フォンタン手術
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フォンタン手術 | |
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治療法 | |
ICD-9-CM | 35.94 |
MeSH | D018729 |
本項では、上大静脈からの静脈血を肺動脈に流すグレン手術(英: Glenn procedure)についても併せて記載する。グレン手術は、フォンタン手術を行う前段階の手術として行われることが多い。
手術適応
対象疾患
現在ではフォンタン手術は、以下の原因による単心室・機能的単心室に対する機能的修復術として行われている。
単心室症の循環では、肺循環・体循環に血液を送り出すことが出来る、有効に機能する心室が一つしか無い。その循環動態は肺循環への血流と体循環への血流の、両者の微妙なバランスの上に成り立っている。肺循環が不十分な場合はチアノーゼの原因となり、体循環が過剰な場合は心不全の原因となるが、逆に肺への血流が過剰になると体循環の血流量が不足しショックを来す。加えて、単心室は肺と全身臓器の両方に血流を拍出しなければならないために、その分過剰な仕事量が課せられることになる。結果として体重増加不良につながり、また風邪などの軽症疾患に罹患するだけで心代償不全を起こしやすくなる。
後述するように出生直後にグレン手術・フォンタン手術を行うことは出来ないため、この段階を乗り切るために、利尿薬などの内服治療が使用される。外科治療としては、BTシャント術、肺動脈絞扼術、ノーウッド手術などの姑息手術が循環動態に応じて施行される。
患児が成長して肺動脈圧も十分下がった段階で、グレン手術・フォンタン手術が検討されることになる。実施時期は生後3ヶ月~半年にグレン手術、1歳~2歳にフォンタン手術を行うことが多いが、施設によっても方針が異なる。
フォンタン循環成立の条件
フォンタン手術後の血行動態(フォンタン循環)が成立するために重要な条件は、肺血管抵抗と心臓のコンプライアンスである。
フォンタン術後では、肺への血流は心拍出によらず静脈圧だけで流れなければならない。したがって肺血管抵抗が高い(肺高血圧)状態ではフォンタン循環が成立しないため、フォンタン手術を行うことが出来ない。通常は何度か心臓カテーテル検査を行って肺血管抵抗を測定し、患児がフォンタン循環に耐えうるかを慎重に検討する。出生直後にフォンタン手術を行うことが出来ないのもこのためである。新生児は生理的肺高血圧の状態にあるため肺血管抵抗が高く、下がるには数ヶ月単位の期間を要する。
同様に、肺動脈自体の径(太さ)も重要な条件である。肺動脈径の指標としては、左右肺動脈の断面積の和を体表面積で除したPA-index(PAI)が用いられる[3]。
また、肺の血流は拡張期に心臓に戻るため、心臓の拡張期コンプライアンスが良いことも必要な条件である。
術式の分類
フォンタン手術の術式には、フォンタンらにより報告された原法も含めて以下の術式がある。[4]
- 心房・肺動脈連結法(Atriopulmonary connection, APC法)
- フォンタン原法、右房血を肺動脈へ(1970年~1980年代後半)
- 大静脈・肺動脈連結法(Total cavopulmonary connection, TCPC法)
- 側方トンネル法(Lateral tunnel TCPC: TCPC-LT法)
- SVC-肺動脈吻合+IVC-心房側壁を介して肺循環へ(1988年~)
- 心外導管法(Extracardiac TCPC: TCPC-EC法)
- SVC-肺動脈吻合+IVC-人工血管を介して肺循環へ(1990年~)
- 手術時間が比較的短い、術後心機能が良い、術後に不整脈の発生が少ないなどの利点がある。
- 側方トンネル法(Lateral tunnel TCPC: TCPC-LT法)
フォンタン原法の右心房から肺動脈に接続していた理由は平たく言うと「フォンタンの勘違い」によるもので、当初彼は「三尖弁閉鎖の患者は通常の人より右心房の筋肉が発達しており、その収縮でなら右心室なしでも肺循環を支えられる。」と考えていたが、実際には肺循環の原動力は左心室の拍出力によるものであることが後に松田暉の実験[5]によって証明され、さらに1978年に日本の川島康生が単心室に血管の奇形[6]でほぼ全部の静脈血が流れる上大静脈を持つ患者の肺動脈に上大静脈をそのまま接続する手術(total cavopulmonary shunt(TCPS)手術・川島手術(Kawashima operation))を行い、循環に問題がなかったことから右心室だけではなく、右心房並びにその弁がなくても体全体の血液を肺に戻せることが分かったため、このように改良されていった[7][8]。
- ^ Fontan F, Baudet E (1971). “Surgical repair of tricuspid atresia”. Thorax 26 (3): 240–8. doi:10.1136/thx.26.3.240. PMC 1019078. PMID 5089489 .
- ^ Kreutzer G, Galindez H, Bono H, (1973). “An operation for the correction of tricuspid atresia.”. The Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery 66 (3): 613–21. PMID 4518787.
- ^ 中田誠介, 今井康晴 (1986). “低肺血流性先天性心疾患における肺動脈発育度の新しい定量的評価法”. 日本胸部外科学会雑誌 34 (2): 147-157 .
- ^ Leval, Marc R de (2005). “The Fontan circulation: a challenge to William Harvey?”. Nature Clinical Practice Cardiovascular Medicine 2 (4): 202–208. doi:10.1038/ncpcardio0157. PMID 16265484
- ^ 「犬の三尖弁を閉鎖して右心房と肺動脈を道管でつなぎ、疑似的な三尖弁閉鎖患者にフォンタン手術をした状態にした後、循環が安定したのを確認したうえで、電気刺激で心房細動を起こさせる。」というもの、もし右心房の力で肺血流が保たれているなら心房細動で血液が流れなくなるが、実際は心房細動分だけ流量が減っただけ(正常の心臓でもこの現象は起こる)だった。
- ^ 下大静脈がなく、冠静脈と肝静脈血以外は全て奇静脈を介して上大静脈に戻っていた
- ^ 川島(2010)p.276-277
- ^ 川島(2016)p.5-6
- ^ a b 川島(2016)p.5
- ^ http://www.dhg.org.uk/information/procedures.aspx
- ^ Bonita F. Stanton; Kliegman, Robert; Nelson, Waldo E.; Behrman, Richard E.; Jenson, Hal B. (2007). Nelson textbook of pediatrics Robert M. Kliegman, Richard E. Behrman, Hal B. Jenson, Bonita F. Stanton. Philadelphia: Saunders. ISBN 1-4160-2450-6
- ^ Yuan SM, Jing H (2009). “Palliative procedures for congenital heart defects”. Arch Cardiovasc Dis 102 (6-7): 549–57. doi:10.1016/j.acvd.2009.04.011. PMID 19664575 2010年2月27日閲覧。.
- ^ Jacqueline M. Leung (10 March 2004). Cardiac and vascular anesthesia: the requisites in anesthesiology. Elsevier Health Sciences. pp. 125–. ISBN 978-0-323-02043-5 2011年6月21日閲覧。
- ^ 藤井(2010)p.301
- ^ 腸管からの蛋白漏出を主病態とし,様々な臨床像を呈する疾患
- ^ 循環動態の変化に起因するこれらの遠隔期合併症をフォンタン術後症候群といい、術後10年で約50%が陥る。2015年に児童福祉法が改正され、小児慢性特定疾病に加えられた(小児慢性特定疾患情報センター - フォンタン(Fontan)術後症候群 概要)。
- ^ グレン手術の時に上大静脈から下大静脈右心房系に行く体静脈側副血行路もあるが、これはフォンタン手術を行えば臨床的な問題はない。(藤井(2010)p.304-305)
- ^ 藤井(2010)p.305
- ^ Mair DD, Puga FJ, Danielson GK (November 1992). “Late functional status of survivors of the Fontan procedure performed during the 1970s”. Circulation 86 (5 Suppl): II106–9. PMID 1423987.
- ^ Behrman, Richard E.; Robert M. Kliegman, Hal B. Jenson (2004). Nelson Textbook of Pediatrics (17th ed.). Saunders. ISBN 0-7216-9556-6
- ^ フォンタン手術の過去,現在,未来 - 日本小児循環器学会雑誌 第24巻 第1号 2008年 巻頭言
- 1 フォンタン手術とは
- 2 フォンタン手術の概要
- 3 治療方針
- 4 合併症・予後
- 5 参考文献
- フォンタン手術のページへのリンク