力石 力石の概要

力石

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/28 06:09 UTC 版)

無銘の力石。手前100kg、左50kg、右45kg
(さいたま市、2006年8月)

起源と歴史

力石の起源を石占に求める説がある。石占とは、神社・寺院に置かれた特定の石を持ち上げて重いと感じるか軽いと感じるかによって吉凶や願い事の成就を占うものである。もともと占いのために持ち上げていたものが、娯楽や鍛錬のための力試しになったというのがこの説である。しかし、全国の力石を調査した高島愼助によれば、石占的な談話はほとんど聞かれなかったとのことである。

石占で用いられる力石を「重軽石(おもかるいし)」と呼び(後述書 pp.112-113)、例として、埼玉県児玉郡美里村(現美里町)浅間神社では、何事か起きた場合、石を持ち上げ、軽く感じた時は、重く感じた時は凶と占い(後述書 p.112.石自体は紛失している。p.113)、また岐阜県加茂郡太田町でも同じ石占は行われており、病気・紛失物・商売を占う際に用いられ、こうした重軽石による占いは、出陣・天気・農作の豊凶を占うのにも用いられた[1]

力石の存在が確証されるのは、16世紀に作られた『上杉本洛中洛外図屏風』で、「弁慶石」の銘を持つ力石が描かれている。『土佐物語』巻第五にも、永禄年間のこととして、磐持ちがなされた記述がみられる。また、1603年の『日葡辞書』に力石の項があり、「力試しをする石」とされている。江戸時代の連歌に「文治二年の力石もつ」という句があり、おそらく文治2年(1186年)の銘か言い伝えがある力石があったとみられる。現存する力石に刻まれた年としては、寛永9年(1632年)が知られているかぎりもっとも古い。

江戸時代から明治時代にかけては力石を用いた力試しが日本全国の村や町でごく普通に行われていた。個人が体を鍛えるために行ったり、集団で互いの力を競いあったりした。神社の祭りで出し物の一つとして力試しがなされることもあった。

20世紀後半に力試しの習俗は廃れ、かつてあった力石のほとんどは行方不明になった。一部では住民が喪失を惜しんで力石を神社に奉納、境内に安置した。また後には自治体の民俗文化資料館に置かれたり、看板を立てて所在と由来を示したりして残された。21世紀初めまでに高島愼助が調査して報告した数は約14000[2]、市町村が有形文化財とした力石は日本に約350個(例として、沼名前神社智恩寺 (宮津市)太宰府天満宮志賀海神社など)、無形文化財に指定された力持ち(力試し)は1ある。また、18の力持ちの大会が神社の祭りや非宗教的大会として開催されている[3]

力石

石の形は表面が滑らかな楕円形が多い。滑らかな石は持ち上げにくいが、体に傷をつけずにすむ。ほとんどの力石は60キログラムより重い。米俵より軽くてはわざわざ石を用意する意味がないという事であるらしい。上限は様々で、中には300キロに達するものもある。あまりに重い石は1人で持ち上げることは不可能だが、それはそれで別の挑戦方法がある。

人々は、山や川原で手ごろな大きさの石を見つけて村に持ち帰り、力石とした。重さが異なる石を複数用意することが多かった。置き場所は神社や寺院、空き地、道端、民家のなど様々であったが、若者が集まるのに都合が良い場所であった。

石に文字を刻むことも盛んに行われた。「力石」という普通名詞としての名のほか、石に与えられた「固有名」を刻んだものがある。また、持ち上げた人の年月日を記念に刻んだものもある。しかし大半は無銘で、慣習と記憶が薄れるとただの大きな石と区別がつかなくなる。例として、静岡県三島市の右内神社の境内には3つの力石があり、1つは「女石」と呼ばれ、重さにして23貫(86キログラム前後)あり、力女が持ち上げたと伝わる(右内神社境内の看板説明。他の2つは34貫と32貫の重さがある)。

一例としては、山形県鶴岡市大泉では、米75分から6斗石、5斗石の力石があり、肩上げ・両ざし・片手ざしなどで競ったされる[4]


  1. ^ 韮塚一三郎編『埼玉県伝説集成 分類と解説 下・信仰編』(北振図書、1974年)pp.112-113
  2. ^ 高島愼助 全国の力石研究
  3. ^ 高島愼助『北海道・東北の力石』(岩田書院、2005年)
  4. ^ a b 文化庁文化財保護部監修『日本民俗資料事典』(第一法規、1969年) p.293
  5. ^ 大録義行編『那珂の伝説 下』(筑波書林、1984年) pp.120 - 121
  6. ^ 川崎陽堂『浦和市史蹟と伝説』、韮塚一三郎編『埼玉県伝説集成 分類と解説 下・信仰編』(北振図書、1974年)p.111
  7. ^ 大録義行編『那珂の伝説 上』(筑波書林、 1984年) p.72
  8. ^ 『ニ上村史』(1956年) p.549


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