虚数
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/13 00:38 UTC 版)
- z = a + bi(a, b は実数、b ≠ 0)
と表される数のことである。
実数直線上にはないため、感覚的には存在しない数ととらえられがちであるが、実数の対、実二次正方行列、多項式環の剰余環の元として実現できる(複素数#形式的構成を参照)。
複素数平面上では、虚数全体は複素数平面から実軸を除いた部分である。
語源
実係数の三次方程式を解の公式により解くと、相異なる3個の実数解をもつ場合、虚数の立方根が現れ、係数の加減乗除と冪根だけでは表せない(還元不能)。虚数はこの過程で認識されるようになった。ルネ・デカルトは1637年に、複素数の虚部を 仏: "nombre imaginaire"(「想像上の数」)と名付けた[1]。
漢訳
「虚数」と訳したのは、1873年の中国数学書『代数術』(John Fryer(zh:傅兰雅), 華蘅芳著)である[2]。
日本では、東京数学物理学会が1885年に記事で "Impossible or Imaginary Quantity" を「虚数」と訳している[3]。
ただし、「虚数」と訳されている英語の "imaginary number" は、しばしば「2乗した値が 0 以下の実数になる複素数」を意味する場合がある[4]。
用語について
虚数とは、実数でない複素数のことである[5]。すなわち、虚数単位 i = √−1 を用いると
- a + bi(a, b は実数、b ≠ 0)
と表せる数のことである。特に、実部が 0 である虚数を純虚数という。
英語の "imaginary number" はふつうは虚数を意味するが、これはしばしば「2乗した値が 0 以下の実数になる複素数」を表すことがある。この定義によれば、複素数 z に対して、
- z2 = −y2 (y ≥ 0)
ならば、(z + yi)(z − yi) = 0, ∴ z = ±yi。ゆえに、この意味での imaginary number とは、0 または純虚数 (imaginary number) である[6][7]。
複素数平面における虚数
実数直線を拡張した複素数平面では、純虚数は、虚軸上の原点を除く部分の点である。虚数は、実数と純虚数の線型結合である。虚数全体は複素数平面から実軸を除いた部分である。
虚数の導入により、cos θ + i sin θ を作用させることは、複素数平面上での、原点を中心とする θ 回転に相当する。i2 = −1 より、虚数単位 i は、複素数平面上では、実数単位 1 を原点中心に 90° 回転した位置にある。
虚数の大小
虚数に通常の大小関係を入れることはできない[8][9]。つまり、複素数体 C は順序体でない。
(証明)[8]
- 背理法で示す。
- 虚数単位 i と実数の間に、+, × と両立する全順序があると仮定する。
- i2 = −1 より、i ≠ 0
- ∴ i > 0 or i < 0
- i > 0 ならば、両辺に i を掛けると、−1 > 0 となり矛盾。
- i < 0 ならば、両辺に i を掛けると、−1 > 0 となり矛盾。
- 故に i と実数の間に通常の大小関係はない。
- 故に、虚数にも通常の大小関係はない。(証明終)
辞書式順序は全順序であるが、複素数に入れると +, × と両立しない。
- ^ なぜ虚数単位iの2乗は-1になるのか?#6.3.2. 虚数の由来 x_seek
- ^ 片野 , 善一郎『数学用語と記号ものがたり』裳華房、2003年8月25日、63頁。
- ^ 「HONKWAI KIJI 3」『Tokyo Sugaku-Butsurigaku Kwai Kiji』第3巻第3号、1885年、172-233頁、doi:10.11429/subutsukiji1885b.3.172。
- ^ Ahlfors, Lars V. (1979). Complex Analysis. (3 ed.). New York: McGraw-Hill. pp. 1-4. ISBN 978-0070006577
- ^ 日本数学会 編『岩波数学辞典』(4版)岩波書店、2007年。ISBN 978-4000803090。
- ^ Weissteinn, Eric W. (1998). The CRC concise encyclopedia of mathematics. CRC Press. ISBN 978-0849396403
- ^ Hazewinkel, Michiel (1989). Encyclopaedia of Mathematics. Springer. ISBN 978-1556080043
- ^ a b ニューアクション編集委員会『NEW ACTION LEGEND数学2+B―思考と戦略 数列・ベクトル』(単行本)東京書籍、2019年2月1日、53頁。ISBN 978-4487379927。
- ^ Weisstein, Eric W. "Complex Number". mathworld.wolfram.com (英語).
- ^ Martinez, Albert A. (2005). Negative Math: How Mathematical Rules Can Be Positively Bent. Princeton University Press. ISBN 978-0691123097
邦訳小屋良祐 訳『負の数学―マイナスかけるマイナスはマイナスになれるか?』青土社、2006年12月1日。ISBN 978-4791763139。 - ^ “AspectsとGrundvorstellungen を視点とした複素数の定義活動の再考”. 2024年3月21日閲覧。
- ^ 片野善一郎『数学用語と記号ものがたり』裳華房、2003年8月25日、60頁。
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