病理学的検査と病理診断科
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/06 17:02 UTC 版)
「衛生検査所」の記事における「病理学的検査と病理診断科」の解説
登録衛生検査所は臨床検査技師等に関する法律で規定された施設であり、医師の指導監督のもとでの臨床検査のうち検体検査、病理学的検査が実施できる。なぜ登録衛生検査所で病理学的検査が行われるようになったか定かではないが、登録衛生検査所は病理学的検査を受託することができ病理標本が作製される。しかし病理標本に対する「病理診断は医行為である」との解釈があるので、登録衛生検査所から病理医または細胞診指導医にから診断または判定についての報告書作成を委託している。登録衛生検査所の病理学的検査報告書として病理医が作製し署名した病理検査報告書が医療機関に届けられる。つまり、病院・診療所から病理学的検査を衛生検査所が下請けし、病理診断・細胞診断を医師が孫請けするという構図である。 病理専門医を指導監督医として登録衛生検査所に雇用し、病理診断に従事させることで登録衛生検査所で病理診断が可能ではないかと誤解されているときがあるが、病理医が指導監督医であることと登録衛生検査所での病理診断ができることとは関係がない。衛生検査所の管理者が医師であっても衛生検査所が医行為を受託できるわけではない。医行為は医療機関でなければ行えないからである。 病理診断科と臨床検査科が標榜診療科となった(2008年4月1日から)。また診療報酬が改定され、第3部検査の病理学的検査が第13部病理診断に移り名称も病理組織顕微鏡検査は病理標本作製に変更された。これまでグレーであった登録衛生検査所の病理学的検査受託の是非は明確になったものと考えることができる。登録衛生検査所が受託する病理学的検査は、病変の判断である診断診断・細胞診断を含むことはできないと考えられる。登録衛生検査所が受託する病理学的検査は病理標本作製(特殊染色や電顕標本作製などを含む)、細胞診標本作製(ウイルス検出などを含む)、病変の判断を含まない検査に限定される。 病理学的検査は登録衛生検査所が受託可能な検査のひとつである。作製した病理標本、細胞診標本は、委託元の医療施設に返却される。作製した標本(検査結果)を受託元以外に送付することはできない。したがって委託元に返却された病理標本・細胞診標本を用いて診断が行われると考えられる。現在、登録衛生検査所でアルバイトしている病理医は、各医療機関で新設されるであろう病理診断科に非常勤勤務して、医療機関で病理診断・細胞診断を実施されるものと理解したい。今回の病理診断科導入の趣旨からして、自宅や医学部病理学教室での診断はできない。自宅を医療機関として届け出ることを検討することにもなろう。 登録衛生検査所が下請けし作製した病理標本を、医療施設である病理診断科に孫請けするなど、臨床検査技師法と医療法の渾然一体はあってはならない。衛生検査所と病理診断科の争いから病理診断科同士の争いに発展する。たちまち共倒れするだろう。そもそも、病理診断は医師が行う医行為であり、病理診断を行う病理医の責任や倫理が問われる分野である。病理診断を低価格で受託競争をすることを期待されてはいない。 2010年診療報酬改定では病理診断について第1節(「もの代」、ホスピタルフィー相当)と第2節(ドクターフィー相当)の定義が法文等で明示される必要がある。医療圏や各医療機関の医療機能充実のためには病理診断を評価して病理医不足を解消することも地域医療の課題である。病理診断を検査差益対象とするとき、検体検査に病理診断を含めて外注するとき、その地域で病理医は育たないのである。 日本病理学会理事長(2006-2008, 2008-2010)長村義之は、日本病理学会会報266号 3頁 において、衛生検査所での病理診断の在り方として「病理診断科を診療所として開設し(他の診療科との併設など),標本作製部分と診断部分を分離させる方向では如何か?」と述べている。 臨床検査専門医、病理専門医、細胞診専門医の制度が学会単位であること、検体検査に分類される尿沈渣、末梢血液像などの形態学的検査でも病変の判断が含まれていること、臨床検査技師の職務範囲が広範囲であること、さらに診療所等病理検査室のない医療施設への患者誘導政策などとの関係もあり、病理診断科の標榜で解決できないことも多い。
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