誤植 概要

誤植

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/14 06:43 UTC 版)

概要

あるスーパーの値札における誤植。「ラブライブ!」と書かなければならないところが「ラブラブ」になっている。
「おつまみ」のメニューであるが、画像下部の文章では「おつまみ」とするべきところを「おつみま」になっている。

当初の誤植とは、「植字の誤り」、つまり活版印刷での印刷過程である組み版時のミスであり、植字工が起こす活字の組み間違いだった。活字の欠落、ひどい場合には単語そのものの欠落や、活字の配置間違い(たとえば「cat」を「act」など)は目立つミスであるが、文字サイズが9ポイントで指定されているのに、8ポイントや10ポイントのものが紛れ込んでしまう、ポイント間違いも含まれる。ただし、電算植字やDTPの普及発達によって、「誤植」の起こる組み版そのものが行われなくなっている。

手書きの文書の誤りは「誤記」という。「誤植」はおもに活版や写植などの大量印刷物の表記の誤りを指す言葉であり、文書処理ソフト上における綴り誤りはその誤り方によって「ミスタイプ」や「誤変換」という。しかし、インターネットの普及によって、ブログなど書いたものが直接公開されるものが一般化し、出版形態も印刷一辺倒でなくなったこともあって、誤記と誤植の差はなくなりつつある。

「誤植」はあくまでも「表記の誤り」のことを指す。たとえば「日本は米国より面積が広い」という文は事実に反するが、「日本」と「米国」を逆に植字してしまったり、本来は「狭い」とすべきところを誤って「広い」と植字してしまったなどの理由でなければ、これは誤謬であって誤植にはあたらない。そのような文の内容に踏み込んで誤りを正す作業は「校閲」という。

しかし、今日では上記のような内容の間違いによる誤謬、ミスタイプ、誤変換などもすべて一律に「誤植」と呼ばれるようになっている。しかし、そもそも植字をしていないのであれば誤植しようがなく、言葉としては誤りである。これは誤用の定着の一例といえる。本来ならば、誤記、誤謬など使い分けられるべきものが、誤植とひとまとめにされるようになった経緯は不明である。

誤植とは、本来意図した表現の一部が別の字に置き換わってしまう誤りである。大抵は気づけば元の表現に復元できるが、場合によっては深刻な誤解を生むこともある。たとえば、薬学の本で薬の量や、単位、種類を誤れば生命に直接関わる。百科事典や辞書などで間違いがあれば間違った知識が流布してしまう危険がある。同様に、小売店が商品の値段を書き間違えた場合には損を承知でその値段で売らざるを得なくなる事態も起きる。電子化された領域では、ヒューマンエラーやデータの破損などでこのような事態が発生することが考えられる。実際、一時期オンライン販売業界の界隈では価格の登録ミスによるトラブルがたびたび表面化し、いくつかの業者が損害を発生させたことから、現在では大半のオンライン販売サイトで、価格の誤表示については遡って無効とできる旨の断り書きをあらかじめ販売規約に入れておくなど、何らかの対処がなされている。

本来、誤植は編集作業の過程で「校正」によって正されるべきものである。校正は軽視されがちだが、誤植の有無は出版物や出版社の質を計る指針にもなりうる。校正が不十分な場合は刊行後にも誤植が残ることが多い。このため、論語子罕第九の「後生可畏」の句をもじって「校正畏るべし」の警句がしばしば言われる。逆に校正者の思い込みによって正しい表現に間違った修正がなされることも起こりうるが、表現に関して直接修正することは、校正者権限の逸脱でありもっとも忌避される。簡潔にいうと、校正者の職分は原稿通りに印刷されているかの検査であり、原稿内容には関与してはならず、表現修正に踏み込む場合は正誤確認のお伺いを立てて、著者や編集者に確認を取るにとどまる。ただし、近年に多い編集者が校正も兼ねている場合や、著者校に回す時間のない新聞などは別である。

刊行後に誤植が大量に判明した場合や緊急の場合には、修正箇所をまとめた正誤表が改版前に出されることもある。その正誤表や、正誤表の発行後にも刊行物でさらに誤植が発見される例もある。


注釈

  1. ^ 権藤の著書より抜粋した一部[42]
  2. ^ 記事の内容は画像として確認できる[44]

出典

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  9. ^ 1948年4月7日官報第6366号40頁。
  10. ^ 最高裁判所昭和30年(れ)第3号昭和32年12月28日大法廷判決、刑集第11巻14号3461頁
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