アティヤ=シンガーの指数定理
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/09/11 15:54 UTC 版)
アティヤ=シンガーの指数定理(アティヤ=シンガーのしすうていり、英: Atiyah–Singer index theorem)とは、スピンc多様体 の上の複素ベクトル束の間の楕円型微分作用素について、解析的指数と呼ばれる量と位相的指数と呼ばれる量とが等しいという定理である。解析的指数は与えられた楕円型微分作用素が定める偏微分方程式の解の次元を表す解析的な量であり、一方で位相的指数は微分作用素の主表象をもとにして多様体のコホモロジーを通じて定義される幾何的な量である。従って指数定理は解析学と幾何学という見かけ上異なった体系の間のつながりを与えているという意味で20世紀の微分幾何学における最も重要な定理ともいわれる。
本稿で述べる形の指数定理はマイケル・アティヤとイサドール・シンガーによって1963年に発表[1]され、1968年に証明[2] [3]が刊行された。指数定理の特別な場合として、以前から知られていたガウス・ボンネの定理やヒルツェブルフ・リーマン・ロッホの定理(ヒルツェブルフのリーマン・ロッホの定理)などが含まれていると理解できる。さらに、1950年代の終わりに得られていたグロタンディーク・リーマン・ロッホの定理(グロタンディークのリーマン・ロッホの定理)はこの定理の定式化に大きな影響を与えたとされ、グロタンディークが代数多様体に対して用いたK理論の構成を微分多様体に対して実行することが指数定理の定式化・証明における重要なステップをなしている。またアティヤ-シンガーによる枠組みの一般化として群が作用している場合や、楕円型微分作用素を持つ多様体が、ある多様体によってパラメーター付けされた族として与えられている場合、葉層構造によってパラメーター付けが与えられている場合などに指数定理が一般化されている。
この定理の研究から、アティヤとシンガーは2004年にアーベル賞を受賞した。
楕円型微分作用素
n 変数 x1, ..., xnに関する最大p 階の偏微分作用素
解析的指数と位相的指数はともに多様体の K群の間の準同型として定式化することができる。したがって指数定理とは(K向き付けの与えられた)滑らかな写像 f: M → N が引き起こす二つの指数写像 Inda(f), Indt(f): K*(M) → K*(N) の一致として定式化される。解析的指数 Inda は作用素環論的に双変 K 理論を用いて定式化することができ、一方で位相的指数 Indt は M のユークリッド空間 Rnへの埋め込みと、ボット周期性K*(Rn × N) = K*+ n(N)を通じて定式化される。こうして多様体の族に関する指数定理を述べることができ、Nが一点の場合が上記のAtiyah-Singerの指数定理に相当する。群作用がある場合や、族が葉層構造によって与えられている場合の指数定理はこれらの構成を適切なカテゴリーに拡張することによって述べられる。
応用
アティヤ=シンガーの指数定理はゲージ理論において、反自己共役接続のモジュライ空間の形式的な次元の計算などさまざまな部分に応用される。
一般に、古典的な理論で成立する対称性が量子化によって破れることを量子異常またはアノマリーという。 代表的なアノマリーとして、カイラル・アノマリー、重力アノマリー、パリティ・アノマリーなどがある(詳細はアノマリーの項を参照)。Atiyah-Singerの定理を使うと、アノマリーに幾何学的な意味を与えることができる。
参考文献
- ^ Atiyah, Michael F. and Singer, Isadore M., The Index of Elliptic Operators on Compact Manifolds, Bull. Amer. Math. Soc. 69, 322-433, 1963.
- ^ Atiyah, Michael F. and Singer, Isadore M., The Index of Elliptic Operators I Ann. Math. 87, 484-530, 1968. K理論を用いた指数定理の証明
- ^ M. F. Atiyah; G. B. Segal The Index of Elliptic Operators: II The Annals of Mathematics 2nd Ser., Vol. 87, No. 3 (May, 1968), pp. 531-545
- 古田, 幹雄 (1999, 2002). 指数定理1, 2. 東京: 岩波書店
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