が水平方向100度で、垂直方向仰角5度での感度が良好だったため、高空監視用として用いられた[1]。また送信用(高さ360ft)と受信用(高さ240ft)が異なるバイスタティック・レーダーだった[1]。しかし、1938年の演習において仰角2度以下の探知ができない欠点が明らかとなり[7]、英海軍省が用いた360度回転式レーダーを、低高度用のAMES Ⅱ型として採用し、Ⅰ型の欠点を補完した[6]。Ⅱ型もⅠ型同様のバイスタティック・レーダーであり、送受信用が同期して回転した[7]。
グレートブリテン島南部は海に面した開けた地形で、レーダー配備に適した地形だった[8]。
前述の通り英軍がレーダー配備を推進する中、ドイツ軍は1939年に巨大な装置であるチェーン・ホームを偵察したがレーダーの存在を突き止めるには至らなかった[9]。翌1940年6月にレーダー装置であることを認知すると、7月にはカレーに妨害装置を設置したが、出力が弱く十分な効果は与えられなかった[10]。
英国のチェーン・ホーム警戒網の優れていた点は、未だ初歩的な段階でしかないレーダー網自体より、そこから得られる情報を有効に活用した運用面だった[11]。CHL局は、探知情報を最寄りのCH局に電話で報告する[12]。さらにCH局が戦闘機軍団司令部フィルター室に報告し、重要度の判定及び敵味方識別を行った後[13]、同作戦室にこれをプロッターたちが巨大な地図上に航空部隊等を意味するマーカー(兵棋)を移動させて、現況を図示した[14][12]。
また、早期警戒用レーダーとして設置されたが、精度5マイルの要撃管制用としても用いることができた[15]。当時は航空機搭載用レーダーが未発達で、夜間・荒天時の地上からの要撃管制が重要な役割を持った[15]
脚注
注釈
出典
- ^ a b c 福島大吾 2021, p. 161.
- ^ ディルディ 2021, pp. 44–45.
- ^ ディルディ 2021, pp. 46–47.
- ^ a b c ディルディ 2021, p. 47.
- ^ デイトン 上 1998, p. 234.
- ^ a b ディルディ 2021, pp. 49–50.
- ^ a b 福島大吾 2021, p. 162.
- ^ デイトン 上 1998, pp. 237–238.
- ^ 天貝崇樹 2021, p. 174.
- ^ 天貝崇樹 2021, p. 175.
- ^ デイトン 上 1998, pp. 244–245.
- ^ a b ディルディ 2021, p. 50.
- ^ デイトン 上 1998, pp. 249–250.
- ^ デイトン 上 1998, pp. 251–252.
- ^ a b 福島大吾 2021, p. 163.
参考文献
- デイトン, レン 著、内藤一郎 訳『戦闘機:英独航空決戦』早川書房、1983年。ISBN 4152051728。
- デイトン, レン 著、内藤一郎 訳『戦闘機:英独航空決戦 上』早川書房〈ハヤカワ文庫〉、1998年8月1日。 ISBN 978-4150502263。
- デイトン, レン 著、内藤一郎 訳『戦闘機:英独航空決戦 下』早川書房〈ハヤカワ文庫〉、1998年8月1日。 ISBN 978-4150502270。
- ディルディ, ダグラス・C 著、橋田和浩 訳『バトル・オブ・ブリテン1940 ドイツ空軍の鷲攻撃と史上初の統合防空システム』芙蓉書房出版、2021年3月26日。
ISBN 978-4829508084。
- 福島大吾「チェーン・ホーム・レーダーの概要」『バトル・オブ・ブリテン1940 ドイツ空軍の鷲攻撃と史上初の統合防空システム』、芙蓉書房出版、2021年3月26日、161-163頁。
- 天貝崇樹「バトル・オブ・ブリテンにおける電子戦」『バトル・オブ・ブリテン1940 ドイツ空軍の鷲攻撃と史上初の統合防空システム』、芙蓉書房出版、2021年3月26日、174-178頁。
関連項目
- レーダー・サイト
- フライヤ (レーダー) - 第二次世界大戦期における独軍の早期警戒レーダー
外部リンク
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