デジタル 片仮名表記

デジタル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/13 05:40 UTC 版)

片仮名表記

英単語 digital音写として一般に「デジタル」と「ディジタル」の二通りの表記が用いられる。

例えば日本産業規格 (JIS X 0001, JIS X 0005) などでは「ディジタル」という表記が用いられている(「ディジタル計算機」「ディジタル化する」「ディジタルデータ」など)。

「ディジタル」や「デジタル」の間で表記が揺れた要因として、1955年文部省が発行した『国語シリーズ27 外来語の表記 資料集』の影響が考えられる。同資料ででは次のように説明していた。

11.原音における「ティ」「ディ」の音は、なるべく「チ」「ジ」と書く。
  例 (中略)...  ラジオ(radio) ジレンマ(dilemma)
 ただし、原音の意識がなお残っているものは、「ティ」「ディ」と書いてもよい。

この資料集は実際には規則ではなくあくまで現状整理という位置付けだったようだが同年版の『記者ハンドブック』(共同通信社)の外来語の書き方の欄などメディア関係者が参照する資料に文部省資料集の主要な記述がそのまま転載され、事実上のガイドラインとなっていた[18]

時代が下って1980年代に入るころには洋楽視聴などさまざまな経路を通じて日本人が外国語の発音を直接耳にする機会が増えた影響か、1981年の『記者ハンドブック』第4版では「原音のティ、ディ、テュ、デュで慣用が定まっている場合はチ、ジ、チュ、ジュで書く」となっているのは、逆に言うと、新しく使われるようになった外来語では「ティ」や「ディ」などと原音に沿った書き方をするのが主流だと認めているということでもある[18]

1960年代から1970年代の専門書ではディジタル表記が圧倒的に使われていた。1960年代の一般紙では最先端の技術だった電子計算機は「ディジタル型」「ディジタル電子計算機」と書かれ、事実上のガイドラインがあっても1つの表記以外をあまり確認できなければ新聞も倣ったとみられる[18]

だが、一般人が使う慣用的表記としては「デジタル」が1970年代末までに定まり、現在ではそちらが使われ続けている[18]。 「デジタル」という表記が広まった理由の1つは時計の広告であり、1965年の東京時計製造パタパタ時計の新聞広告には「東京デジタル」とあり、1968年にソニーが「デジタル24」という名称のパタパタ時計式の時計ラジオ一体型製品を発売。どうやらメディアで広く宣伝するために1955年の文部省資料のガイドラインに沿った表記にしたと見られる[18]。1970年代後半にはデジタル腕時計のブームで広告には「デジタル」の文字が踊り、1978年にカシオ計算機山口百恵を起用したCMで山口が歌う「デジタルはカシオ」のフレーズが流行し、この結果、学術分野以外ではデジタルの語で急速に固まった[18]

広辞苑第三版(1983年)及び第四版(1991年)はデジタルがディジタルを参照させるようになっていたが、逆になったのは1998年の第五版であった[18]

なお、上述の複雑な経緯により「デジタルネイティブ」のような異なる時期の表記法が同居している複合的な外来語も出てきた[18]。(「デジタル」のほうは原音から離れた表記だが、「ネイティブ」のほうは1980年代以降に1955年版資料のガイドラインの影響を受けずに原音に沿った音で広まった外来語である[18]


注釈

  1. ^ たとえば書籍名でいえば、亀山充隆『ディジタルコンピューティングシステム』朝倉書店、2014年 / 鈴木博 『ディジタル通信の基礎』数理工学社 2012 / 伊原充博, 若海弘夫, 吉沢昌純『ディジタル回路』コロナ社、1999年 等々。他にもコンピュータ用語辞典や通信用語辞典の類の巻末の索引を見ると、「ディジタル・○○○○」などという用語がいくつも並ぶ。
  2. ^ 「デジタル」という表記のほうが今の日本で優勢であり、一般向けの百科事典の表記法として妥当であり、また技術者も「デジタル」と表記されることに慣れており特別な違和感などは感じず文章を読めるため。
  3. ^ デジタルコンピュータも、種類によっては、たとえば音響処理用のコンピュータなどでは、回路群の一部にDSPなどアナログ信号処理の回路を持つ場合があるので、コンピュータ内の全回路すべてがデジタル方式だけとは限らないが、一般にCPUの演算器やレジスタがデジタル方式になっていれば、たとえ一部にアナログ信号処理用のチップが含まれていても、デジタルコンピュータと呼ばれる。
  4. ^ つまり8ビットコンピュータ/16ビットコンピュータ/32ビットコンピュータ/64ビットコンピュータである。デジタルコンピュータのCPUの内部では、限られた桁数でしか数を表現できない。つまり無限の桁があるような実数はCPUの内部では表現できない。無限の桁の実数を扱えないのでしかたなく代用で使う《浮動小数点》という手法や、そのデメリットについては後述。
  5. ^ 出典の「まつもとゆきひろ」氏が指摘していることは、情報技術者の教科書の第一章の「誤差」の章に書かれていることと基本的に同じである。つまり、コンピュータで計算を行おうとする人なら誰でも当然知っておくべき知識、誰でも注意すべきことを説明している。「まつもとゆきひろ」氏の経歴は筑波大学第三学群情報学類卒業。1993年にオブジェクト指向スクリプト言語Rubyの開発に着手し1995年に公開。その後、ネットワーク応用通信研究所のフェロー、楽天技術研究所のフェロー。「まつもとゆきひろ」氏は、世界的に有名なプログラミング言語Rubyの開発者である。Ruby自体を開発した人である。(くれぐれも、「Rubyを使うプログラマ」や「Rubyでありきたりのプログラムを書いている人」という意味ではない。)プログラミング言語が内部で行っている処理(数値演算も含む)について、高度な知識、詳細な知識を持っている人物である。
  6. ^ しばしば、公式など普通の数式に書かれている普通の順に計算すると桁落ちが生じ、有効桁数が著しく減少する。プログラミングの段階で常に注意深く、桁落ちが起きる、桁落ちが起きる、と意識しつづけて、計算の順番を不自然なまでに入れ替えないと防げない。
  7. ^ 一方、アナログ処理の媒体(磁気テープ、供給電圧や電線など)は材料のバラツキや製造上の品質管理の都合上、仕様より高めの限界値で製造される(例えば全ての部品のばらつきが低い方向に振れても仕様を満たす設計の場合、同じ条件で高い方向に振れた場合は仕様より高めの限界値となる。)。また、電線などの伝送路も汎用品を使った場合は過剰に仕様より高い限界値を持っている。このため、入力が仕様より超過した場合、少しの超過では影響が少なく、媒体の真の限界値を超えると過大な影響がある。

出典

  1. ^ デジタル大辞泉【デジタル】
  2. ^ a b c 三宅真『Q&Aで読み解く情報通信技術の進化』2019, p.14「デジタル通信とアナログ通信、デジタルとアナログ」
  3. ^ a b c d e IT用語辞典e-word【デジタル】
  4. ^ 日本商工会議所 EC実践能力検定試験 2級 公式テキスト, p.164 「アナログとデジタルの違い」
  5. ^ 工藤利夫『図解電子用語の基礎解說』枝術評論社、1982 p.158
  6. ^ a b c 精選版 日本国語大辞典【デジタル】
  7. ^ 広辞苑第六版【デジタル】
  8. ^ a b c Merriam Webster【digital】[1]
  9. ^ Merriam Webster【analog】[2]
  10. ^ a b [3]
  11. ^ Merriam Webster, 【digital】[4]
  12. ^ a b c d e f g h 『基本情報技術者 標準教科書』オーム社、第1章「基礎理論」
  13. ^ 増井敏克『エンジニアが生き残るためのテクノロジーの授業 変化に強い人材になれる技術と考え方』2016、p.87
  14. ^ [5]
  15. ^ 『2020年版 基本情報技術者 標準教科書』(オーム社)pp.024-025,「誤差」の章
  16. ^ a b c d e まつもとゆきひろ著『まつもとゆきひろ コードの世界』日経BP、2009年。p.241
  17. ^ a b 首都大学東京(東京都立大学)、海岸・海洋工学研究室、新谷「数値計算における誤差」 「桁落ち」の節を参照のこと。
  18. ^ a b c d e f g h i “「ゲーム」はいつから当たり前に「テレビゲーム」などを指すようになった? 「デジタルゲーム」という言葉の歴史から調べてみた”. 電ファミニコゲーマー (マレ). (2020年10月8日). https://news.denfaminicogamer.jp/kikakuthetower/201008a 2020年10月30日閲覧。 






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