鉛蓄電池
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/06/30 07:31 UTC 版)
廃棄
鉛蓄電池は、人体や環境に有害な鉛や硫酸を含んでおり、一般の廃棄物として捨てることができない。このため、電池工業会と各電池メーカーを中心に、交換用のバッテリーを販売した店が、廃棄する鉛蓄電池を下取りするリサイクル制度が整備されている。廃棄された鉛蓄電池は、大きく分けて鉛・プラスチック・硫酸に分けられるが、硫酸以外は資源として価値が高いために、業者間では有価物として取引されている。電解液の希硫酸は医薬用外劇物で、廃棄する際などには炭酸水素ナトリウム(重曹)を始めとする中和剤を用いて、適切な処理をしなければならない。
劣化現象
鉛蓄電池は放電し切ると、負極板表面に硫酸鉛の硬い結晶が生じるサルフェーション(白色硫酸鉛化)と呼ばれる現象が発生しやすくなる。鉛蓄電池では電極の表面積を広げるために表面が粒状となっているが、サルフェーションにより硫酸鉛が表面に付着して表面積が低下し起電力が低下する。硫酸鉛の結晶は溶解度が低く、一度析出すると充放電のサイクルに戻ることができない。サルフェーションが発生した鉛蓄電池は充電すると電圧は回復するものの内部抵抗が大きくなり、実際使用できる電池容量が低下する。バッテリー劣化はバッテリーテスターでCCA(Cold Cranking Amperes)値を計測することで判断できる。CCA値は-18℃で放電させた場合端子電圧が30秒間に7.2Vまで低下する場合の放電電流(A)を表している。
サルフェーションを起こした鉛蓄電池の機能回復をうたう添加剤があり、多くは炭素微粉末やゲルマニウム、リグニン、特殊ポリマーなどを使用しているが効果は限定的である。パルスを併用した充電でサルフェーションを除去する装置があるが、電極が劣化したり脱落したものには無効である。
他には、正極板の二酸化鉛が使用していくにつれて、徐々にはがれる脱落と呼ばれる現象が発生し、これが電池底部にたまって陽極と陰極をショートした形となって電圧が低下する。セル1個の電圧が2ボルトであるので、ショートしたセルの数だけ2ボルト単位で電圧が低下するのが特徴である。電解液の溶媒である水は、蒸発や充電時に水素と酸素に電気分解されることによって液量が減少する。液面が下がって電極と電解液の接触面積が減少すると起電力が低下するため、鉛蓄電池には液面高さを示す表示がされていて、下限に達した際には精製水を補充する必要がある。電解液が不足(液枯れ)状態では、充電中や衝撃等による火花(ショート)が発生し、水素ガスに引火すると爆発事故となる。
電動フォークリフトなど、多数の鉛蓄電池を日常的に使用する場合に、わずらわしい補水作業を簡単にするため、蓄電池メーカーはオプションで一括補水システムを用意している。
鉛蓄電池を製造販売している主な企業
会社 | 市場占有率 (%) | 備考 |
---|---|---|
クラリオス | 20.49 | 2019年にジョンソンコントロールズのPower Solutionsユニットがブルックフィールド・ビジネス・パートナーズに売却されて新会社として設立された。製造するバッテリーのブランドはContinental、OPTIMA、Heliar、LTH、Delkor、VARTAなど。日本市場向けのVARTAブランドやボッシュ(BOSCH)ブランドの鉛蓄電池はクラリオスの韓国支社であるClarios Delkor Corporationが製造している。 |
天能動力(ティエンノン・パワー) | 16.56 | 1986年創業 |
イーストペン(East Penn) | 8.36 | |
超威動力(チャオウェイ・パワー) | 8.32 | |
エキサイド | 8.09 | |
エナーシス | 8.09 | |
GSユアサ | 2.61 |
- 古河電池
- エナジーウィズ(旧昭和電工マテリアルズ蓄電デバイス・システム事業部門、旧日立化成および新神戸電機、Tuflongブランド)
- GSユアサエナジー(旧・パナソニック ストレージバッテリー、パナソニックブランド)
- ACDelco(エーシーデルコ)
- ロバート・ボッシュ
- ^ a b May, Geoffrey J.; Davidson, Alistair; Monahov, Boris (February 2018). “Lead batteries for utility energy storage: A review”. Journal of Energy Storage 15: 145–157. doi:10.1016/j.est.2017.11.008.
- ^ “Product Specification Guide”. Trojan Battery Company (2008年). 2013年6月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年1月9日閲覧。
- ^ Technical Manual: Sealed Lead Acid Batteries, Power-Sonic Corporation, (2018-12-17), p. 19 2014年1月9日閲覧。
- ^ “All About Batteries, Part 3: Lead–acid Batteries”. UBM Canon (2014年1月13日). 2015年11月3日閲覧。
- ^ PS and PSG General Purpose Battery Specifications
- ^ PS Series - VRLA, AGM Battery, Valve Regulated
- ^ Crompton, Thomas Roy (2000). Battery Reference Book (3rd ed.). Newnes. p. 1/10. ISBN 07506-4625-X
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p “でんち(平成17年3月1日号)”. 電池工業会. pp. 7-8. 2021年3月1日閲覧。
- ^ a b c 梅尾良之著 ブルーバックス『新しい電池の科学』 講談社 2006年9月20日第1刷発行 ISBN 4062575302
- ^ Handbook Of Batteries (3rd ed.). New York: McGraw-Hill. (2002). p. 23.5. ISBN 978-0-07-135978-8
- ^ Dell, Ronald; David Anthony; James Rand (2001). Understanding Batteries. Royal Society of Chemistry. ISBN 978-0-85404-605-8
- ^ 興戸正純「電池用電極材料の電気化学特性」『まてりあ』第36巻第1号、1997年、10-14頁、doi:10.2320/materia.36.10。
- ^ 片山靖「1.二次電池におけるLi金属負極の利用」『電気化学』第86巻、電気化学会、2018年、281-285頁、doi:10.5796/denkikagaku.18-FE0027、ISSN 2433-3255、NAID 130007535153。 ,(有償公開)
- ^ JIS D0114:2000「電気自動車用語(電池)」番号 1304 「ベント形電池」の「参考」として「慣用語」が「開放形電池」と記されている。
- ^ JIS D0114:2000「電気自動車用語(電池)」番号 1301 「用語」。
- ^ JIS D0114:2000「電気自動車用語(電池)」番号 1301 「定義」。
- ^ 酒井茂、「自動車用,産業用鉛電池の現状と将来」『電気学会論文誌D(産業応用部門誌)』 Vol.111 (1991) No.8 P.626-632, doi:10.1541/ieejias.111.626
- ^ “鉛蓄電池業界の世界市場シェアの分析”. deallab (2023年1月27日). 2023年3月18日閲覧。
鉛蓄電池と同じ種類の言葉
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