グアラニー語 音韻論

グアラニー語

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/06 16:06 UTC 版)

音韻論

分節音素

母音

aeiouはスペイン語やIPAで用いられているものと概ね同じであるが、[ɛ][ɔ]といった異音がわりあい頻繁に用いられる。y(または î、ï、ĭ)の音価は非円唇中舌狭母音/ɨ/である。ここまでの 6母音は口母音(: oral vowels)とも呼ばれ、各口母音はそれぞれ対応する鼻母音をもつ。口母音と鼻母音の区別は、後述する鼻音調和に関わってくる。

i ɨ u
e o
a

子音

子音は以下の通りである。括弧内の表記は、基本的には Gregores & Suárez (1967:116) において示されている、用いられる可能性のある全ての綴り方である。指定が複雑なものである場合には注釈を付した。

  両唇音 唇歯音 歯茎音 歯茎硬口蓋音 硬口蓋音 軟口蓋音 声門音
破裂音 [p] (p)   [t] (t)   [k] [注 2] [ʔ] (')
鼻音 [m][注 3]   [n][注 4]   [ɲ]  (ñ)[注 5] [注 6]  
前鼻音化音[注 7] [mb]  (mb)   [nd]   (nd)     [ŋɡ]  (ng)  
はじき音     [ɾ] (r)[注 8]        
摩擦音     [s] (s) [ɕ]  (ch)[注 9] [h][注 10]
接近音   [ʋ] (v)[注 11]      [j][注 12] [ɰ]  (g) [注 13]  

/ɕ//ʃ//ɰ//ɡ//ʋ//v/はそれぞれ相補分布を示す。また/j/方言により/dʒ/と発音されることもあり、声門閉鎖音 /ʔ/ は母音間にのみ認められる[注 14]。なお、Gregores & Suárez (1967:116) では上表の他に /č/(綴りはch)、/f/(綴りは f)、/δ/(綴りは d)、/l/(綴りは l)、/r/(綴りはr)、/ř/(綴りは rr)、/l̬/(綴りは ll)が見られる。歯茎ふるえ音/r/前鼻音化音/nt/歯茎側面接近音/l/は、グアラニー語固有の音価ではない[要出典]

超分節音素

強勢

強勢については、鼻母音を含む語では鼻母音に置かれる。鼻母音がなければアクセントが付された音節に、それもなければ最後の音節に置かれる[注 15]

音節構造

グアラニー語の音節は母音のみ、または子音+母音から成り立っており、閉音節二重子音は存在しない。すなわち (C)V(V) として表される。

鼻音調和

グアラニー語は世界でも数少ない、鼻音調和(: nasal harmony)を持つ言語である。すべての単語は語幹に下記の異音を一つでも含むか否かにより、鼻音と口音に分類される。そして特定の音素が「鼻音」である単語に現れる際には必ず鼻音化した異音が出現し、「口音」である単語に鼻音化した異音は現れず、鼻音と非鼻音である異音が共に現れる単語は存在しない。

ã - ẽ - ĩ - õ - ũ - ỹ - g̃ - m - mb - n - nd - ng - nt - ñ

また鼻音調和は、接頭辞や一定の前接辞を選ぶ際にも影響を及ぼしている。例えば後置詞である peta は、それぞれ鼻音である単語の後では menda に変化する。


注釈

  1. ^ なお、「ニャンデバ語」についてはタピエテ語の別名の一つともされている。詳しくはタピエテ語#名称を参照されたい。
  2. ^ Gregores & Suárez (1967:116) ではまず音素 /k/ について 1. a、o、u の前で c、e、i、î の前では k と綴られるか、あるいは 2. 常に k と綴られるかの2通りであるとされている。また、これとは別に /kʷ/ という音素が設定されており、その綴り方は cuku の2通りが示されている。
  3. ^ Gregores & Suárez (1967:116) では基本的に鼻母音の前では m、強勢のある非鼻母音の前では mb となるとされている。また強勢のない非鼻母音の前の場合いずれの表記も見られるが、mb と書かれる傾向の方が強いともしている。
  4. ^ Gregores & Suárez (1967:116) では基本的に鼻母音の前では n、強勢のある非鼻母音の前では nd となるとされている。また強勢のない非鼻母音の前の場合いずれの表記も見られるが、nd と書かれる傾向の方が強いともしている。
  5. ^ /j/ に対する注も参照。
  6. ^ Gregores & Suárez (1967:116) では /ŋ//ŋʷ/ という音素が見られ、それぞれ ng、ngu という綴りが当てられている。
  7. ^ Gregores & Suárez (1967:116) では、個々の音素としては扱われていない。
  8. ^ Gregores & Suárez (1967:116) には見られない。
  9. ^ Gregores & Suárez (1967:116) には ch または x と綴られる /ś/ が見られる。
  10. ^ Gregores & Suárez (1967:116) では見られず、代わりに /x/(綴りは jh または h)、/xʷ/(綴りは jhuまたはhu)が見られる。
  11. ^ Gregores & Suárez (1967:116) では /v/ に v、b の表記が当てられている。
  12. ^ Gregores & Suárez (1967:116) では /y/ という音素が見られるが、これは鼻母音の前では ñ となり、それ以外の場合には y となるとされ、j という綴りが当てられる場合もあるとされている。
  13. ^ Gregores & Suárez (1967:116) では /γ//γʷ/ という音素が見られ、それぞれ g、gu という綴りが当てられている。
  14. ^ 一方、Gregores & Suárez (1967:116) にはこのような制限については特に記されておらず、語頭に現れる場合には表記されないとの旨が記されている。
  15. ^ González (2005:36) や Goedemans & van der Hulst (2013) では鼻母音やアクセント記号のことについては特に触れることなく、単に最後の音節に置かれるとしている。また González は同時に彼女が主題としているタピエテ語の他、シリオノ語英語版やアバ・グアラニー語(Ava-Guaraní)といった同系統の言語はいずれも最後から2番目の音節に強勢があるものとしている。
  16. ^ González (2005:106) は Jensen (1998) がいわゆるトゥピ・グアラニー語族の言語における人称標識を4組に分けたとしている。
  17. ^ a b Gregores & Suárez は一切用いていない表現であるが、それぞれの接辞に反映されている二者の関係が分かりやすくなることを期し、便宜上用いることとする。
  18. ^ 一方、タピエテ語については González (2005:35) においてSOV型であると明言されている。

出典

  1. ^ Lewis et al. (2015a).
  2. ^ http://www.romanistik.uni-mainz.de/guarani/texte/Ley5598.pdf
  3. ^ Azuma, Shōji; 東照二. (2009). Shakai gengogaku nyūmon : ikita kotoba no omoshirosa ni semaru sociolinguistics. Tōkyō: Kenkyūsha. ISBN 978-4-327-40157-3. OCLC 469672689. https://www.worldcat.org/oclc/469672689 
  4. ^ カウフマン(2000)。
  5. ^ Mortimer (2006).
  6. ^ Website of Indigenous Peoples' Affairs which contains this information (スペイン語)
  7. ^ González (2005:11f).
  8. ^ 青木(2003:91)。
  9. ^ Lewis et al. (2015e).
  10. ^ Gregores & Suárez (1967:116).
  11. ^ たとえば Gregores & Suárez (1967:150) などを参照。
  12. ^ Nordhoff (2004).
  13. ^ Estigarribia 2020, pp. 50–51.
  14. ^ a b c d e f 青木(2003:102)。





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