2019年から2020年にかけての減光
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/09 08:25 UTC 版)
「ベテルギウス」の記事における「2019年から2020年にかけての減光」の解説
ベテルギウスは脈動する半規則型変光星(SRC)なので、その大きさや温度の変化により複数のサイクルで明るさが変化しているが、2019年末頃からベテルギウスは大きく減光し始め、2020年1月までにベテルギウスの視等級は0.5等級から1.5等級へと明るさにして約2.5倍暗くなり、1月30日には光電測光や眼視での観測結果からベテルギウスが2等星にまで暗くなったことが確実となった。同年2月にはThe Astronomer's Telegram(英語版)にて記録的な極小視等級1.614等級を記録し、さらに暗くなっていることが報告されている。ベテルギウスは現在、最近25年間の研究において「最も暗く低温」な状態にあるとされ、また、半径が収縮していると計算されている。天文雑誌のアストロノミーはこのベテルギウスの減光を「奇妙な減光」と述べており、これは差し迫っているベテルギウスの超新星爆発の予兆ではないかという憶測が一般的に推論されている。この減光によりベテルギウスは全天で最も明るく見える恒星で上位10位以内の1つであったのが、20位以下にまで降格することになり、近くに見えるアルデバラン(0.86等級)と比べても著しく暗くなった。天文学者らは今後約10万年以内に発生すると予想されたベテルギウスの超新星爆発が現在、切迫しているとは考えづらいという見解を示しているが、大手メディアの報道では、ベテルギウスで超新星爆発が起きようとしているという推論が議論されている。 2020年2月14日、ヨーロッパ南天天文台は、チリ・パラナル天文台の超大型望遠鏡 (VLT) による撮像を公開した。太陽系外惑星探索機器SPHERE (en:Spectro-Polarimetric High-Contrast Exoplanet Research) による画像では、2019年1月から12月にベテルギウスの明るさと形状が大きく変化したことが示された。また、中間赤外線撮像分光装置VISIR (VLT Imager and Spectrometer for mid Infrared) の画像では、ベテルギウスから放出されるダストプルームを捉えた。 このベテルギウスの変光について、ビラノバ大学の天文学者Richard Wasatonic、Edward Guinan、そしてアマチュア天文家のThomas Calderwoodは、5.9年周期の変光サイクルにおける通常の極小期と、425日周期の変光サイクルの通常より大きく減光する極小期が一致したことが、この大幅な減光の原因であると理論化している。他に考えられる要因として、巨大な対流セルが移動、収縮、膨張したことで起こる表面温度の低下、または地球方向へのダストの放出の結果とする仮説が立てられている。 2020年2月17日に、ベテルギウスの明るさがこの約10日間変化しておらず、増光に転じる兆候が示された。そして2月22日に、ベテルギウスの減光が完全に止まり、増光に転じ始めた可能性が報告された。 2月24日には、過去50年間の観測から、ベテルギウスの赤外線での外観に有意な変化が検出されなかったと報告された。これは2019年から2020年にかけてのベテルギウスの大幅な視覚的減光とは無関係であるとされ、中心核の崩壊が差し迫っているわけではないことを示唆している。また同日には、さらなる研究によって「粒子サイズの大きい星周塵」がベテルギウスを覆ったことで減光した可能性が最も高いことが示された。 6月、マックス・プランク天文学研究所の研究者らがサブミリ波で行った観測で、サブミリ波帯でもベテルギウスが20%も減光していたことが判明し、大きな塵が光を吸収して減光に大きく影響していた可能性が除外された。可視光線とサブミリ波が共に減光していたことから、ベテルギウスの表面温度が約200℃低下したとみられており、これはベテルギウスの表面の50~70%を覆い尽くす超巨大な黒点が表面に出現したことに起因するとみられている。 5月から8月にかけてはベテルギウスは地球から見ると太陽の近くに移動するため、地上からはほとんど観測できなくなる。ベテルギウスが2020年の合(地球とベテルギウスが正反対の方向にある)の状態に達する直前の明るさは0.4等級であったが、6月と7月に行われた太陽観測衛星STEREO-Aでの観測で、4月に行われた地上からの観測から約0.5等級減光していることが判明した。通常ならば2020年8月から9月にかけて明るさの極大期を迎え、次の極小期は2021年4月になると予測されていたので、これは驚くべきことであった。しかし、ベテルギウスの明るさは不規則に変化することも知られており、正確な予測は困難である。8月30日、天文学者の Costantino Sigismondi らは The Astronomer's Telegram にて2度目のベテルギウスから放出された塵の検出を報告した。この塵が、8月3日に2度目の極小期を迎えた大幅な減光と関連しているとみられる。 10月にアストロフィジカル・ジャーナルのオンライン版に掲載されたオーストラリア国立大学やカブリ数物連携宇宙研究機構などによる研究結果では、ベテルギウスは現在、κ機構と呼ばれる恒星全体の膨張と収縮を繰り返す状態にあり、今回の一連の大幅な減光はこの恒星の脈動に加えて放出された大量の塵が関係していることが示されている。
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