落雷 建物・機器の落雷対策

落雷

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/01 02:25 UTC 版)

建物・機器の落雷対策

日本での落雷数は、8月には100万回を超える[26]。家電製品などの雷被害は非常に多く、日本では少なくとも年間、数万件の被害が発生していることがわかってきた。このため日本では特に建物・機器の雷対策が欧米の雷対策先進国よりも「遅れている」と言われるようになったが、事情は複雑である[26]

日本の建物・機器に関する本格的な雷対策技術は半世紀以上も前より世界トップレベルにある。2013年現在、完全に被害を無くすことはまだできないが、理論的・技術的に相当なレベルまで被害を無くすことが可能になっている。例えば、日本の危険物施設などで実施されている雷対策は十分な成果を挙げ続けており、小さな機器故障などはあるが、落雷による油タンク火災を例にすると、いまだ世界の油タンク火災が、圧倒的に落雷により発生しているのに対し、日本では統計のある1962年以降、落雷により発生した火災はわずか2件、最後の事故は1987年であり、以降、雷による事故報告は1件もない。これは日本全国に無数にあるガソリンスタンドなども含んだ数字である[27]

しかしこれとは対照的に日本の場合、一般への雷対策普及は遅々として進まず、年間、少なくとも数万件、数千億円の被害が発生し続けている現実がある。事実、電気設備数として最も数多い日本の一般家庭には電源用避雷器すら普及しておらず、2006年時点でその普及率はわずか1~2%程度である[28]。これは雷による感電・火災事故防止上、強制力を持って一般家庭への避雷器設置が進められている欧米諸国と比べると、桁違いに低い数字である。

この極端な差を生んでいる原因については、専門家の間でもさまざまな意見があるが、建物・機器の落雷対策はいわゆる「総合技術」であり、携わる技術者にはおよそ気象学にはじまり、電気工学電子工学通信工学機械工学化学工学建築工学土木工学といったところまでの広い専門知識が要求される。このことから日本雷保護システム工業会(JLPA)は、一般への広報と併せ、不足している専門技術者の育成を図り、雷保護製品等の品質、性能等について社会的信頼性の向上を図るといった活動をおこなっている[29]

以下、建物・機器の雷対策に用いられる主なものを挙げる。

避雷針

落雷の原理として、地面と上空との電位差から生じることがわかっている。このことから適切な位置に避雷針を設置して空中放電し、建物・機器に影響が及びにくいように導雷するとともに、あらかじめ地面と上空との電位差を軽減するという処置がとられる。建築基準法33条では、「高さ20メートルをこえる建築物には、有効に避雷設備を設けなければならない。ただし、周囲の状況によつて安全上支障がない場合においては、この限りでない。」と定められている[注釈 3]

避雷針には保護範囲があり、その範囲外にあるものは保護できない。JIS A 4201では、規定の「保護角」や「回転球体」などを用いて、範囲を定めるものとしている。国会議事堂やその他文化財のように長い、または高い形状の建物の場合、避雷針では十分な保護範囲が得られない場合もあり、棟上げ導体などを使用して広い保護範囲を得る事も行われている。また、雷ストリーマを発生させて保護範囲を広くしたものなど[30]、現在も新たな避雷針の開発が進んでいる。

しかし、この避雷針も雷の被害を完全に防ぐものではなく、通常の避雷針をビル等に設置した場合、設置位置によっては避雷針ではなく建物の角に落雷することもあるほか、避雷針の保護範囲に入っていても雷の直撃を受けることがある。このため、他の方法を組み合わせることがJIS A 4201などで規定されている。

雷サージ対策

雷サージによる家電製品やパーソナルコンピュータの被害を軽減するための方法として、2003年に、建物に適切な接地等電位化を行い、電気・電話線には適切に避雷器を設置することなどがJIS A 4201・JIS Z 9290-4などで規定された。また、電話線・CATVには、保安器の設置が義務付けられている。サージプロテクタというコンセント型の器具も販売されているが、単体使用するとかえって危険なこともある。

これらの対策をとってなお、家庭などにおいて雷サージによる家電製品やPC等の故障を防ぐためには、雷の時は電源ケーブルや電話線をコンセントから抜いておく事が望ましいとされる。


注釈

  1. ^ 詳細は、各電力会社のWebサイトを参照。
  2. ^ 2010年9月23日17:30-18:30のデータ閲覧。「警報」にあたる「活動度2」以上が出されたのは18:10、事故発生が18:00頃ということから、「警報」にあたる「活動度2」以上が出されたのは、事故発生直前か事故後であったことがわかる。ただし降水ナウキャストは17:45には強い雨雲の接近を捉えていた。
  3. ^ 避雷針に関しては、建築基準法施行令129条の中にも同様の項目がある。

出典

  1. ^ ベアトリス・M・ボダルト=ベイリー『ケンペルと徳川綱吉 ドイツ人医師と将軍との交流』中央公論社 1994年 p.95
  2. ^ 警察白書。1994年-2003年。
  3. ^ a b 2005 American Heart Association Guidelines for Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care Part 10.9: Electric Shock and Lightning Strikes.
  4. ^ 荒木 2014, pp. 219–227.
  5. ^ 岩槻 2012, pp. 198–199.
  6. ^ 加藤 2017, pp. 200–207.
  7. ^ a b c d e f g h i j k l 北川信一郎 (1992-04). “1991年度藤原賞受賞記念講演-人体への落雷と安全対策” (pdf). 天気 (日本気象学会) 39 (4): 189-198. https://www.metsoc.jp/tenki/pdf/1992/1992_04_0189.pdf. 
  8. ^ a b 高橋貞夫、北川信一郎 (2002-01). “人体の安全対策に重要な落雷の二つの特性”. 電気学会論文誌B (電気学会) 122 (1): 84-89. doi:10.1541/ieejpes1990.122.1_84. 
  9. ^ a b c d e 横山茂 (2008-10). “連載:実践的な人体への落雷防護方法 雷の接近の予知、検知”. 電気設備学会誌 (電気設備学会) 28 (10): 779-782. doi:10.14936/ieiej.28.779. 
  10. ^ インド北東部で落雷、83人死亡 モディ首相が弔意”. CNN (2020年6月26日). 2020年6月27日閲覧。
  11. ^ a b c d e f g h i j k l 雷から命を守るための心得”. 日本大気電気学会. 2023年3月6日閲覧。
  12. ^ 仲間を奪った落雷 事故の教訓、備えて夏に挑む 朝日新聞(2015年7月4日)、2016年3月25日閲覧。
  13. ^ a b c d e f 藤島新也. “「雷(カミナリ)」対策 落雷の注意点は?”. NHK防災. 日本放送協会. 2023年10月4日閲覧。
  14. ^ 電気学会技術報告第902号:2002年
  15. ^ 損保ジャパン「個人用火災総合保険」平成20年度データ。
  16. ^ 『雷から身を守るには-安全対策Q&A-改訂版』日本大気電気学会。
  17. ^ a b c NOAA公式サイト「National Weather Service Lightning Safety
  18. ^ 「規制免除について」 文部科学省放射線審議会基本部会報告書 2002年10月17日]
  19. ^ リーフレット「竜巻・雷・強ぃ雨 -ナウキャストの利用と防災-」
  20. ^ 「竜巻発生確度ナウキャスト及び雷ナウキャストの発表開始について」
  21. ^ フランクリンジャパン「ライトニングスコープ」[リンク切れ]
  22. ^ 北川信一郎『雷と雷雲の科学-雷から身を守るには』森北出版,2001年1月,p116-118
  23. ^ 雷から身を守るには エースライオン、2023年9月30日閲覧
  24. ^ a b c 気象庁リーフレット『リーフレット「急な大雨・雷・竜巻から身を守ろう!」』、2013年4月発表、2023年9月30日閲覧
  25. ^ NOAA Lightning Safety,Leon's Lightning Safety Game
  26. ^ a b 信越電気防災「雷対策なんでもQ&A」
  27. ^ 「NFPA 準拠の石油タンク落雷対策ボンディング設備にAPI の警報」危険物保安技術協会。
  28. ^ 社団法人日本配線器具工業会編 「電気工事技術情報」2006-8 Vol. 24 「内線規程改訂に対応する住宅用分電盤と雷保護装置」
  29. ^ 日本雷保護システム工業会
  30. ^ イオン放散式防雷システム
  31. ^ 世界で初めてレーザー誘雷の実証に成功
  32. ^ ロケットによる誘雷実験
  33. ^ ロケット誘雷による電力施設の雷害防止技術の開発
  34. ^ プルタルコス柳沼重剛「食卓歓談集」、岩波書店、2001年12月14日、ISBN 9784003366431 
  35. ^ 雷落とすとキノコ育った 岩手大成果
  36. ^ 塚本俊介、前田貴昭、池田元吉、秋山秀典「キノコ栽培へのパルス高電圧の利用」『プラズマ・核融合学会誌 = Journal of plasma and fusion research』第79巻第1号、プラズマ・核融合学会、2003年1月25日、39-42頁、doi:10.1585/jspf.79.39NAID 130000133720 
  37. ^ 食用きのこ増産用パルス高電圧発生装置の開発とその効果の検証 農業機械学会誌 Vol.74 (2012) No.6 p.483-489
  38. ^ キノコ栽培へのパルス高電圧の利用
  39. ^ きのこ増産装置(らいぞう)
  40. ^ 超高圧放電研究センター
  41. ^ 電力中央研究所 電力技術研究所 塩原実験場
  42. ^ 大蔵省、企画院など十官庁焼く(昭和15年6月21日 東京朝日新聞)『昭和ニュース辞典第7巻 昭和14年-昭和16年』p79 昭和ニュース事典編纂委員会 毎日コミュニケーションズ刊 1994年
  43. ^ 週末の天気『朝日新聞』1970年(昭和45年)11月20日夕刊 3面 11面






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