浄化槽法 浄化槽法の概要

浄化槽法

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/30 02:56 UTC 版)

浄化槽法

日本の法令
法令番号 昭和58年法律第43号
種類 環境法
効力 現行法
成立 1983年5月11日
公布 1983年5月18日
施行 1985年10月1日
所管 環境省国土交通省
主な内容 浄化槽の清掃についての規制など
条文リンク 浄化槽法 - e-Gov法令検索
テンプレートを表示

構成

  • 第1章 総則(第1条 ― 第4条)
  • 第2章 浄化槽の設置(第5条 ― 第7条の2)
  • 第3章 浄化槽の保守点検及び浄化槽の清掃等(第8条 ― 第12条の3)
  • 第3章の2 浄化槽処理促進区域
    • 第1節 浄化槽処理促進区域の指定(第12条の4)
    • 第2節 公共浄化槽(第12条の5 ― 第12条の17)
  • 第4章 浄化槽の型式の認定(第13条 ― 第20条)
  • 第5章 浄化槽工事業に係る登録(第21条 ― 第34条)
  • 第6章 浄化槽清掃業の許可(第35条 ― 第41条)
  • 第7章 浄化槽設備士(第42条 ― 第44条)
  • 第8章 浄化槽管理士(第45条 ― 第47条)
  • 第9章 条例による浄化槽の保守点検を業とする者の登録制度(第48条)
  • 第10章 雑則(第49条 ― 第58条)
  • 第11章 罰則(第59条 ― 第68条)
  • 附則

定義(第2条)

浄化槽
便所と連結して、し尿および生活排水・雑排水(ただし工業排水、雨水、その他特殊な排水を除く)を処理し、下水道法2条第6号に規定する下水道以外に放流する設備(2条第1号)。し尿処理施設廃棄物の処理及び清掃に関する法律6条第1項)は本法の適用対象外。[3]2条第1号の記述では合併処理浄化槽のみを浄化槽と定義しているが、単独処理浄化槽についても経過措置として浄化槽法の適用対象としている。[4] [3]。このような単独処理浄化槽はみなし浄化槽と呼ばれる(規則1条第3号)。[5]
公共浄化槽
浄化槽処理促進区域内(12条の4第1項)にあり、市町村の設置計画(12条の5第1項)により設置され、市町村が管理する浄化槽。または浄化槽処理促進区域内で個人が設置した浄化槽が寄贈または寄託され12条の6の規定により市町村が管理することとなった浄化槽(同第1号の2)。[6][7]
浄化槽工事
浄化槽を設置、または構造や規模を変更する工事のこと(同第2号)。浄化槽工事には工事の技能のほか浄化槽の各装置や構造に関する知識を要する。浄化槽の設置とは、浄化槽の本体や付属の各装置を浄化槽の構造基準(4条第2項)に合うように施工、管渠を敷設すること。構造や規模の変更とは例えば浄化槽の処理方式を変更したり、処理水量を変更する工事を行うこと。[8]
浄化槽の保守点検
浄化槽の点検、各種機器の調整又はこれらに伴う修理をする作業のこと(同第3号)。例えば、汚泥移送装置を使用するなどして汚泥を槽内で移動させる、洗浄装置を使用するなどして生物膜を接触材から剥離する、スクリーンから付着物を除去する、破損した部品を修理・交換する、水平のくるいを調整する、などの操作があてはまる。汚泥・スカムを槽外に引き出す行為は後述の清掃にあたる。[8]
浄化槽の清掃
浄化槽内に発生した汚泥・スカムの引き出し、引き出し後の汚泥の調整、浄化槽内の機器類の洗浄、およびそれに伴う作業のこと(同第4号)基本的には保守点検の結果に基づいて行われる。引き出した汚泥・スカムは廃棄物処理法で定義される一般廃棄物となる。[9]
浄化槽製造業者
13条第1項または第2項の認定を受けた浄化槽を製造する事業者のこと(同第5号)。工場で規格が一定した浄化槽を製造する場合、その浄化槽は国土交通大臣による型式認定を受けなければならない。この型式認定を受けた浄化槽を製造する業者が浄化槽製造業者となる。[9]
浄化槽工事業者
都道府県知事の登録を受けて、浄化槽工事を行うもの(同第7号)。ただし建設業法による土木工事業、建築工事業、管工事業の許可を受けている業者は登録の必要はない。[10]
浄化槽清掃業
市町村の許可を得て、浄化槽の清掃を営むもの(同第9号)。許可の申請方法は規則10条、許可の技術上の基準は規則11条で定められる。
浄化槽設備士
42条第1項の規定により国土交通大臣から免状を受けて浄化槽の工事を監督する立場のもの(同第10号)。国家資格。浄化槽工事業者は営業所ごとに浄化槽設備士を置くことになっている。[10]
浄化槽管理士
45条第1項の規定により環境大臣から免状を受けて、浄化槽の保守点検の業務に従事するもの(同第11号)。国家資格。[10]

総則

浄化槽によるし尿処理等(第3条、第3条の2)

何人も浄化槽で処理したあとでなければ、し尿を公共用水に放流してはならない。ただし公共下水道終末処理施設し尿処理施設(コミュニティ・プラント[注釈 1]を含む)で処理する場合は除く(3条第1項)。[11]浄化槽でし尿を処理する者は、何人も浄化槽で処理した後でなければ、雑用水を公共下水道に放流してはならない。(同第2項)つまりし尿のみを処理する単独処理浄化槽の設置を原則禁止するものである。平成12年の浄化槽法改正により追加された。[4]浄化槽を使用するものはその機能を正常に保つため環境省令で定める準則を守らなければならない(同第3項)。環境省令で定める準則とは環境省関係浄化槽施行規則の1条[注釈 2]に定められるもの。内容は次の通り。[5]

  1. し尿を流す水は適正量であること(規則1条第1号)。
  2. 殺虫剤や洗剤など、浄化槽の正常な機能を妨げるものは流さないこと(同第2号)。
  3. 単独処理浄化槽に雑排水を流入させないこと(同第3号)。
  4. 工場排水、雨水、その他特殊な排水を流入させないこと(同第4号)。
  5. ポンプや送風機(ブロワ)など電気設備を有する浄化槽にあっては、電源を切らないこと(同第5号)。
  6. 浄化槽の上や周囲に、清掃や保守点検の支障になるものを置いたり、構造物を設けたりしないこと(同第6号)。
  7. 上から浄化槽の機能に支障をあたえるほどの荷重をかけないこと(同第7号)。
  8. 通気装置の開口部を塞がないこと(同第8号)。
  9. 故障や異常があったときは直ちに浄化槽の管理者にその旨を通報すること(同第9号)。

何人も、便所と連結してし尿などを処理し、下水道以外の公共用水域に放流するための施設として、浄化槽以外のものを使用してはならない。ただし下水道法5条第1項第5号の下水道の予定処理区域における、し尿のみを処理する設備はこの限りではない(3条の2第1項)。つまり予定処理区域は例外的に単独処理浄化槽の設置が可能。[12]この単独処理浄化槽は、この法律においては浄化槽とみなす(同第2項)。つまり通常の浄化槽と同じように保守点検、清掃などの義務が発生するみなし浄化槽とする[13]。またこの単独処理浄化槽は第51条の援助の規定の適用をうけることができない。[13]

浄化槽に関する基準(第4条)

環境大臣は浄化槽で処理され公共用水域等に放流される水の水質について、技術上の基準を定める(第4条第1項)。この技術上の基準は、規則1条の2[注釈 3]で次のように定められる。[14]

  • 浄化槽からの放流水の生物化学的酸素要求量(BOD)が1リットルにつき20ミリグラム以下であること。
  • 浄化槽への流入水のBODの数値から、浄化槽からの放流水のBODの数値を引いた数値を浄化槽への流入水のBODの数値で除して得た割合(BOD除去率)が90パーセント以上であること。
  • みなし浄化槽についてはこの限りではない。

浄化槽からの放流水は、消毒槽に入る直前の処理水を採取して試験を行う。[14]

浄化槽の構造基準については建築基準法並びにこれに基づく命令または条例で定められる(同第2項)。また浄化槽の構造基準は第1項の、浄化槽からの放流水に関する技術上の基準をクリアするよう定めなければならない(同第3項)。浄化槽の構造基準は本法が公布される従前より、建築基準法による具体的な構造に関する基準が定められていた為、この基準に委ねるため第2項の規定が作られた。[14]まず、建築基準法第31条[注釈 4]に、「便所から排出する汚物を、終末処理場を有する公共下水道以外に放流しようとする場合は、屎尿浄化槽(その構造が汚物処理性能に関して政令で定める技術的基準に適合するもので、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認 定を受けたものに限る。)を設けなければならない」と規定されている。また同法第36条[注釈 5]にも「(前略)浄化槽、煙突及び昇降機の構造に関して、この章の規定を実施し、又は補足するために安全上、防火上及び衛生上必要な技術的基準は、政令で定める。」と規定されている。この「政令」とは建築基準法施行令32条[注釈 6]の規定をさす。この規定上では浄化槽の設置区域および処理対象人員に応じて、求められるべき処理性能を定めている。[14]また、地域の特性や水質などの事情により、建築基準法施行令の画一的な規定だけでは不十分な場合が想定されるため、第2項で「条例」による上乗せ規制が認められている。建築基準法40条[注釈 7]にも条例による制限の付加の規定がある。[15]

国土交通大臣は浄化槽の構造基準を設定、変更する場合はあらかじめ、環境大臣に協議しなければならない(同第4項)。浄化槽の構造設備は、設置後の保守点検や清掃の方法に密接に関係するため、この規定が設けられている。[15]

浄化槽工事の技術上の基準は国土交通省令・環境省令で定められる(同第5項)。[16]この省令は国土交通省・環境省の共同省令である、浄化槽工事の技術上の基準並びに浄化槽の設置等の届出及び設置計画に関する省令(昭和60年厚生省・建設省令第1号)第1条[注釈 8](以下本項では共同省令と表記する)をさす。[17]また地域の特性や水域の状態によって、第5項の基準のみでは浄化槽が十分機能せず、環境保全、公衆衛生上問題が起こりうると認めるとき、都道府県知事等は、条例で特別の定めを作ることができる(同第6項)。

浄化槽の保守点検の技術上の基準は環境省令に定められる(同第7項)。この基準は規則2条をさす。浄化槽の清掃の基準もまた環境省令に定められる(同第8項)。この基準は規則第3条をさす。


注釈

  1. ^ 環境用語集:「コミュニティプラント」”. EICネット. 一般財団法人環境イノベーション情報機構. 2023年5月21日閲覧。
  2. ^ 環境省関係浄化槽施行規則 第1条(使用に関する準則)”. e-Gov法令検索. 2023年5月29日閲覧。
  3. ^ 環境省関係浄化槽施行規則 第1条の2(放流水の水質の技術上の基準)”. e-Gov法令検索. 2023年5月29日閲覧。
  4. ^ 建築基準法 第31条(便所)”. e-Gov法令検索. 2023年5月29日閲覧。
  5. ^ 建築基準法 第36条(この章の規定を実施し、又は補足するため必要な技術的基準)”. e-Gov法令検索. 2023年5月29日閲覧。
  6. ^ 建築基準法施行令 第32条(法第31条第2項等の規定に基づく汚物処理性能に関する技術的基準)”. e-Gov法令検索. 2023年5月29日閲覧。
  7. ^ 建築基準法 第40条(地方公共団体の条例による制限の附加)”. e-Gov法令検索. 2023年5月29日閲覧。
  8. ^ 浄化槽工事の技術上の基準並びに浄化槽の設置等の届出及び設置計画に関する省令 第1条(浄化槽工事の技術上の基準)”. e-Gov法令検索. 2023年6月9日閲覧。
  9. ^ 建築基準法 第6条(建築物の建築等に関する申請及び確認)”. e-Gov法令検索. 2023年5月29日閲覧。
  10. ^ a b 浄化槽法第七条第一項及び第十一条第一項に規定する浄化槽の水質に関する検査の項目、方法その他必要な事項について(平成19年環境省告示第64号)” (PDF). 環境省浄化槽サイト. 環境省. 2023年6月19日閲覧。
  11. ^ a b 浄化槽法第七条及び第一一条に基づく浄化槽の水質に関する検査の項目、方法その他必要な事項について(平成7年06月20日衛浄33号)”. 環境省. 2023年6月19日閲覧。

出典

  1. ^ a b c 環境省【浄化槽サイト】浄化槽Q&A(回答集)”. 環境省. 2023年4月29日閲覧。
  2. ^ 浄化槽法の解説, p. 26.
  3. ^ a b 浄化槽法の解説, p. 29.
  4. ^ a b 浄化槽法の一部を改正する法律について(平成12年6月2日 生衛発958号)”. 環境省. 2023年5月9日閲覧。
  5. ^ a b 浄化槽法の解説, p. 40.
  6. ^ 浄化槽法の解説, p. 30.
  7. ^ 浄化槽法の解説, p. 165.
  8. ^ a b 浄化槽法の解説, p. 31.
  9. ^ a b 浄化槽法の解説, p. 32.
  10. ^ a b c 浄化槽法の解説, p. 33.
  11. ^ 浄化槽法の解説, p. 38.
  12. ^ 浄化槽法の解説, p. 41.
  13. ^ a b 浄化槽法の解説, p. 42.
  14. ^ a b c d 浄化槽法の解説, p. 45.
  15. ^ a b 浄化槽法の解説, p. 46.
  16. ^ 浄化槽法の解説, p. 50.
  17. ^ a b c 浄化槽法の解説, p. 66.
  18. ^ 浄化槽法の解説, p. 59.
  19. ^ 浄化槽法の解説, p. 62.
  20. ^ 浄化槽法の解説, p. 62-63.
  21. ^ 浄化槽法の解説, p. 59-60.
  22. ^ 浄化槽法の解説, p. 60.
  23. ^ 浄化槽法の解説, p. 65.
  24. ^ 浄化槽法の解説, p. 61.
  25. ^ a b 浄化槽法の解説, p. 69.
  26. ^ a b c 浄化槽法の解説, p. 70.
  27. ^ 浄化槽法の解説, p. 74.
  28. ^ 浄化槽法の解説, p. 75.
  29. ^ a b 浄化槽法の解説, p. 73.
  30. ^ 浄化槽法の解説, p. 99.
  31. ^ 浄化槽法の解説, p. 100.
  32. ^ 浄化槽管理者への設置と維持管理に関する指導・助言マニュアル p.35” (PDF). 環境省. 2023年6月27日閲覧。
  33. ^ 浄化槽法の解説, p. 113.
  34. ^ 浄化槽法の解説, p. 114.
  35. ^ 浄化槽法の解説, p. 130.
  36. ^ 浄化槽法の解説, p. 131.
  37. ^ 浄化槽法の解説, p. 126.
  38. ^ 浄化槽法の解説, p. 124.
  39. ^ 浄化槽法の解説, p. 123.
  40. ^ 浄化槽法の解説, p. 129.
  41. ^ a b 浄化槽法の解説, p. 133-134.
  42. ^ a b 浄化槽法の解説, p. 137.
  43. ^ a b 浄化槽法の解説, p. 138.
  44. ^ 浄化槽法の解説, p. 136.
  45. ^ 浄化槽法の一部を改正する法律等の施行について(令和2年3月5日環循適発第20030518号)” (PDF). 環境省. 2023年8月15日閲覧。
  46. ^ a b 浄化槽法の解説, p. 142.
  47. ^ 浄化槽法の解説, p. 139.
  48. ^ a b 浄化槽法の解説, p. 140.
  49. ^ 浄化槽法の解説, p. 143.
  50. ^ a b 浄化槽法の解説, p. 147.
  51. ^ 浄化槽法の解説, p. 146.
  52. ^ a b 浄化槽法の解説, p. 149.
  53. ^ 浄化槽法の解説, p. 150.


「浄化槽法」の続きの解説一覧




固有名詞の分類


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「浄化槽法」の関連用語

浄化槽法のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



浄化槽法のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの浄化槽法 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS