十二国記
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十二国記 | |
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ジャンル | 歴史[1]、伝奇[1]、ファンタジー[1]、群像劇[2] |
小説 | |
著者 | 小野不由美 |
イラスト | 山田章博 |
出版社 | 講談社 新潮社 |
レーベル | 講談社X文庫 講談社文庫 新潮文庫 |
刊行期間 | 1992年6月 - |
巻数 | 講談社X文庫版:全11巻 講談社文庫版:全9巻 新潮文庫版:既刊15巻(2019年11月現在) |
アニメ | |
原作 | 小野不由美 |
監督 | 小林常夫 |
脚本 | 會川昇(第1話 - 第40話) 藤間晴夜(第41話 - 第45話) ※2名共に「脚色」名義 |
キャラクターデザイン | 田中比呂人、楠本祐子 |
音楽 | 梁邦彦 |
アニメーション制作 | ぴえろ |
製作 | NHK |
放送局 | NHK |
放送期間 | 2002年4月9日 - 2003年8月30日 |
話数 | 全45話 |
テンプレート - ノート | |
プロジェクト | ライトノベル・アニメ |
ポータル | 文学・アニメ |
概要
『十二国記』は、神仙や妖魔の存在する中国風の異世界を舞台にしたファンタジー小説シリーズである。この異世界には十二の国が存在し、各国は王政国家である。麒麟が天の意思を受けて王を選び、王は不老の存在となり天の定めた決まりに従って統治を行う。このような舞台設定は、予言によって政治社会などを予測した古代中国の讖緯思想をベースにしており、人外の存在たちは『山海経』が参考にされている[4]。地球と十二国の世界は隣り合っており、天災「蝕」によって地球人が十二国の世界に流されることもあれば(海客・山客)、十二国の世界に生まれるはずの人間が生前に流されて地球に生まれることもある(胎果)。シリーズでは、本来あるべきでない場所に生まれた胎果や故国から引き離された海客、十二国の世界の人々の冒険や苦難が描かれるが、十二国すべてが舞台となるわけでない。政治を行う王、理想や野望を抱く官吏、市井の民などの多様な立場の人々が、過酷な運命のもとで必死に生きる姿を描いた骨太の物語である[4]。新潮社の担当編集者は「全編に貫かれているのは、生きることの難しさと如何に対峙していくかであると思います。」と述べている[4]。
最初に執筆された『魔性の子』(1991年)はホラー小説で、舞台は現代日本だった。小野が新潮社で『魔性の子』を書いたときに、背景となる想定世界として十二国世界が構築され、地図や年表、図表なども作っていた。講談社の編集者からファンタジーを書くことを提案された時に、このことを話したところ、書くように勧められ、結果として好評で十二国記シリーズが生まれた[5]。シリーズ1作目の『月の影 影の海』(1992年)から、少女小説レーベルの講談社X文庫ホワイトハートでファンタジーとして発表された。表紙と挿絵は山田章博で、人物や人外の存在が美しく迫力をもって描かれている[4]。小野は元々ファンタジーを読む方ではなく、ファンタジー作品を注文されてから 、C.S.ルイス『ナルニア国物語』やロジャー・ゼラズニイの『アンバーの九王子』を読み、自分なりのファンタジーの理想形ができていった[6]。小野は、十二国記のような物語は、ファンタジーというより神話や歴史絵巻の様なものだと考えているという[6]。本シリーズは少女小説としては珍しく、理想の政治を考えるというような、中国歴史小説ものに近い受け止められ方もあるようである[3][7]。とはいえ、十二国間では天が定めたとされる摂理により侵略が許されないため(これを破ると王は死ぬ)、商業面以外の外交は必要なく、現実の政治とはかけ離れている[3]。
元々小野は講談社X文庫ティーンズハートという少女小説レーベルで少女小説を書いており、読者の少女たちにファンレターで悩みを打ち明けられることがあった[6]。小野は、しいて言えばこの読者たちが陽子の原型であり、『月の影 影の海』は読者への返信の代わりであると述べている[6]。『月の影 影の海』は、少女向けとしてはあまりに重すぎるということで一度は没になり、紆余曲折があって出版された[6]。無理やり異世界に連れてこられた少女が、苦難に満ちた冒険の末に自分の居場所を見出すというこの物語は、「自己を探求し、真に帰属すべき場所を見出す」というファンタジーにおける大きなテーマが描かれており[3]、重すぎる、難しすぎるのではという出版社の一部の懸念に反して読者の少女たちの反応は好評だった[6][8]。人気により同一世界を舞台とする作品が増え、徐々に綿密な世界観が明らかにされていき、シリーズになった。主役は各話によって異なっており、日本の女子高生であったが十二国の世界に連れもどされ慶国の王となった陽子、陽子と同時代の日本に生まれたが戴国の麒麟であった泰麒(蒿里)、戦国時代の武家の跡取りであったが雁国の王となった尚隆、室町時代の貧民の子どもで延国の麒麟であった延麒(六太)など、胎果のキャラクターを中心にストーリーは展開する。シリーズの刊行は時系列ではなく、『ナルニア国物語』のように時代が前後しながら、様々な場所を舞台に物語が進んでいく。おもしろい物語と魅力的なキャラクターを持つこのシリーズは、普段ティーンズ向け作品を読まない層までファンを拡大させていった[3][7]。1996年には週刊誌の書評コーナーで評論家の北上次郎が『図南の翼』を絶賛し、2000年には雑誌『幻想文学』で評論家の石堂藍が紹介するなど、注目を集めた[8][7]。
2021年9月時点でシリーズ累計発行部数は1280万部を突破している[9]。「ダヴィンチ BOOK OF THE YEAR 2020」小説ランキング50では1位を獲得している[10]。また、2002年にNHKでテレビアニメ化されている。
2001年7月以降シリーズ新作は久しく発表されていなかったが、『yom yom vol.6』(2008年2月27日発売)にて、約6年半ぶりとなる新作短編、十二国記シリーズ番外編「丕緒(ひしょ)の鳥」が掲載され、同誌vol.12(2009年9月27日発売)にて、柳国を舞台とした短編「落照の獄」が掲載された。
出版社・レーベル
当初講談社X文庫ホワイトハート[注 1]から発刊されたが、読者層が成人層へ拡大し、2000年から一般向けの講談社文庫からイラストなしで刊行された。少女小説が一般の文庫に引き入れられた例はそれまでになく、少女小説の世界で同シリーズは非常に破格の作品であった[7]。
シリーズ誕生のきっかけとなった講談社の担当編集者が新潮社に転職して文庫編集部に配属されて、そのまま作者の担当者になり、2012年4月にシリーズが講談社から新潮社に移籍し、一般向けの新潮文庫から完全版が刊行される運びとなった[11]。同年7月以降、既刊の新装版、新作を含む短編集、新作長編が順次刊行された。これまで別作品という形だった『魔性の子』が、Episode-0巻としてシリーズの中に統合された。完全版の表紙・挿絵はホワイトハート版と同じ山田章博。詳細は#シリーズ全体の構成を参照。
シリーズ名
このシリーズは現在では公式に「十二国記」と呼ばれて表紙・カバーなどにも明記されている。しかし当初はこのような表記はされておらず正式な名称は無かった。「十二国記」というシリーズ名が付されるのは1994年9月に出版された『風の万里 黎明の空(下)』以降のことである。1994年6月の『東の海神 西の滄海』の著者による後書きには、シリーズ名はないが、読者はおおむね「十二国」と呼んでおり、自分も呼びやすいのでそう呼んでいるとある。「ダ・ヴィンチ」2003年7月号の著者インタビューによると、シリーズ名が付けられたのは編集部からの要望によるものである。
注釈
- ^ 以下「ホワイトハート版」と略す
- ^ この夢は水禺刀が未来の主である陽子に送った警告だったとされる。
- ^ アニメ版では壁落人との会話でこのやり取りが出た。
- ^ 天網では伯(人が出世だけで就ける位としては上から2番目)以上の位の官職は王の近親者、冢宰、三公諸侯に限る、と定められている。
- ^ 「麒麟はその国の戸籍に含まれない」という条文はあるが、他国の麒麟については言及がなく、荒民を受け入れるのと同じ扱いができる。
- ^ 三公に任命できるのはその国の戸籍を持つ者だけだが、それが他国の麒麟であった場合について言及は無い。
- ^ 第40話のみ「小林常夫、栗原ひばり」の2名でクレジットされた。
- ^ 第1話から第4話のクレジットは「クリーチャーデザイン」。
出典
- ^ a b c 『ライトノベル完全読本』日経BP社、2004年8月1日発行、126頁。ISBN 4-8222-1704-3。
- ^ 石井ぜんじ / 太田祥暉 / 松浦恵介『ライトノベルの新・潮流 黎明期→2021』スタンダーズ、2022年1月1日、304頁。ISBN 978-4-86636-536-7。
- ^ a b c d e 石堂藍『ファンタジー・ブックガイド』 国書刊行会、2003年
- ^ a b c d 担当編集者が語る「十二国記」の魅力 | 新潮文庫メール アーカイブス 2012年08月10日 新潮社
- ^ 「ダ・ヴィンチ」2012年9月号「特集 小野不由美」
- ^ a b c d e f Fuyumi Ono, Author of The Twelve Kingdoms Mar 18th 2007 Anime News Network
- ^ a b c d 石堂藍「挑戦するファンタジー」『幻想文学58 特集 女性ファンタジスト2000』、幻想文学企画室 編集、アトリエOCTA、2000年
- ^ a b 朝宮運河 累計780万部突破! 脅威のファンタジーシリーズ「十二国記」の魅力 2012.8.7 ダ・ヴィンチニュース
- ^ “「 国記」の歩き - 小野不由美「十二国記」”. 新潮社公式サイト. 2022年1月19日閲覧。
- ^ 『ダヴィンチ 2020年1月号』24頁
- ^ 長岡義幸「新潮社ヒット連発、10年ぶりの快進撃」『創』2020年2月号
- ^ “十二国記 月の影 影の海(上)”. 講談社. 2021年3月31日閲覧。
- ^ “十二国記 月の影 影の海(下)”. 講談社. 2021年3月31日閲覧。
- ^ “十二国記 風の海 迷宮の岸(上)”. 講談社. 2021年3月31日閲覧。
- ^ “十二国記 風の海 迷宮の岸(下)”. 講談社. 2021年3月31日閲覧。
- ^ “十二国記 東の海神 西の滄海”. 講談社. 2021年3月31日閲覧。
- ^ “十二国記 風の万里 黎明の空(上)”. 講談社. 2021年3月31日閲覧。
- ^ “十二国記 風の万里 黎明の空(下)”. 講談社. 2021年3月31日閲覧。
- ^ “十二国記 図南の翼”. 講談社. 2021年3月31日閲覧。
- ^ “十二国記 黄昏の岸 暁の天(上)”. 講談社. 2021年3月31日閲覧。
- ^ “十二国記 黄昏の岸 暁の天(下)”. 講談社. 2021年3月31日閲覧。
- ^ “十二国記 華胥の幽夢”. 講談社. 2021年3月31日閲覧。
- ^ “月の影 影の海(上)”. 講談社. 2021年3月31日閲覧。
- ^ “月の影 影の海(下)”. 講談社. 2021年3月31日閲覧。
- ^ “風の海 迷宮の岸”. 講談社. 2021年3月31日閲覧。
- ^ “東の海神 西の滄海”. 講談社. 2021年3月31日閲覧。
- ^ “風の万里 黎明の空(上)”. 講談社. 2021年3月31日閲覧。
- ^ “風の万里 黎明の空(下)”. 講談社. 2021年3月31日閲覧。
- ^ “図南の翼”. 講談社. 2021年3月31日閲覧。
- ^ “黄昏の岸 暁の天”. 講談社. 2021年3月31日閲覧。
- ^ “華胥の幽夢”. 講談社. 2021年3月31日閲覧。
- ^ “十二国記 魔性の子”. 新潮社. 2021年3月31日閲覧。
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- ^ “十二国記 東の海神 西の滄海”. 新潮社. 2021年3月31日閲覧。
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- ^ “十二国記 風の万里 黎明の空(下)”. 新潮社. 2021年3月31日閲覧。
- ^ “十二国記 丕緒の鳥”. 新潮社. 2021年3月31日閲覧。
- ^ “十二国記 図南の翼”. 新潮社. 2021年3月31日閲覧。
- ^ “十二国記 華胥の幽夢”. 新潮社. 2021年3月31日閲覧。
- ^ “十二国記 黄昏の岸 暁の天”. 新潮社. 2021年3月31日閲覧。
- ^ “十二国記 白銀の墟 玄の月(第一巻)”. 新潮社. 2021年3月31日閲覧。
- ^ “十二国記 白銀の墟 玄の月(第二巻)”. 新潮社. 2021年3月31日閲覧。
- ^ “十二国記 白銀の墟 玄の月(第三巻)”. 新潮社. 2021年3月31日閲覧。
- ^ “十二国記 白銀の墟 玄の月(第四巻)”. 新潮社. 2021年3月31日閲覧。
- ^ 「十二国記」は海外でも翻訳出版されています。 十二国記新潮社公式サイト
- ^ “「十二国記」画集〈第一集〉久遠の庭”. 新潮社. 2022年12月5日閲覧。
- ^ “「十二国記」画集《第二集》青陽の曲”. 新潮社. 2022年12月5日閲覧。
- ^ “「十二国記」30周年記念ガイドブック”. 新潮社. 2022年12月5日閲覧。
- ^ 十二国記FAQ[リンク切れ]
- ^ 新潮社完全版『華胥の幽夢』解説より。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t “十二国記|アニメ声優・キャラクター・登場人物・2002春アニメ最新情報一覧”. アニメイトタイムズ. 2023年4月23日閲覧。
- ^ “十二国記公式アニメガイド”. 講談社. 2021年3月31日閲覧。
- ^ “「十二国記」アニメ脚本集 1”. 講談社. 2021年3月31日閲覧。
- ^ “「十二国記」アニメ脚本集 2”. 講談社. 2021年3月31日閲覧。
- ^ “「十二国記」アニメ脚本集 3”. 講談社. 2021年3月31日閲覧。
- ^ “「十二国記」アニメ脚本集 4”. 講談社. 2021年3月31日閲覧。
- ^ “「十二国記」アニメ脚本集 5”. 講談社. 2021年3月31日閲覧。
- ^ “東の海神 西の滄海”. 講談社. 2021年3月31日閲覧。
- ^ “十二国記 〜紅蓮の標 黄塵の路〜(PS2)の関連情報/ゲーム・エンタメ最新情報のファミ通.com”. ファミ通.com. 2024年1月24日閲覧。
- ^ “十二国記 〜赫々たる王道 紅緑の羽化〜(PS2)の関連情報/ゲーム・エンタメ最新情報のファミ通.com”. ファミ通.com. 2024年1月24日閲覧。
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