迷走する横手裁判
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/09 04:09 UTC 版)
稲村、横手両代議士とも、当初、撚糸工連元役員らからの金銭の授受について否定する発言をしていた。稲村については後にその主張を撤回し、1審判決が確定した。しかし、横手は受託収賄の嫌疑、ならびに金銭の授受そのものを否定し続け、1審で有罪、控訴審で逆転無罪、最高裁で破棄差戻、差戻審で有罪、再び最高裁に上告し上告棄却の決定を受け有罪が確定するに至る。 横手裁判がここまで迷走したのは、「現金授受の事実認定」という受託収賄容疑の根幹に関わる事実認定をめぐってそれを裏付ける物的証拠がないなかで撚糸工連の元役員両人の証言について信憑性をどう認定するかで判断が分かれたためだった。賄賂とされる現金は撚糸工連の使途不明金の中から捻出され、現金の受け渡しも手渡しだったため物的な証拠そのものが存在せず、「繊維族」だったとされる横手元代議士の国会質問等の間接的な証拠を除けば、「撚糸工連理事長、前専務理事証言の信憑性」如何によって判決の帰趨が決まるきわめて不安定な裁判であった。 第1審東京地裁では両人の発言を証拠とし横手に有罪判決を下した。有罪判決を受け横手は東京地裁の前で報道陣に対し顔をしわくちゃにしながら無実であることを訴え、控訴した。そして第2審東京高裁は横手らの国会質問などの間接証拠をそれほど重視せず、撚糸工連元役員両人の発言の信憑性を正面から判断し、以下の理由で逆転無罪とした。 撚糸工連理事長、前専務理事両人は既に公訴時効が成立していたことから、他の容疑について軽い処分、あわよくば執行猶予を受けたいがため、自己に有利になるよう謀り、検事の取調べに迎合した可能性が否定できない。 1回目の現金授受(1982年8月5日)について、人目につきやすいホテルの飲食店を現金受け渡し場所に選んだのは不自然。 2回目の現金授受(1982年8月10日)について、議員会館の部屋は急死した秘書の弔問客でごった返しており、賄賂を受け取れる状況ではなかった。 そして検察側の上告を受けて、最高裁は「撚糸工連理事長、前専務理事両人が検事の取調べに迎合していた可能性」という事実認定は根拠が乏しく誤りがあると指摘、撚糸工連側が「仮より機共同廃棄事業」の早期実施を迫られていたこと等の贈賄の背景となっている事実や、横手の国会質問等の間接証拠と撚糸工連理事長、前専務理事両人の供述証拠を総合的に判断した第1審と同じ手法で両人の証言に信憑性があると判断し、両人の証言について再度審理するよう破棄差戻判決を下した。最高裁が証言につき信憑性を認めたことで事実上横手の受託収賄容疑の証拠は基礎付けられることとなった。
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